アルジュリア城下町にて
【アルジュリア】
玄武洞より若干南に位置する王国
城を中心に城下町が展開されている。
北に位置しているが町は活気に満ちており、町全体は明るい雰囲気である。
城主も強制的支配を行うのではなく共存・共生を掲げ、その思想は民衆にまで浸透し平和的繁栄を遂げている。
ただしこの地方はとにかく寒い。
冬は毎日雪が降っており、一年の平均気温は零度を切る。
隣国ツァルファードとは冷戦状態である。
「ここがアルジュリアかぁ。」
ゲートを出た二人は城下町の南端に降り立った。
町はすっかり雪化粧を被り、光に反射して町が銀色に輝いている。
寂れた感じは無く人通りもあり町は活気に満ち溢れていた。
「流石に寒いね、しー君。」
コートを着て万全を期して来たつもりのシルファだったが、あまりの寒さに両手を擦る仕草をしながら身震いした。
「暑い後だから余計寒いな。
まずは宿屋の確保からしようか?」
シオンが歩きだすと珍しくシルファが口を挟んだ。
「しー君、お腹空いた・・・。」
「そういえば朝から何も食べてないな。
じゃあまずは腹ごしらえからしようか。」
「しー君、カレーは温まるよー。
ラーメンもいーなー。」
シルファは歩きながら自分の食べたい物を懸命にアピールしていた。
「僕は寄せ鍋が良いね。
んー、鍋焼きうどんも良いな。」
「・・・しー君・・・おじさんみたい。」
「なっ・・・鍋を馬鹿にするなよ。
身体あったまるんだからな。」
おじさんと言われて若干不機嫌になり足取りが速くなる。
「ちょっ、、、しー君待ってよー。」
暫くそんな会話を続け2人は店を探しながら歩いた。
結局シルファのカレーの案を採用し、カレー屋の前に到着した時だった。
突如店の中から怒号が飛び交った。
「なにぃーーーっ!
金がないだとーーー。
食い逃げたぁふざけた野郎だ!」
デカイ声を張り上げてるのは店主のようだ。
シオンは声のするままに店のドアを開けた。
中では6つのテーブルがありその四隅のテーブルには客が座っていた。
そして真ん中のテーブルの横には一組の男女が立っていた。
男の方は息が切れており店主だと見て取れた。
女性の方は20才位であろうか。
蒼くサラサラなストレートのロングヘアーに
目元ははっきりとしており鼻も高く凛とした顔立ちだった。
しかしその顔立ちとは逆に服装はだいぶ質素なものに見える。
その女性はゆっくりと口を開いた。
「払わないとは言ってないでしょう?
今持ち合わせがないと言っただけです。
それに逃げる気はないのだから食い逃げでもありません。」
その毅然とした立ち振る舞いのせいで、より一層店主との間に温度差が生じていた。
店主は顔を真っ赤にし、怒り狂っているように見えた。
「城主様に言って牢獄送りにしてやる!」
「それは困りますわね。」
その口調は全く困っている様には見えない。
その様子を見ていたシルファは早くご飯が食べたいがゆえに助け舟を出した。
「あのぉ、、、お困りでしたら私が貸しますけど?」
店主と客達が一斉にシルファを見た。
「あら、貴女が立て替えてくれますの?」
女性はシルファの元へツカツカと歩み寄ってくる。
「返してくれるんですよね?」
シルファの素朴な問いに女性は更に毅然とした振る舞いで答えた。
「当たり前です。
私、見ず知らずの方に借りを作ったままにしておくほど恥知らずではありません。」
その言葉を聞いて後ろから店主が口を挟む。
「無銭飲食はするくせに・・・。」
振り向き店主をキッと睨み付ける女性。
「おいくらですか?」
シルファはお金を取り出し、女性に渡した。
「有り難くお借り致します。
私はレイナ、貴女のお名前は?」
その女性はレイナと名乗り、シオン達が店に入ってから初めてニッコリと微笑んだのだった。




