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上手な魔法の使い方  作者: 睦月
おてんばプリンセスと氷の王子
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解呪

「ねぇ、しー君、なんでこんな時間まで呪いを解かなかったの?」


シルファは素朴な疑問をシオンにぶつけた。

シルファが目覚めた時点ですでに大分時間が経過していた。


「あぁ、ラルフさんもさっきまで起きなくてさ。

レイナさんが付きっきりだったんだよ。」


シオンは答えながらベッドに近付く。

シルファもそれに続くとレイナは指輪を手にした。


「では始めます。」


ゆっくりと指輪を近付けるレイナ。

指輪は少しずつ輝き始め、その光は次第に強くなっていく。

指輪が結界に触れた瞬間、強い光と共にレイナの手が弾かれた。


「そんな・・・結界が解けない・・・・・・。」


「結界の威力が予想以上にあるわ。」


レイナの言葉にうどんを食べてるシグマが答えた。


「まがりなりに七星の一つの力を借りた結界だ。

その程度の指輪で解ける筈が無かろう。」


その言葉を聞くとレイナは両膝をついてうなだれた。

その瞳からは涙がこぼれる。


「じゃあ・・・お父様は・・・。」


「このままでは命はないだろうな。

暫くは持つかもしれんが。」


レイナの肩に手を置くラルフ。


「その女はおぬしに取ってなんだ?」


シグマはラルフに問う。


「この人は、俺にとって一番大切な人です。」


「では女、汝に問う。

その男はお主にとってなんだ?」


「もちろん最愛の人よ。」


レイナはきっぱりと答えた。


「ならば父親とその男、どちらか選べ!」



「なっ、何を言って。」


シグマは不遜な態度のまま、しかし極めて真剣な目で言った。


「選ばなかった方と2度と会わないと誓うなら、その男を助けてやろう。」


「何を馬鹿な事を・・・。」


レイナは明らかに動揺していた。


「我は至って真面目だ。

救いたいのだろう?

父親を。」


「・・・・・・。」


レイナは俯き、黙ってしまった。


「シグマ・・・何を言って・・・。」

「お主は黙っておれ。」


シグマがシオンを睨む。

その瞳は周りの空気全てを圧倒する。

シオンはその気迫に気圧されてそれ以上言葉を出せなかった。


「レイナ、明日街を出るよ。」


ラルフがレイナの肩を軽く叩いた。


「そんな・・・嫌よ。」


レイナは首を振るがラルフは強い眼で見つめた。


「たった一人の大切な父親だろ。」


「ラルフだって私にとってはたった一人しか居ないわ。」


負けじとレイナも言い返すが、決意に満ちたラルフの瞳は変わらない。


「さぁ、アルジュリア様を助けてくれ!」


「良かろう・・・。」


うどんの器から離れてシグマは寝ているアルジュリアの頭上に止まった。


バシュッ


赤い光と青い光がぶつかり弾けた。


「結界は解けたぞ。

呪いはその指輪で解けるはずだ。」


シグマはシオンの肩に戻る。

レイナは指輪をかざすと、アルジュリアの体内から黒い影が染み出てきて指輪に吸い込まれる。



パキッ



指輪が砕け散った。



「お父様・・・。」


ようやく触れた父親の手にレイナの瞳からは再び涙が零れ落ちた。

アルジュリアはまだ目覚めてはいないが、顔には血色が戻り静かに横たわっている。

じきに目覚めるであろうことは明らかであった。

レイナはその手を離さずその場に留まっている。

いつの間にかラルフの姿はその部屋からはなくなっていた。



「何も言わないで行くんですか?」


通路を去ろうとするラルフに後ろからシルファが声をかけた。


「気付いてたのか。」


ラルフは振り向かず、立ち止まったままで言った。


「男っていつも勝手ですね。」


シルファは頬を膨らませて怒ってる。


「レイナを愛してるからこそだよ。」


「それが勝手なんです。

女は守る者なんて・・・そんな前時代的な考え・・・。

レイナさんはそんなに弱い人ではないはずです。」


強い口調で詰め寄るシルファ。


「わかっているさ。

だが、とにかくもう・・・決めたんだ。」


シルファの声を振り切る様にラルフは歩を進め、やがてその姿はシルファの視界からは見えなくなったのであった。


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