戦いの果て
ずるっ・・・ゴンッ
鈍い音が反響し、フレイムリザードが頭を床に打ち付けた。
フレイムリザードの意識が一気に覚醒する。
「あら、お早いお目覚めですわねー。
私達はさしずめ目覚めの朝食かしら?」
シルファはおどけて見せたが足は震えていた。
フレイムリザードは周りを見回しシオン達を視界に捉らえると雄叫びをあげた。
「ピギャーーーー」
部屋を震わせるほどの奇声が辺り一面に響き、二人の肌をビリビリと伝わって来た。
「やらないと父さんの手掛かりは手に入らないよな。」
シオンの声はシルファに届くぎりぎりの声量だったが、
シルファはシオンの声を聴くと身体からは不思議と震えは消えていた。
「よぉしっ。しー君いくよぉ!ウォーターフォール」
シルファは元気よく呪文を唱える。
シルファとシオンを避けるように周りを大量の水が上から落ちてくる。
呪文としては低級で威力は無いが火属性の魔獣には充分破壊的であった。
周りに居た火蜥蜴達は身体の熱を奪われ仮死状態で身体を丸めて固まった。
「暫くは動けないな。」
シオンが言うと同時にフレイムリザードにかかる水が一気に水蒸気に変わる。
「しー君、あっちには効いてないみたい。」
「やっぱカテゴリBだな。
大瀑布なら貫通しそうだけど。」
「そりゃ時間さえ貰えれば準備はできるけど・・・。」
シオンの言葉にシルファは膨れっ面で返した。
「よしっ、風の翼があるうちに行くぞ。」
シオンは刀を構えフレイムリザードに突っ込んで行った。
魔法でスピードが上がっているシオンをフレイムリザードは捉らえる事が出来ず、シオンは一瞬で敵の真後ろまで回り込んだ。
「もらったぁ。」
シオンは叫びながら敵の背中に刀を突き刺す。
ジュッ
刺したはずの刀身は音と共に溶けて消えた。
「ヤバッ。
溶けちゃった。
こいつどんだけ熱いんだよ。」
しかもフレイムリザードは刀が当たった事にすら気付いていない。
「シルファー、こいつ一度冷やさないと切れないよ。」
シオンは背負ってる大剣を抜きながら叫んだ
「しー君もう少し時間稼いで。」
シルファは叫ぶとすぐに魔法陣を描き呪文を唱え始める。
それに気づいたかは分からないがフレイムリザードは目の前のシルファに咆哮魔法を放とうとしていた。
「あれは灼熱の閃光か?・・・それとも時間稼ぎか?
撹乱程度なら!!」
シオンは瞬時にフレイムリザードの視界に飛び込み、シルファから注意をそらす。
「ほらほら、こっちだ。」
シオンは駆けながらシルファとは別方向を向かせた瞬間、
突如ガクッとシオンのスピードが落ちた。
「ヤバッ、時間切れか。」
風の翼が切れシオンは普通の速さになる。
そして眼前にはフレイムリザード。
「やばいっ、避け切れない。」
目の前のフレイムリザードは口を大きく開き、シオンに向かって灼熱の閃光を放つ。
シオンは目の前に現れた強烈な光に思わず死を覚悟して目をつぶった。
「しー君、危ないっ!!」
シルファは詠唱を止め、シオンに向かって手をかざした。
「水鏡の盾!!」
シルファの左肩の魔法陣が輝くと同時に、シオンの眼前に透明な盾が現れ、向かって来た閃光を跳ね返した。
シオンが目を開けると目の前には自らの咆哮魔法に右肩を貫かれ悶え苦しむフレイムリザードの姿があった。
「シルファッ。」
シルファの方を振り向くと既にシルファは呪文の詠唱を開始していた。
「流れる一雫の水滴よ。
猛り狂う風の雄叫びよ。
風と水の力をもって輝ける氷河の息吹とならん。
ブリザード!!」
フレイムリザードの回りを包み込むように氷のつぶてが回り、フレイムリザードを凍り付かせる。
余波で周りに転がってる火蜥蜴が凍り付き砕けた。
だが当然のようにフレイムリザードは死なない。
「ここだと効果は数秒だよっ。」
シルファはシオンに叫んだ。
場所が場所だけに氷系魔法の威力は半減する。
シオンは即座に大剣を振りかざし、フレイムリザードに切り掛かった。
「狙いは一点!!うぉーーりぁーー!!」
シオンは灼熱の閃光でえぐれた右肩に大剣を振り下ろした。
ここなら硬い鱗に阻まれる事はない。
ザシューーーッ!!
鋭い音と共に右肩から真下にフレイムリザードの身体が裂ける。
だらりと垂れ下がる右腕。
徐々にその身体に熱が帯びてくる。
傷口からは心臓と同じ鼓動でマグマの様な血が吹き出している。
「ピギャーーーー・・・。」
再び炎に包まれたフレイムリザードは、断末魔を上げ自らの炎で焼かれていった。
「ふうっ、これで終わりか・・・」
シオンはその場に腰を落とした。




