面会記録
(あの話が本当なら術者は・・・。
だとするとお父様が危ない。)
白銀の街の中をレイナは疾走していた。
(ここからなら裏から行くより正面から行った方が早い。)
レイナは正面の城門の前に出た。
「今すぐ門を開けなさい。」
「えっ?レイナ様?
何故城外に?」
門番は信じられない顔で城とレイナを交互に見ている。
「いいから早く開けなさい!」
レイナが一喝すると門番は焦りながらも門を開ける。
ゆっくりと開けられる城門がギリギリ入れる位に開いた瞬間にレイナは身体を滑り込ませた。
正面の階段を駆け上がり大広間の玉座の斜め後に位置する扉を勢いよく開いた。
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中心のベッドにはアルジュリアが静かに横たわっている。
見渡すが周りには誰もいない。
「居ない・・・逃げたか。」
レイナが息を整えていると後ろから勢いよく一人の男が入って来た。
「お嬢様、如何なさいました?」
「バルトか。
カイトを見なかったか?」
バルトと呼ばれた白髪で長身の男は首を横に振って答えた。
鎧を着ているせいかしっかりとした体格に見えるが、実際は細身なのだろう。
「30分程前に帰られた様です。」
「そうか・・・。
ところでバルト、お父様が呪いにかけられた日の面会記録は残っているか?」
「少々お待ち下さい。」
バルトは部屋を出ていった。
「はぁ・・・はぁ・・・レイナさん・・・。」
急いで裏の入口から走って来たシオンとシルファがここでようやく追い付いた。
「追い掛けて来たの?
ちょうど良かったわ。」
レイナが気付いた時、再びバルトが部屋に入って来た。
「お待たせいたしました、お嬢様。
ん?こちらの方々は?」
「私の友人よ。
気にせず話を続けて。」
バルトは二人を一瞥すると手にした台帳を見ながら話を始めた。
「あの日、アルジュリア様は誰ともお会いになられておりません。」
少し驚いた表情でレイナはバルトを見返した。
「え?それは本当?
カイトは来ていなかったの?」
「間違いございません。
どんな個人的な面会も私が責任もって記録しておりますから。」
「じゃあカイトが術者じゃないってこと?
でも確かに一年前はブクブク太ってたのに・・・。」
レイナがうつむきながら悩んでるとバルトが不思議そうに聞いて来た。
「お嬢様一体なんの話ですか?」
「いえ、気にしないで。
私の気のせいだったみたい。
バルトありがとう。
仕事に戻って良いわ。
いつも悪いわね、お父様が呪いで倒れてから執務は貴方に頼りっぱなしね。」
バルトはレイナの言葉を聞き、涙を堪えながら答えた。
「とんでもございません。
そのようなお言葉・・・失礼します。」
バルトは涙を見せないように早々に部屋を出ていった。
「呪いをかけられた当日は誰にも会ってない・・・。
となるとほかのアプローチが必要かしら。
でもこれで術者が解らなくなったわね。
振出しに戻ってしまったわ。」
レイナは深い溜め息を付いた。
「呪いを封じてくれてるのは助かるけど、実はあの結界が厄介なんですよね。」
シルファは思いもよらない一言を告げた。
「と言うと?」
「結界が無ければ呪詛返しとか呪詛移しが出来るんだけど・・・。
あっでも結界があったからアルジュリア様は死ななかったわけで・・・。」
シルファは混乱していたが、言いたい事は理解できた。
シオンは一つの結論に達した。
「この際、術者を探すのは諦めましょう。
となると残る手段は呪いを結界ごと無効化するしか・・・。」
「アンチマジックスペルって事?」
シルファはシオンに尋ねた。
「そうだな。
あれなら呪文自体を完全無効化出来る。」
「でもそれって・・・。」
シルファは考えながら声を出した。
「気づいた?
察しの通りアンチマジックスペルは理論上出来るってだけで使った人間は居ないね。」
「だったらなんで。」
「何も出来ない呪文の事は言ってないよ。
もう一つ似たような効果の物がある。」
シオンの言葉にシルファは気付いて声をあげた。
「そっか、ディスペルリング。」




