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上手な魔法の使い方  作者: 睦月
おてんばプリンセスと氷の王子
43/82

【幕間】出会い

(寒い・・・)

(どれだけ歩いただろう・・・)

(辛い・・・)

(お父様・・・)

(私はどうしたら・・・)

(だめ・・・。

もう・・・動けない・・・)

ガラッ♪


扉が開き、一人の男が出てきた。

辺りは真冬で氷点下の吹雪いている


「ふぅ、疲れた疲れた。

やっと今日も仕事終わった。

ん?あんた、どうしたんだ?

凍えてるじゃないか。

大丈夫か?」


男は道端で倒れている女に気が付き、急いで近づいて声をかけた。


「返事がない。

やばいな。

とりあえず店に・・・。」



「んっ・・・ここは・・・?」


目を開けると目の前には天井が広がっている。

どうやらベッドに寝ているようだった。


「おっ。気付いたか?

ここは俺の店だ。」


隣の部屋から男が顔を出した。


(この人は・・・誰?

あれ?

私の恰好って・・・。)


ベッドで上半身だけ起き上がり自分の状況を確認する。


(見られた?

けど身体は暖かい。)


「あぁごめん。

雪で濡れてたから着替えさせて貰ったよ。

大丈夫、見えたけど見てないから。

って何言ってるんだろ。

ちょっと待ってな。」


男は顔をひっこめるとバタバタとせわしない音が聞こえてきた。


「ほら、これ食えよ。

温まるぞ。」


再び戻ってきた男は両手で大きめのどんぶりを携えてきた。

どんぶりからはふわっと湯気が上り、部屋全体をふんわりとしたカレーの香りが包み込む。


「でも私・・・お金が・・・。」


「遠慮するな。

当店自慢の天麩羅カレーうどんだ。」


男は笑顔でどんぶりを差し出した。


「じゃあ・・・頂きます・・・。」


「おぅ!食べろ食べろ。」


男に見られながらも箸を持ち、うどんを持ち上げるとゆっくり口元に運ぶ。

跳ね返るようなうどんの弾力を噛み締めながら喉の奥へと飲み込んでいく。

カレーの香辛料が身体を温めるように包み込んでいく。

後から来る出汁の香りが更に鼻腔をくすぐる。


「どうだ?」


「おい・・・しい・・・です。」


「ん?泣いてるのか?」


しばしの沈黙が2人の間に訪れた。

女は無言でうどんを口に運んでいた。

男は涙の理由を聞くでもなく、優しい言葉をかけるでもなく、わざとらしく少しおどけるように言った。


「そうかそうか。

涙が出る程美味しいか。」


「ちがっ・・・・・・くもないけど・・・。」


小さく告げた言葉を聞き逃さなかったのか男は安心したようにこう伝えた。


「まぁゆっくり食えよ。」


そう言うと男は部屋を出ていった。



「何をしてるの?」


うどんを食べ終わった女がベッドのあった部屋から抜け出だし顔を出した。

テーブルが3,4卓配置されており、数席のカウンターがあるフロアで男はせわしなく動いていた。


「掃除だよ。

明日の仕込みもあるし、全て俺一人でやってるからな。」


その言葉を聞いた女は腕まくりをした。


「手伝うわ!

お金ないし。」


「金の事は良いって言ってるだろ。

でも、そうだな。

手伝ってくれるならそこのテーブル拭いてくれ。」


「うん。」



明日の仕込みも終え、2人はカウンターに並んで座り、お茶を飲んでいる。


「行くのか?」


「うん。

多分心配してるから・・・。」


「そうか・・・。」


「ねぇ。」


「ん?」


「また・・・来てもいい?」


「ああ。

いつでも来いよ。」



女が去った後、誰もいない店内で誰にも聞こえない位の声で男は呟いたのだった。


「なんだ、笑えるじゃねえか。」

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