幼馴染への報告
食事を終えシオンは2階の自分の部屋に戻った。
部屋の電気を付けずにベッドに横たわりボーッと天井を眺めながら思いに耽る。
年が明けたら旅に出る。
遂に憧れてた旅に・・・。
高鳴る鼓動を隠しきれず、腕には微かに震えていた。
「あと一週間ちょっとか・・・」
勿論不安もある。
魔法が使えないだけで様々な困難が訪れることも理解している。
が、シオンにはそれを吹き飛ばすくらいのワクワクがあった。
フェアリアードは形を変えていく。
常に新しい場所が現れ古い土地は消えていく。
まだ誰も踏み込んだことのない場所なんてざらにあるし、今も何処かで生まれ出ている。
「きっと父さんの手掛かりも見つかるさ!」
シオンはゆっくりとベッドから起き上がり窓の方に歩いていった。
旅立つ前に報告しなければいけない相手がいた。
カーテンを開けると、窓越しに隣の家が見える。
正面に見えている窓から明かりが漏れている。
シオンが部屋の電気を付けて暫くすると隣のカーテンと窓が開く。
顔を見せたのは幼なじみのシルファであった。
つられるようにシオンも窓を開ける。
「よっ」
シオンはぶっきらぼうに言う。
「よっ♪」
シルファは同じ言葉を楽しげに繰り返す。
「飛び級おめでとう・・・」
むすっとした認めたくない顔で言葉を投げ掛ける。
「これで来年からシー君と一緒だね?アハッ」
嬉しそうに話すシルファの笑い声を遮るように、シオンは話し出した。
「その事なんだけど・・・」
一息つき、落ち着いてゆっくりとシルファに語り掛ける。
「来年・・・と言っても年明けすぐなんだけど、父さんを探す旅に行ってくるよ。
一年間時間も空いたしさ」
シオンは神妙な面持ちで話を切り出した。
「・・・・・・・・えぇっ!!」
シルファは窓から落ちそうな位に身を乗り出した。
「なんでなんで?来年一緒に隣の席で勉強出来ると思ったのにぃ~。」
本気で悔しがってる。
「つうかそもそも旅に行かなくても単位は足りてるから学校行かないよ。
それに同じクラスになる保証もないでしょ?」
「おぉーっ、そっかそっか。確かにそうだよねー。」
どうやらシルファは同じクラスになれる事を信じて疑って無かったらしい。
脳天気なシルファを微笑ましく見ながらシオンは言葉を続けた。
「ついでに僕の魔力についても調べてくるよ。
何か解るかもしれない・・・。」
少し神妙な面持ちのシオンに気付くとシルファはすぐに真っ直ぐにシオンの目を見た。
シルファはシオンの母親より、いや、この世界で誰よりもシオンの事を理解してる。
元々勉強もでき頭も良く周りに気を使えるシルファだが、
ことシオンに関してなら喋らなくても大体解るらしい。
その感覚は普通の幼馴染のそれとは異なることを二人はまだ自覚していない。
「もう・・・決めたんだね。」
シルファは真面目な顔でシオンを見る。
「いつ・・・行くの?」
シルファは言葉を続ける。
「えっと1月4日から・・・」
再びシルファは驚いた顔でシオンを見直した。
「ほへ?じゃあ後一週間ちょっとしか無いじゃない。あわわわ」
窓の前で意味も無くあたふたとするシルファを楽しそうに見る。
『一緒に行くか?』
シオンはその言葉を思わず飲み込んだ。
近くにいたら甘えたくなる。
近くにいるから甘やかしてしまう。
僕が一番自立出来てないのかもな、とシオンは苦笑いをしてしまう。
「しー君、準備はまだしてないの?何持ってくの?あぅあぅ・・・」
シルファは相変わらずテンパりながら窓の近くでウロウロしてる。
「準備は明日からするよ。手伝ってくれる?」
シオンが微笑むとシルファは満面の笑みで頷いたのだった。