蛇座の男
「誰だっ?」
大きな声で叫びながらシオンは何もいなかったはずの空中に目を凝らした。
視線の先に現れた人影は仮面を被り、全身は黒いマントで身を覆っていた。
その骨格からはおそらく男であろうと想像できた。
仮面の男はゆっくりと手にした宝石をもう片方の手にある黒色の剣にはめた。
「残り4つ・・・。」
仮面の男の声は低く重い。
まるで悪魔の囁きの様に直接脳に響いてくる様であった。
シオンその声に聞き覚えがあるような気がした。
「お前は・・・誰だ?」
シオンは確かめるように、もう一度叫んだ。
仮面の男は眼下に存在するシオンらを仮面越しに視認すると黒色の剣をかざしながら声を発した。
「我が名はアスクレピオス。
この天墜魔王剣と共に、世界に混沌の闇を与える者なり。」
「アスクレピオス・・・。」
(名前に聞き覚えはない・・・。
顔は判らない・・・。
でも声は似てる。)
「どうするのだ?」
シグマの声にシオンは周りの状況を確認した。
バルトは全身黒焦げで気絶している。
ラルフとシルファは起きる気配はない。
レイナもラルフに付き添っているため、戦力としては考えられない。
シオンはシグマをちらりと見る。
「我は腹を満たすまでは、もう動かぬぞ。」
シオンの気持ちを知ってか知らずか、シグマはここ一番で我が儘ぶりを発揮した。
「やるしかない・・・のか。」
シオンがアスクレピオスを見上げ七星の御剣を構えると、アスクレピオスはシオンを見下したまま笑った。
「今は七星と事を構えるつもりはない。
完全体になったら相手をしてやる。」
アスクレピオスは一向に降りてくる気配は無い。
「今はやり過ごした方が都合が良いか。」
シオンはじっと見つめアスクレピオスを牽制する。
「ふっ。」
アスクレピオスは不敵な笑みを浮かべながらマントをひるがえし、東の空へ消えて行った。
「助かった・・・のか。」
シオンはその場に倒れ込むように腰を落とした。
「では我は戻るぞ。
食事の時には呼ぶように。」
シグマはそう告げると七星のルビーの中に吸い込まれる様に消えていった。
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「シルファ気付いたか?」
戦いの後シルファが気付いたのは夕暮れであった。
シオンは心配そうにシルファの顔を覗いてる。
「しー君、私・・・。」
シルファは右手が温かい事に気付いた。
「ありがと、しー君。」
シオンは照れているのか何も言わない。
シルファはゆっくりと身体を起こした。
「大丈夫か?」
「うん、良く寝たからお腹空いちゃった。」
いつものシルファの言動にシオンは胸を撫で下ろした。
どうやら凍らされた影響はなさそうだ。
「そろそろアルジュリア様の結界と呪いを解く時間だけど来れるか?」
シオンが尋ねるとシルファは元気良く頷いた。
もしかすると心配を掛けまいとわざと元気に振舞っているのかもしれない
シオンはシルファを支えるように歩を進めた。
進んだ先の寝室には既にラルフとレイナが待っていた。
その傍らにはシグマがキツネうどんをすすっている。
「ラルフとやら。
中々美味であった。
我は普段ピーマンしか喰わぬのだが、これならば食べてやってもよい。」
偉そうなシグマがシルファの目に映った。
「し、しー君、あ、あれは何?」
シグマを見たシルファはすぐにシオンの陰に隠れた。
「あれはシグマ。
七星のルビーから出て来た精霊らしい。
詳しくは後で話すよ。
とりあえずは害は無いから。」
シルファを落ち着かせるとレイナが声を発した。
「それでは始めましょう。」