館長室にて
【自律型AI(人工知能)睦月】
演算処理能力は人類を軽く凌駕し、現時点では睦月に比肩しうる存在は確認されていない。
その動力は膨大な魔力によるもので、魔力の供給は黄道十二魔導士を筆頭に行われる。
また魔力の供給が切れても数週間は補助魔力源でで動く事が出来るように設計されている。
MaRCSSも睦月の補助があって初めて機能する。
設置場所は世界図書館の地下7階。
ちなみに4年に一度、黄道十二魔導士を選出するのは睦月である。
「ほぉ、良く持ち帰って来れたね。」
わざとらしく驚いた表情を見せてはいたが、シンの第一声は驚く程落ち着いていた。
「これで良いですね。」
シオンはシンの机の上にルビーを置いた。
「うむ、間違いない。
しかしフレイムリザードを倒すとはね。」
シンはルビーを受け取り感心した表情を浮かべた。
「コインが表だったからですよ。」
ブスッとした態度でふくれっ面をしたシオンが答えた。
「裏だとしても同じ事だよ。」
シンは見透かした様に話す。
「えっ??」
シオンは何を言ってるのか判らなかった。
「あれはどちらから行っても最初に着くのは祭壇の間だからね。
私が空間を歪めておいたんだよ。
だからどちらから行っても結果は同じと言う訳だ。
まぁシルファ君は気付いていたみたいだがね。」
「やっぱり・・・」
シルファが小さい声で呟いた。
シオンはびっくりした顔でシルファの方を向いた。
「まぁあれは相当魔力の流れに敏感じゃないと気付かないよ。
魔力のないシオン君ならまず不可能だろう。」
シオンを庇う様にシンは告げたが、シオン自身はシルファの成長が自分をすでに凌駕している可能性があることを実感していた。
「まぁ実際は気付いても何も出来なかった訳だが、それを差し引いても、シルファ君は相当才能があるようだね。
それにシオン君の判断能力も高い。
二人とも実践で成長するタイプのようだ。」
シンはまるで見ていたかの様に話す。
「それにシオン君の棺の件は良かった。
あの棺は触るだけなら何も無いが、壊したり動かしたりすると・・・。」
「すると?」
シルファが聞き返す。
「呪いにかかって20歩で、関節が全て外れ全身から血を噴き出して死ぬ。」
二人は全身から汗が噴き出し鳥肌が立った。
「全て・・・キサラギさんの手の上だったんですね。」
シオンはうなだれながら呟いた。
「まぁあくまで課題だと言っただろう?
勿論呪いにかかっても私が即解除していたから心配はいらない。
それに約束の期限より一週間早かったんだ。
棺の件も含め充分合格だよ。」
シンは笑いながら言った。
「じゃ、じゃあ・・・」
「うん、約束通り七星の御剣は君達が持っていなさい。」
シンの言葉にシオンはホッと胸を撫で下ろした。
「それから《七星》のフォルダだが、まぁそれは明日にしよう。
疲れただろうからまずはゆっくり休みなさい。」
シンの言葉に二人ともゆっくりと頷いた。
「しー君・・・起きてる?」
隣り合わせのベッドで寝てるとシルファが呟いた。
「どうした?眠れないの?」
シオンは寝返りをうちシルファの方を向く。
「うん・・・。しー君は?」
「少し興奮してる。
狼の時は助けられたけど、今回は二人で倒せたからな。」
大きく拳を突き上げるシオン。
ここに来てようやく実感が湧いて来たらしい。
「しー君・・・
ありがとう。」
シルファはゆっくりと、噛み締めるように小さな声で言った。
「ん?どうしたんだ・・・急に。」
シオンはシルファの方を見た。
シルファは布団を頭から被って隙間から覗いてた。
「だって・・・私を守って一杯火傷したし。」
「ははっ。
気にしてたのか。
でもシルファだって僕を守ってくれただろ?」
水鏡の盾・・・あれがなければシオンは確実に死んでいた。
シオンは言葉を続ける。
「それに、約束したからな。」
「約束?誰とどんな約束したの?
もしかしてパパと?」
シルファは布団から頭を出し、シオンに尋ねた。
「やっぱり覚えてないか。」
シオンは悲しそうな表情で笑みを浮かべた。
意味深なシオンの言葉にシルファは必死に思い出そうとするが思い出せない。
シオンにヒントを貰おうとシオンの方を向いたが、
シオンは既に目をつぶり、小さな寝息を立てていたのだった。




