邂逅
その人影はかろうじて人だと認識できる程度に揺らめいていた。
(転移・・・しかも単体で・・・。)
本来単独での転移は相応の魔力を消費するため、ほとんど行う者はいない。
その為のゲートであるはずなのだが。
シオンとシルファは揺らめく人影の脇を駆け抜けると振り返った。
遠目には狼がこちらに駆けてきている中、その影は徐々に頭から足へと形を成していく。
その漆黒の髪は艶やかにで肩までかかっており、
そのまつげは女性と見紛う程に長く、
その肌は病弱なまでに青白く、
その体格はマントに隠れてはいるが長身で痩せ細っており、
その男はその場に降り立ったのだった。
「ズレたか・・・」
その男は低い声で呟いた。
その瞬間、狼達の群れが追い付いたかと思うと、その男目掛けて一斉に飛び掛かった。
「危ないっ。」
シオンが叫ぶより早くシルファが叫んでいた。
その男はシルファ達に見向きもせず、ゆっくりと白くしなやかな指を伸ばし、右手をかざした。
バシュッ!
その瞬間、大気が微かに震え、飛び掛かって来た狼達は空気の壁に弾かれた。
グルルッ・・・ウォーーーン
弾かれた狼の群れは即座に起き上がり一斉に男に向かい咆哮魔法を放つ。
無数の閃光が男に向かい飛来する。
男は左手を軽く振ると目の前に光の壁が現れた。
キィン!
光の壁が全ての閃光を跳ね返す。
(まさか、無詠唱魔法・・・・?この世界に下位魔法でも使える人間が居るなんて・・・。
それにほぼ同時に2つの無詠唱魔法を使えるなんて。化け物だ・・・。)
シオンはただただ唖然と見ている事しか出来なかった。
狼の群れは跳ね返された閃光を受けると、散り散りに逃げて行った。
狼の群れが居なくなったのを確認するとその男はシオン達の方を振り返り優しく微笑みこう言った。
「大丈夫かい?」
その顔は魔法の熟練度とは裏腹に20代にも見紛う若さであった。
2人はその場に立ち尽くしたまま、無言で頷いたのだった。