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第二騎士隊と、燃えやすい芋の話 3


「どうするんだ、この量……」


 料理ギルドの面々が、バッカスの腕輪から取り出した大量のジャガ芋を見て頭を抱える。


 イエラブ芋であれば、ふつうに倉庫で保存しておけば良いのだろうが、爆弾芋だと保管そのもののリスクが高い。


「食べれば旨いのは知っているが、正しい調理法を知っている者も少ないからな……」

「それをしたって、皮の処分に困るんだよな」


 水の中で皮を剥けば発火することはないし、火薬膜も剥がせる。だが、水に溶ける火薬膜はともかく、その火薬成分を含んでいる皮だけは、水から出して乾くとまた発火しやすくなってしまう。


 そういう意味では敬遠されてしまう食材ではあるのだが――


「なぁアンタら、これを全部俺が引き取るって言ったらどうする?」


 頭を抱えている調理ギルドの偉いさんらしい二人にバッカスがそう声を掛ける。

 すると、二人は目を瞬いた。


 その様子に、ムーリーが一歩前に出る。


「彼はバッカス君。私の魔剣技師友達で、料理友達でもあるわ」

「料理友達?」

「ええ。料理が趣味なのよ、彼。腕前や知識は私どころか料理ギルドの誰よりも上かも」

「持ち上げすぎだ、ムーリー」

「あらやだ。忌憚のない感想よ?」


 ムーリーの言葉にバッカスは困ったように肩を竦める。

 今のやりとりに職員たちがどう思ったのかまでは分からないが、困惑は薄れたようだ。


「しかし、この量だぞ?」

「趣味というコトは店でなく個人だろう? 個人でこの量は消費できるのか?」

「そこも考えてある。

 爆弾芋を使った料理は色々と考えはしたんだが、試す機会がなくてな。

 知り合いのハラペコ騎士の家で振る舞うつもりだよ」

「騎士の家で? いや、しかし……」


 戸惑うギルド職員。

 自分で言っておきながら、バッカスも気持ちは分かる――と思ってしまう。


「でもバッカス君。あの()は確かに健啖家だけど、それだって限度があるわ。これを全部は無理よ?」

「だから、他の騎士を連れてきただろ?」


 バッカスたちのやりとりを遠巻きから見ていたシュルクとイスラデュカが、急に水を向けられて驚いたような顔をする。


「女遊びに忙しい第一隊はどうでもいいんだが、第二隊はそうじゃあない。

 警邏や治安維持にも協力しているんだから、旨いモンを振る舞っても天罰(バチ)は当たらないさ」

「……ってコトはバッカス君。ハラペコ騎士様に振る舞うっていうのも建前ね」

「まぁな。さすがにこの量だとな。

 そこで、屋敷に滞在している第二隊も誘うって話になるわけだ」

「待ってください。あなた方の言うハラペコ騎士なる人物というのは……ッ!?」


 どこか焦った様子のイスラデュカにバッカスとムーリーは意味深に笑う。

 なお、シュルクはよく分かっていなさそうだ。


「爆弾芋の調理方法は覚えておくと便利だしな。遠征先での食料調達の候補に入るぞ」


 野生の爆弾芋――というか収穫前の、まだ大本のツタと繋がっているジャガ芋は、発火の恐れが低い。

 その為、野生のモノは見つけやすいのだが、いかんせん危険物という認識が強くて、食料と思われていないのだ。


 騎士や何でも屋などからしても、緊急時に利用できる武器という扱いである。


 だが、野生の動物や魔獣は、爆弾芋を見つけるとツタに付いたまま実をかじる。

 つまり、適切に食べればちゃんと食べれる芋と理解しているのだ。

 野生のものも結構見つかるのに、森や山が火事にならないのは、こうやって食べている魔獣たちがいるからだろう。


「確かに、遠征中の食料の知識は大事だな……。

 デュカ。せっかくだし、バッカスさんに教えてもらおうぜ」

