呪い
「これは・・・。」
「うん。
呪いの一種かもしれない。」
横たわる男性をゆっくりと観察しながら2人は言葉を発した。
呪いとは古代呪文の一種とされ、その用途から今は禁呪とされている呪文の一つである。
「種類は解らないけど・・・。」
近づいて触ろうとしたシルファの指が痺れる様な刺激で弾かれた。
「っつ。
・・・これは結界・・・。」
その時、別の扉からメイドらしきたたずまいの女性が入って来た。
「ひっ・・・くせ者・・・。」
メイドはシオン達を見るなり、慌てふためく様に怯えた声で助けを呼び始めた。
「誰か?誰かー?くせ者です!」
そんなメイドの叫びを止めたのはレイナの一声であった。
「慌てるでないっ!」
凛とした声がその場の空気を制する。
メイドはレイナを見るとピタリと動きを止めた。
「あ・・・え???レイナ様。」
「この者達は私の客人です。
静まりなさい。」
ピシャリと場を征する声にメイドは、即座に深々と礼をした。
「は、はいっ。
大変失礼致しました。」
メイドはレイナに向かい一礼するとそそくさと部屋を去っていった。
「レイナさんって王女だったんですか。」
シオンは目をパチクリしながらレイナを見た。
「やっぱり・・・。」
シオンに反してシルファはわかっていたかのように呟いたのをシオンは聞き逃さなかった。
「シルファ気付いてたの?」
「何となくは・・・。
初めて会った時の言葉遣いと立ち振る舞いが・・・。
それに・・・ラルフさんが住んでる場所知らないのも少しおかしかった。」
シルファの声にレイナは少し怪訝な表情を浮かべた。
「ラルフには何も言ってないの。
きっと言ったら壊れてしまいそうで・・・。」
悲しそうな表情をするレイナをよそに、シオンがアルジュリア王を見ながら言葉を発した。
「それはそうと・・・。
この結界は?」
「どうやらお父様が呪いをかけられた直後に自ら張ったみたいなの。」
「って事は結界を解いてから呪いを解かないとならないのか。」
その時不意にシルファが声をあげた。
「しー君、これ・・・もしかして。」
「これは・・・・・・。
リバイアサンサファイア・・・だよな。」
アルジュリアの胸元には一つのティアラが抱えられていた。
その中心で輝く一粒の大きな石。
その深き蒼を彩る輝きは紛れも無くリバイアサンサファイアのものであった。
「でも・・・これ封印されてるはずじゃ・・・。」
「一時的に力を貸してるって感じなのかな。」
二人が話してる中、レイナが口を挟む。
「シルファ、どういう事?」
レイナの問いにシルファが静かに答えた。
「これは推測なんですが、この石が結界の生成を助けていて、更に呪いの進行も止めてるみたいなんです。」
「つまり?」
レイナは恐る恐る聞いた。
「つまり結界を解く前に呪いを解かないとアルジュリア様は死ぬ可能性がある・・・と言うことです。
逆に言えば呪いで死なないための唯一の抵抗だったのかも・・・。」
シルファの代わりにシオンはレイナに伝える。
「呪いを解く方法は?」
レイナは俯きながら聞いて来た。
「一番てっとり早いのは、
術者を殺す事かな。」
シオンは深刻な顔で、しかし淡々と答えた。
「でも目撃者はお父様だけなの。」
レイナが呟いた時、再び扉が開き一人の男を筆頭に数人の男達が入って来た。
その中の先頭の一人がツカツカとレイナに歩み寄ってきた。
「これはこれはレイナ。
今日は居たんだね。」
その男の声が冷たく室内に響き渡ったのだった。




