一蹴
海から現れた男はなぜか全く濡れておらず海面に立っていた。
「私もここの結界さえ破壊できれば貴様に用など無い。」
男は静かに呪文を唱え始めた。
「母なる海の水よ。
全ての生命の根源よ。
深層より沸き上がり全てを飲み込む力となれ。
くらえっ!
太古の津波!」
男の周りから盛り上がるように海が持ち上がり島に進んでくる。
「ふんっ、古代魔法か。
中々やるようじゃの。
ならわしはこれじゃあっ。」
ライオは両手に蒼白の炎を集め、詠唱を始めた。
「猛れ、わしの心。
燃え上がれ、わしの炎。
全てを蒸発させろ。
ライオファイヤー!!」
ライオの詠唱をぽかんとした表情で二人は見ていた。
「シルファ・・・あれって・・・。」
「うん・・・呪文じゃないね・・・。」
2人は半ば呆れながらある意味で凄いライオを見ていたが、その純度の高い炎にはそれを黙らせるだけの力があった。
そしてライオはその拳を軽く突き出した。
「なっ。」
その瞬間、目の前の津波は蒸発し、海水はキラキラと飛沫になって舞っていた。
2人がその水飛沫の輝きに一瞬目を奪われた瞬間、ライオは地を蹴り抜き気づいた時には男の背後に居た。
「名前を聞かないで正解じゃったの。
ラーーーイオ、アッパー!!」
その力任せの一撃は男を空中に跳ね上げた。
ライオは振り向いてシオンとシルファを見るとこう言った。
「わかったか?
こう闘うのじゃ。」
全く参考にならない戦いをまざまざと見せつけられ、その戦い方が参考になると思っているライオに2人は色んな意味で感動したのだった。
「こいつらは何者ですか?」
シオンは男を縛り上げながら聞いた。
「白い服装から見るといつもの夢幻教の者じゃろう。」
「夢幻教?」
「ここ数年で台頭してきた信仰宗教団体じゃ。
世界は常に移り変わり、死と隣り合わせで破壊と再生を繰り返す。
移り行く世界が美しいという教理に基づいて活動しておる。
つまり四方結界は邪魔じゃと考えておるのじゃ。」
「じゃあゾディアックの考え方とは完全に反対なんですね。」
シルファが呟くとライオは顔をしかめながら言った。
「一概にそうとは言えんがの。
黄道十二魔導士の中にも色々おるからの。」
「へぇー。ゾディアックも一枚岩じゃないんですね。」
「まぁのぅ。
辛うじて繋がってると言った所かのぉ。
まぁわしにゃあ関係ないがの。」
あっけらかんと話すライオには本当に興味ない様に見えた。
「さて、はよ昼飯にするからシルファ魚を釣って来てくれ。
シオンは薪割りじゃ。」
ライオの声に反応するように2人はゆっくりと立ち上がり、シルファは竿を、シオンは斧を取りに小屋に歩いていったのだった。