「……そうですね。元々、我々が一緒にいる理由づくりもしてくれるという話でしたしね」


 騎士の二人がうなずくのを確認し、バッカスはその口元も皮肉げに吊り上げた。


「決まりだな。悪いが料理ギルドのお偉いさん、一筆頼むぜ」

「一筆、ですか?」


 ギルド職員のうち痩躯の方が首を傾げる。

 ピシっとしながらも煌びやかな衣装を見に纏っていることから、恐らくはギルドマスターかそれに近い役職の人物だろう。


「この量だ。料理ギルドが、俺とムーリーに処理を任せたっていうのを書面で残しといた方が、問題が生じても面倒が減るだろ」


 バッカスの言葉に、痩躯のギルド職員は少し悩んだようだが、納得したようにうなずく。


「わかりました。それと――可能なら爆弾芋料理のレシピの納品をしてくれませんか?」

「俺は料理ギルドに加盟する気はないぞ?」

「構いません。もちろん、ちゃんとあなたの名義で登録しますし、しかるべき報酬もお支払いします。うちは魔導具ギルドほど強欲でもなければ非常識でもありませんので」


 その言葉にバッカスの皮肉げな笑みがますます深まる。


「余所のギルドまでそのネタが広まってるとか、どんだけだよ。

 だが、それを口にしたってコトは、反故した場合の覚悟はできているよな?」

「覚悟なんてする必要ありませんよ。反故する理由がありませんので」


 ニヤリと笑って見せる痩躯のギルド職員に、バッカスもニヤリと笑い返す。


「気に入った。おたくの名前は?」

「申し遅れました。ギルドマスターのシエフエム・クオコ・キュイジーニャと申します」

「お? 三節名? 職人ギルドのマスターなのに、貴族なのか?」

「三男なので自由なんですよ」

「自由ねぇ……おっと、こっちも名乗らないとな。

 バッカス・ノーンベイズだ。本職は魔剣技師だが、どうにも何でも屋や食事処の店主と勘違いされているフシがある男だよ」

「ああ! 現代の美食屋にして飲兵衛魔剣技師の!

 お噂はかねがね。王都の実家に住んでいた頃から、悪童コンビという二つ名を良く聞いてたので」

「もしかしなくても同世代? あの頃の中央学園にいた?」

「はい」


 うなずくシエフエムにバッカスは思わず強く目を瞑りながら天井を仰ぐ。


「アナタ、学生時代に何をやったのよ?」

「色々とやらかしてましたよ、彼」


 ムーリーの疑問に答えたのはバッカスではなく、シエフエム。

 今後余計なネタをムーリーに吹き込んだりしないか、不安になる。


「ですが、だからこそ信用できるとも言えます」

「三男で自由に振る舞ってるわりには貴族の本分を忘れてなさそうだな」

「長男のクセに本分を忘れて女遊びして回っている人と比べられても困りますよ」

「なるほど。その辺りまで把握済みか」


 なかなか手強い男がギルドマスターをやっているものである。


 ライルといい、バーザムといい、シエフエムといい――この町の支店ギルマスは、どいつもこいつもやり手で抜け目がなさそうだ。

 だからこそ、バッカスも彼らを信用することができる。


「あなたと伝手(つて)が出来るのは幸運です。

 ジャガ芋に関する一筆、喜んで書きましょう」

「あーくそ、ゴソっと芋だけ貰えるかと思ったら、とんだ貸しになっちまったじゃねぇか」

「レシピ、楽しみにしてますね」

「あいよ。約束も期待も裏切るつもりはないさ」


 そんなバッカスとシエフエムのやりとりを見ていたシュルクは、思わず横にいるイスラデュカに訊ねた。


「なぁデュカ。オレより貴族っぽくないか、バッカスさんって」

「貴方が貴族らしくないだけかと思いますよ、シュルク」


 学園に残る悪童コンビの伝説を思い返しながら、イスラデュカは嘆息とも安堵ともつかない息を吐くのだった。



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