我が名は
「・・ルト・・・バルト・・・・バルト・・・バルトォーー!!」
シオンは憎しみに満ちた眼で睨み叫んだ。
「吠えるな、目障りだ!
私は王になる。
そのためには貴様達は邪魔なんだよ!」
シオンは周りを見渡した。
泣き崩れているレイナ。
腰を抜かして怯えているカイト。
2人とも動ける精神状態ではない。
コテツは離れた場所に落ちている。
手にあるのは腰元にしまわれた七星の御剣だけ。
(正直シルファには必ず助けるとは言ったけど・・・。)
微かな絶望がよぎった。
(力が欲しい・・・)
「どうした?
来ないならこちらからいくぞ。」
バルトは再び詠唱を始めた。
「やばい、あれをくらったら終わりだ。」
シオンはバルトが詠唱を始めたのを見て、とっさにその詠唱がコキュートスであると錯覚した。
「フリーズキャノン」
しかし放たれた呪文はコキュートスでは無かった。
コキュートスに比べて詠唱速度が速い分、シオンは目測を見誤ったがぎりぎりで身を翻してかわすことに成功した。
いや、かわすと言うより外れてくれたと言う方が正しかったかもしれない。
「永久凍結魔法じゃない???
流石に極大呪文は三発は打てないってことか。」
(・・・を・・・べ。)
「だからどうだというのだ。
貴様達を葬る位の魔力はある。
アイスパゼラート。」
バルトの声と共に両刃の大剣が右手に現れる。
「死ねー!」
バルトは剣を振り上げシオンに切り掛かった。
キィンッ
シオンは腰元の七星の御剣を抜き辛うじて受けることに成功したが、大剣とナイフではまるで相手にならず防戦一方になる。
「どうした?
これで終わりか?」
キィンッ
鈍い音が響き渡る。
「くっ。
コテツさえあれば・・・。」
シオンはバルトを牽制しながらもコテツを確認したが、シオンから見てコテツはまだ数メートルは離れていた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねー。」
バルトが振り回す氷の剣はシオンを皮一枚で切り刻んでいく。
だが氷の剣が切った瞬間に傷口を凍らせていくため、切れた場所からは不思議と血は出なかった。
(・・・我が名を呼べ・・・)
「今確かに聞こえた。
これはあの夢の声・・・。」
「何をブツブツ言ってるんだ。」
さらに剣撃は鋭さを増す。
「この声は俺にしか聞こえてないのか。
でも名前なんて知らない。」
切られて凍った傷はシオンを少しずつ動けなくしていく。
(・・・お前は知ってる。
16年前に刻まれた我が名を・・・。)
ガシィッ
強烈な一撃がシオンを後ろに弾き飛ばした。
「やばいっ!
体力が・・・。」
「これで終わりだー」
バルトが一気に距離を詰めてくる。
その時バルトとシオンの間に氷の柱が倒れてバルトの行方を塞いだ。
「シ、シルファ。」
それは紛れも無くシルファの氷であった。
「氷になってまで邪魔をするか。
この小娘がっ!」
バルトはシルファに向かって剣を振り上げた。
「やめろーーーーっ!」
(・・・叫べ、我が名を・・・)
「うわぁーーーシグマーーー!!」




