小さな魚
「あのぉ・・・。」
・・・・・・
「あのぉ・・・私達こんな事してて良いんですか?」
3人は並んで海に向かって釣り糸を垂らしていた。
シルファの複数回に及ぶ問い掛けに全く答えなかったライオが遂に口を開いた。
「身体を休める事も成長には必要じゃ。
それにこれは身体を休めてても出来る修行の一つじゃしの。」
ライオは声を立てずに、ただし豪快さが見て取れるような笑みを浮かべながら話をする。
「確かに・・・釣り針に返しが無いし、浮きも付いてない。
これで魚を釣るのは大変だよ。」
シオンは釣竿を上げたり下げたり悪戦苦闘してるのが見て取れる。
その姿を見たライオが一言告げた。
「心を静め、ゆっくりと意識を糸の先に移していく。
どんな時も動じず、自然と一体となるのだ。」
一瞬ライオの気配が消え、姿が見えなくなったように感じた。
「ほれ、出来ればこんな風に釣れる。」
ゆっくりと引き上げた釣竿には捕まったことに気付いてないかのように静かな魚がぶら下がっていた。
ライオはゆっくりと魚を針から外すとバケツにそっと放り入れた。
バケツに貼られた水に魚がついた瞬間、魚は息を吹き返したように水の中を泳ぎ始めた。
そのバケツには魚が何匹も入っていた。
「シルファはシオンとは違い先端の針に魔力を集中させるんじゃ。
淀みなく魔力を巡らせ指の先まで魔力を満たせば自ずと魚は釣れるぞ。」
ライオは釣りの道具を片付けバケツを持ち立ち上がる。
「では、わしは先に帰ってるから、自分の分釣れたら帰ってこいよ。
この島は自給自足じゃからな。」
その言葉を残してライオはそそくさと帰って行った。
「・・・・・・。」
暫く沈黙が続く。
二人は目を閉じ集中している。
どのくらいの時間が経過したのだろうか。
シオンは隣が気になり目を開けチラリと隣を見た。
一瞬シオンの動きが止まった。
シルファのバケツには魚が沢山入ってた。
(そういえばシルファは昔から要領が良いと言うかセンスが良かったな。)
シルファはシオンの視線に気づいたのかニヤニヤしながら言葉を発した。
「エヘヘ、しー君まだぁ?」
シオンは若干イラッとしながらもシルファの言葉を無視し、再び意識を針の先に集中させるのだった。




