地下7階にいるもの
「おはよー。しー君。」
シルファは眠い目を擦りながら窓から顔を出すように見下ろしながらシオンに声をかけた。
一方でシオンは窓の外から見えるホテルの中庭で素振りをしていた。
「おはよう、シルファ。」
シオンは窓を見上げ笑顔で手を振りながら答える。
シルファは窓からシオンの素振りを眺めながら考えていた。
昨日の悲しげな表情。
あの場ではあれ以上聞けなかった。
「しー君、昨日・・・。」
紡ぎだしてすぐに言葉を止める。
シルファは自分で思い出さないといけない様に感じた。
「ん?どうした?シルファ。」
手を止めシルファを見上げる。
「うぅん・・・何でもない。
それよりご飯食べよっ。」
食事を終え、二人は館長室に向かった。
「おはよう、昨日は良く寝られたかな?」
シンは館長室で二人を出迎えた。
「良かったら紅茶は如何かね?。」
シンは慣れた手つきで紅茶を入れる。
2人はソファーに座り、静かに待っていた。
入れられた紅茶のカップを取り口に付けるとシルファがビックリしたように声を上げた。
「あっ、美味しい。」
「ヤマト地方の秋摘み紅茶ですよ。
じきに春摘みも出ますから今度ご馳走しましょう。」
シンは微笑みながら言った。
「それで、《七星》のフォルダなんですが・・・」
シオンも紅茶を啜りながら話を切り出した。
「うん、その件だが、まずは君達に会わせたいモノがいる。」
「会わせたいモノ?誰ですか?」
シルファの言葉にシンは少し困った顔をするが、聞き流すように言葉を続けた。
「まぁ会えば解りますよ。では行きましょうか。」
シンはそそくさと部屋を出た。
二人は急いで飲んでいたカップを置き、立ち上がりシンの後に続いた。
扉を出て右に曲がると階層型移動ポータルがある。
「世界図書館は何階建てか知っているかな?」
歩きながらシンが言葉を切り出した。
「地上4階、地下2階でしたよね。」
シルファが答える。
「表向きは、ね。」
シンは真面目な顔になった。
「表向きは?」
「表向きは?」
2人が声を揃えていた。
「そう。実際は地下7階まであります。
そして会わせたいモノは地下7階最下層に居ます。」
シンは階層型移動ポータルに乗り、2人も後に続くようにその上に乗る。
「では参りましょう。」
シンが手をかざし魔力を込めるとポータルを淡い光が包み込み光が消えたころには3人は別の場所に転送されていた。。
「ここが・・・。」
二人は目を見開き周りを見渡したが、辺りは暗く目が慣れるまでは時間がかかりそうだった。
床、天井、壁には無数の光がちりばめられており、それがかろうじて照明の代わりをしているようだった。
その光は時々不規則に走りだす・・・まるでパルスの様に。
「すごぉい。まるで宇宙の中を歩いてるみたい。」
ちりばめられた光の道を少しはしゃぎながら歩くシルファ。
「こっちです。」
シンが歩いていく後を2人はついて行った。
薄暗い通路をゆっくりと進むと、目の前が行き止まりに突き当たる。
「行き止まり?」
シルファは小首を傾げた。
「ちょっと待ってくださいね。」
シンは突き当たりの壁に右手を当てると、壁が光を放ち、蝕まれていくように穴が開いていく。
それは人が通れる大きさまで開き、そして止まった。
中は更に暗い闇が広がっている。
「この中です。」
シンが先に入って行き闇の中に消えていく。
「行こっ。しー君」
シルファとシオンも続くようにゆっくりと手探りで入っていった。




