棺から這い出るもの
【魔獣カテゴリ】
S:未知。Aより上は全てがSにカテゴライズされる。
A:20人以上のギルド、または大規模レイドでのみ討伐可能。
B:5人パーティでの討伐推奨。
C:上級冒険者なら単独討伐可能。
D:討伐できれば1人前とされる。
E:村の付近に現れる魔獣はこのレベル。少し経験を積んだ猟師なら討伐可能。
F:ほぼ無害。
「じゃあヨロシク。」
シオンはシルファに向かって物凄く軽い感じで伝えると、目の前の火喰虫の塊に飛び込んでいった。
シルファは後ろからシオンに向けて呪文を唱える。
「風の翼っ!!」
シルファの右肩の魔法陣が輝き、そして消える。
それと同時にシオンの身体を風が纏う。
シオンの移動速度が一気に上昇する。
「おっ。この風ならいけるか。」
手に纏わりつくように渦巻く風の渦を見てシオンは呟いた。
シオンは一気に火喰虫の塊に突っ込む。
身体を纏う風が火喰虫の塊を弾き飛ばして行く。
火喰虫は弾かれながらもシオンを取り囲み、そして暫くしてシオンは黒い塊に取り込まれた。
「し、しー君?」
シルファはシオンの姿が消えてしまうと不安になり問い掛けた。
返事は・・・ない。
「しー君?・・・しー君?・・・しーーいーーくーーんっ!!」
シルファは必死に涙をこらえながら叫んだ。
この3週間で大分成長したが精神的にはまだまだシオンに依存している。
暫くしたのち、一瞬火喰虫の動きが止まった。
そのままシオンを覆う黒い塊が上から崩れていく。
中にはシオンが少し気怠そうな表情で立っていた。
「ぷはっ・・・・・・熱すぎ。死ぬかと思った。」
シオンの刀の先には一際大きな火喰虫が刺さっていた。
火喰虫の群れは統率を失い散り散りに逃げていく。
「しー君、大丈夫?」
シルファは即座にシオンの下に駆け寄った。
「まぁね、女王がデカくて助かったよ。
特徴が大きさ以外だったらやばかったかも・・・。
あつっ・・・。」
見るとシオンの身体には無数の火傷跡があった。
シルファはすぐに呪文を唱えようとするがシオンがそれを制した。
「いくらシルファでも魔力は無限じゃないだろ?
これくらいならまだ大丈夫だから。」
「それにこれだけで終わる訳無いような気もするし。」
シオンは刀の先の死骸を持ち上げると、火喰虫の女王の骸から炎があがり、そのまま灰となり崩れ落ちた。
「どうやらこれが次のスイッチみたいだな。」
シルファが水の障壁をかけ直すとシオンが尋ねる。
「シルファ、魔力はまだ大丈夫か?」
「んー。とりあえずはまだ大丈夫そう。」
シルファは自分の魔力を探りながら答える。
「そいつは良かった。
さて次のお客様だ。
って客は僕達かな?」
シオンの声とほぼ同時に下の穴からゆっくりと這い出るように何かが出て来た。
「しー君、あれって火蜥蜴だよね?」
シルファは呼吸を整えながら言った。
「あれだけならさっき程は数もいないし、動きが鈍いから心配する事ないんだけどな・・・。」
暫くするとシオンの予感は的中する。
目の前の祭壇に置かれた棺が静かに開いていった。
「どうやらあれが本命みたいだな。」
シオンは刀を構え直す。
開いた棺からゆっくりと手が出てきた。
その手は人間のそれとは違い、爪は長く鱗に覆われていた。
「きゃーっ、しー君、あれっ、あれっ。」
シルファはその姿に思わず声をあげた。
現れた姿は全身に鱗を纏い、頭部はトカゲのような面持ちで瞳は怪しく赤く輝き、その体躯は人間の様で長く太い尾を有していた。
そして全身ぬめりとした脂のような体液で体が覆われ、それはおぞましい外見をしていた。
シオンはそれを見てボソリと呟いた。
「フレイムリザードか・・・。
よりによってカテゴリBか。」
火蜥蜴がそれに近づくと、全身の体液が炎となり身体を巡る。
焼身自殺とも見紛うその光景の中でフレイムリザードと呼ばれるその生物はようやく棺から出てきた。
魔獣はゾディアックにより危険度によってS~Eのカテゴリに分類されている。
カテゴリBは単体討伐が困難な危険魔獣に分類されている。
目覚めたばかりのフレイムリザードは、まだ意識がはっきりしてないのかよろよろと歩くと、足を滑らせ祭壇から転がり落ちた。
「キサラギさんはこれを分かった上で試練としたんだな・・・。」
シオンはその危険性を十分に理解した上で苦笑いをした。
シルファは震えていた。
【火蜥蜴】
体長20~30センチ
性格は獰猛だが動きは遅い。
獲物に噛み付き体内の熱で溶かしながら補食する。
【フレイムリザード】
全身に炎を纏った蜥蜴人間とも言える存在。
何百年生きた火蜥蜴が突然進化したと言われている。
固体数は少なく滅多に遭遇しないが、獰猛な性格で完全な肉食。
人型に近いが知能は低い。