カイト・ツァルファード
「カイト・・・ツァルファード・・・様。」
現れた男は背丈が高く、痩せこけた顔に広がったおでこにつりあがった目、そして何よりも偉そうな態度が傍目に見て取れた。
カイトと呼ばれたその人物はレイナに近づくと、その手を取りこう言った。
「カイトで構いませんよ。
私は貴女の婚約者なのですから。」
その向けられた笑みにゾッと鳥肌を立たせながらレイナはその手を振りほどき、カイトを睨みつけながらこう告げた。
「私は承諾してなどおりません。
誰が貴方なんかと!!」
カイトは振りほどかれた手をさすりながら答える。
「酷い言われ様ですな。
私と結婚すれば永きに渡る隣国同士の対立にも終止符が打たれるのです。
貴女もそろそろ王女として覚悟を決めていただきたいものですな。
それに親同士が決めた婚約だとしても、私にとっては貴女に一目惚れした事実は変わりませんから。」
歯の浮くような台詞もレイナからすればゾクリと虫唾が走るほどの不快さであった。
そもそもカイトに対する嫌悪感をレイナは初めて会った時から拭えていなかった。
するとカイトと共に入って来た男がベッドを囲み、何やら呪文を唱え始めた。
「この方達は?」
レイナはカイトにゆっくりと聞いた。
「この者達はツァルファード屈指の宮廷魔導士です。
貴女のお父上の事が心配で連れて来たのです。」
カイトは話してる最中、シオン達に気付いた。
「この者達は?」
「私の友人ですが何か?」
「ふむ。」
カイトはシオン達を爬虫類の様な目でジロジロ観察し始めた。
おもわずシルファはシオンの陰に隠れる。
その姿を見ながらカイトが口を開いた。
「貴女の友人をどうこう言うつもりはありませんが、私の婚約者として、もう少し友人との付き合い方も考えて頂きたいものですな。」
「先ほどから申しておりますが私は貴方の婚約者になったつもりはありません。
ましてや貴方の様に地位や名誉、金勘定で作った下賎な友人と彼等は違いますわ。」
タラタラと嫌味を述べるカイトに、レイナは涼しい顔で答えた。
「くっ。
まぁいい。
いずれ貴女は私のものになるのだから。」
妙にプライドが高く、言い負かされても何とか食い下がるカイトの精一杯の負け惜しみだった。
「それよりも勝手に結界を解かれては困ります。」
レイナはカイトに食ってかかった。
先ほどのシオン達の話が事実なら結界を解いた途端に呪いが進行してしまう。
「何を言ってるのですか?
お父上を助けたくは無いのか?
この者達はツァルファード屈指の・・・。」
カイトが話してる中シオンがレイナの手を掴んだ。
「大丈夫です。
放っておいて行きましょう。」
父親とカイトたちを残し3人は部屋を出た。
「本当に大丈夫なの?」
3人は流布に向かい歩いていた。
部屋を出た時、カイトが何やら叫んでいたが追い掛けては来なかった。
「あの結界はリバイアサンサファイアの力を借りてるので、おそらくあの程度の術者が何人居ても解けません。」
「彼らは宮廷魔導士って言ってたわよ。
そのような者にも解けない呪いって・・・。
そもそも君達はなんでそんなに詳しいの?
それにリバイアサンサファイアって・・・?」
レイナが疑問と共に立ち止まった。
シオンとシルファは顔を見合わせる。
暫くするとシオンが口を開いた。
「ここじゃあれなんで流布でお話します。
僕達がアルジュリア様を訪ねた訳も。」
その言葉を聞いてレイナは再び歩き出した。
・・・
「つまりこう言う事ね。
シルファ達はその剣の七星を集めてて、リバイアサンサファイアかどうかを確かめにお父様に会いに来た・・・と。」
2人は釜玉うどんを食べながら頷いた。
ラルフは厨房で調理に追われていた。
素姓を隠してるレイナには都合が良かった。
「事情は理解したわ。
でも呪いを解く方法は解らないままなのよね。」
レイナは溜め息を付きながら呟いた。
「ほのことなんですふぇど・・・。」
シオンがうどんが口に入ったまま話し始めた。
「こころあらりはないふぇど、・・・んぐ・・・詳しい人は知ってます。」