魔法が使えない
シオン・ハートウィンドには深刻な悩みがあった。
それは来年になると3才年下の幼なじみのシルファ・アースレイが同じ学年になってしまうのだ。
正確にはシオンが一年留年し、シルファが2年飛ばして来る訳だが、これはシオンにとっては大問題であった。
まさか同じ学年になってしまうとは彼は思ってもいなかったからだ。
理由は2つある。
一つはシルファにはずば抜けた魔法の才能があった事。
もう一つはシオンに魔力が全く無かった事。
無論そのどちらもシオンが悪いわけでは無い。
そもそも有史以来フェアリアードで魔力の全く無い人間が生まれたのは初めての事だったのだ。
その為15年経った今でも今だに法整備がなされておらず、中学の卒業試験にある必須科目の実技魔法に落ちてしまった訳だ。
中学校側としてもこのまま卒業させるわけもいかず、苦肉の策として一年の留年を経て卒業を確約。
つまり来年は単位は足りてるので学校に行かなくても卒業出来る事になったのだ。
冬休みに入る直前の12月23日の事であった。
家のリビングで寛いでいる最中、シオンはふとあの言葉を思い出す。
・・・学校に行かなくても・・・
この言葉はシオンには大変魅力的であった。
思えばずっと妹の様に可愛がり、何年か前までは勉強も教えていたシルファが来年には同じ学年になる。
自身のせいではなくともシオンのプライドは相当傷付いていた。
しかし魔力の全くないシオンには努力する事すら出来ず、目の前の現実は大空に浮かぶ雲の様に淀みなく、ただ流れていく。
・・・学校に行かなくても・・・
この言葉をもう一度噛み締めた時、シオンは一つの決意をした。
そしてその日の夕食の時、シオンは母親に話を切り出したのだった。