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上手な魔法の使い方  作者: 睦月
世界図書館
12/82

館長

「しー君、ごめん・・・もうだめ・・・寝るね・・・。」


シルファはホテルに着くなりそう言ってベットに倒れ込んだ。

よっぽど疲れていたのだろう。

シオンはシルファの頭を撫でながらシルファに携帯を借りて家に連絡をする。


プルル・・・プルル・・・ガチャ。


「はい、もしもし。」


「あぁ、母さん、僕だけど。」


1日として母親と離れた事がないシオンにとって電話越しに聞こえる声はひどく懐かしい感じがした。


「シオンなの?今日は大丈夫だったの?」


そしてそれは母親も同じだったようだ。

少しぎこちない感じで始まった会話も徐々に馴染んでいき、

シオンは今日の出来事を報告すると母親から意外な一言が飛び出した。


「キサラギさんならうちに来たわよ。」


どうやらシオン達に会った後、そのままうちに七星の御剣を取りに来たらしい。


(そういえばあの時、キサラギさんには七星の御剣の事は話さなかったな・・・。)


「それでどうしたの?」


「シオンに渡したって言ったら帰って行ったわよ。

そうそう、帰り際に『なら大丈夫ですね。』って言ってたような・・・。」


(大丈夫?どーゆー意味だろう?)


シオンが感じた疑問に対する答えは思いのほか早く知ることになる。

その後とりとめのない会話ののち、電話を切るとシルファの隣のベッドに横たわる。


(そういえば母さん・・・キサラギさんをなんで信用し・・た・ん・・・だ・・ろ・・・)


考えがまとまるよりも早くシオンもウトウトとまどろみの中、眠りにつくのだった。




翌日起きると二人は再び図書館に向かった。


「すごく寝ちゃった。私、ホテルに入ってから記憶ないもん。」


「寝ながらご飯だけはしっかり食べてたけどね。」


ニヤニヤしながらシオンは嫌味を言うと、シルファは顔を赤くして答えた。


「えぇっ、無意識で食べちゃってたのぉ?

なんか損した気分・・・。」


やっぱりシルファは天然だ。


図書館に着き、入口で入館手続きをすると、司書の一人に呼び止められた。


「シオン・ハートウィンド様、シルファ・アースレイ様ですね。

館長がお話があるそうですので館長室までお越し頂けますでしょうか?」


「しー君・・・。」


シルファはシオンの後ろでビクビクしてる。

昨日の検索の件がばれたと思っているらしい。



(プロテクト解いたわけじゃないし、悪い事はしてないんだけどな。

つかこっちにしてみたら好都合だな。

館長ならプロテクト解けるかもしれないし、七星の御剣の事も何か知ってるかもしれない。

会ってみる価値はあるはず。)


シオンは思考を巡らせた結果、会ってみようと決心した。


「解りました。案内してください。」


シオンは司書に丁寧に返答した。


「では、こちらになります。」


二人は司書の後をついていった。

案内された先は4階にある館長室。

重厚な扉を開くとそこは広さにして20畳程の広間で、目の前には応接用のソファーとテーブルが置かれていた。

さらにその奥には館長専用の机と椅子がある。

ソファーに二人して腰掛けると、司書は奥まで歩いていき、館長用の椅子の後ろでヒラリとマントを翻した。


その瞬間、司書は二人が見たことがある人物にその姿を変えた。


「こんにちは。よくおいでになりましたね。」


目の前で穏やかに話すその男はまぎれもなくシン・キサラギであった。

二人はしばらくの間、状況を理解できずにその場にたたずんでいた。



「キ、キサラギさんが世界図書館の館長・・・なのですか?」


シオンはようやく一言、口を開いた。


「私ではおかしいですか?」


落ち着いた口調でシンは話す。


確かに昨日の連続無詠唱魔法を見れば、シンは世界図書館の館長をしていてもおかしくはない。

昨日の母親との話も納得がいく。

だがあまりにも若く、そのうえ不健康そうな見た目に二人は少し混乱していた。

その雰囲気を察してかシンは言葉を漏らす。


「これでも貴方達のご両親よりも大分年上なんですよ。」




シルファは固まった。




「ちなみにこれでも黄道十二魔導士の一人です。」





シオンも固まった。




そしてしばらくの間、その空間は沈黙に包まれたのだった。

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