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厄介ごとの、ミルフィーユ 4


 早朝に出発したバッカスたちは、昼前には町に戻ってきていた。

 予定では昼過ぎに帰還するつもりだったことを思えばやや早い。


 入り口の兵士に挨拶をして、バッカスたちは町へと入っていく。


「あれ? そこの魔導灯、消えてないじゃないか」


 町へ入ってすぐ。

 大通りに並ぶ魔導灯の一つの灯りが消えてないことに気付いたイスキィがそちらへと歩いていく。


 夜に町を照らす魔導灯は、一つ一つに住民がスイッチを入れていく。それは明るくなってきた時に消すのも同様だ。

 その為、こうやって消し忘れなどがあるのも珍しくはない。


「消しときますかね」


 イスキィはやや手を自分の頭と同じ位置にあるスイッチに触れる。

 スイッチ代わりの魔宝石は、子供がイタズラしないようにやや高めの位置にあるのだ。


「あれ? バッカスさん、ここの魔導灯消えないぞ」

「みたいだな」


 イスキィが自身の魔導輪具を通して魔宝石に魔力を流しているが、反応がない。


「ちょいと退いてくれ」


 イスキィに声を掛けると、バッカスは魔力帯を展開する。

 青の神を中心にした術式と祈りを記述して、魔力を流す。


「自由なる綿毛よ、大空(たいくう)を渡れ」


 ふわりとバッカスは浮き上がると、ランプを触れる位置まで上がっていく。


「バッカス、空を飛べるんだな」

「飛ぶっつーか、こうやって浮き上がるのが精々だよ」


 ロックに言葉を返しながら、バッカスは魔導灯の様子を伺う。


「なるほどなるほど」


 カバーを外し、術式の刻まれた基盤を見れば原因は知れた。


「魔力の流れる回路の一部が欠けてるのか。そのせいで、消えろって命令が届かないんだな」


 収納の腕輪の中にホイート石があったはずだ。

 バッカスはそれを取り出すと、握りしめ、浮遊の術式を維持しつつ、握りしめたホイート石を粉にするべく魔術を使う。


 欠けた部分に粉にしたホイート石を振りかけ、魔術で一滴だけ水を作り出し、欠けた部分を中心に粉末を固める。


 さらに上から岩樹の樹液を一滴垂らした。

 本来は別の液体で表面を固めるのだが、手持ちがないので代用だ。


 さらに魔術を掛けて樹液を乾燥させ固め、周辺に飛び散った余分な粉を風を起こして吹き飛ばせば、応急処置は終了である。


「イスキィ、魔力を流してみてくれ」

「了解」

「よし、消えたな。念のため、もう一回付けてくれ。

 ……問題なさそうだな。いいぞ。消してくれ」


 無事に灯りが消えたのを確認すると、バッカスはゆっくりと地上に降りた。


「非常識の塊だな」

「やろうと思えば誰でも出来るコトの組み合わせさ」


 着地と同時に皮肉を投げてくるアイクに、バッカスは事も無げに答える。


「誰もが面倒でやろうとしないコトを、なんてコトもなく出来ているから非常識だと言っている」


 それに対して、バッカスは肩を竦めるだけに留めた。


「ゾンビ騒動もこれくらい簡単に片づけばいいんだがな」


 バッカスが修理した魔導灯を見上げながら、ロックがうめく。

 それは誰もが思っていることだが、そう簡単にいかないから、色んな人間が色んなところに駆り出されているのだ。


「厄介ごとがいくつも積み重なりやがって……」

「まったくだ」


 ロックのぼやきにうなずきながら、バッカスはふと思う。


「しかし積み重なる……積み重なるか……ミルフィーユ……」

「なんだよ、ミルフィーユって。急にどうした?」


 どうやら口に出ていたらしく、ロックが首を傾げるが、バッカスは気にせずに独りごちた。


「ミルフィーユ……喰いたくなってきた」

「食べ物のコトかよ」

「ロックはどっちのミルフィーユが好きだ?」

「どっちとか聞かれてもそもそもミルフィーユが分からねぇよ」

「そんなコト考えてたら……腹、減った」

「会話しろ、バッカス!」


 思わず声を上げるロックに、バッカスは胡乱げな眼差しを向けながら告げる。


「アイクじゃあないが、厄介ごとが増えすぎて考えるのが面倒になってきたんだよ」

「現実逃避かよ……気持ちは分かるけど」


 そして、五人は同時に嘆息した。

 自分たちが今後どこまで関わるかはともかく、池にいた魔獣は厄介ごととしてのレベルは高そうだ。


「ところでバッカスさん。そのミルフィーユって、女の子の気を引ける食べ物かい?」


 何となく沈みかけた空気を振り払うように、イスキィが明るく話題を切り替えてくる。

 それにバッカスも乗っかった。


「ん? 片方は甘味だしモテるかもな。もう片方は酒飲みにモテるぞ」

「二種類あるのか。酒飲みにモテる方が気になるな!」

「いやいや甘味の方が気になるだろう!」


 女好きイスキィと酒好きサンタスが食いついてくる。

 そのことに料理好きのバッカスが笑う。


「酒飲みにモテる方は、今からでも作れそうだな。

 ギルドに報告しに行ったあとに昼飯代わりに食ってくか?」

『もちろん!』


 バッカスの言葉に、ロックたち五人(・・)の声が唱和する。


「ん?」


 明らかに聞き慣れない声が混じっていて、ロックたちが訝しむと、いつの間にやら自分たちの輪の中に一人増えている。


「はぁい♪ 甘味と聞いてやってきたわッ!」

「誰だお前ッ!?」

「いきなり入ってくんな!」

「ビックリしたー……」

「バッカスの知り合いか?」

「そいつはムーリー・クー。

 魔剣技師仲間でもあり、料理好き仲間でもある男だ」


 バッカスの紹介を受けてから、ムーリーは改めて自己紹介をする。

 とりあえず怪しい奴ではないと安堵したのか、ロックたちはムーリーを受け入れた。


「ところでムーリー。食事処も経営しているお前は、この時間稼ぎ時だろ?」

「そのコトでバッカスくんに相談したいコトがあってねぇ、お店を閉めて探してたのよ」

「これ以上、厄介事ミルフィーユの層を増やさないでくれ」


 心の底からうめき出すような声に、ロックたちも同意する。

 食事処の経営をしている人間が、稼ぎ時に店を閉めてバッカスを探すなどただ事ではなさそうだ。


「今日、お店の女の子の様子がちょっとおかしくてね」

「どんな風にだ?」

「何でも早めに到着した騎士の人たちに道を聞かれたらしいんだけど、どうにもその騎士様に一目惚れしちゃったみたいで」

「別に男に一目惚れしちゃうのなんて、不思議ではないさ。違うかい?」


 イスキィの言葉に、ムーリーはうなずく。


「それはその通りなんだけど、妙な魔力が彼女に纏わりついてる感じがしてね。ただの一目惚れとは違う危険な匂いがしちゃったのよ……」


 バッカスとロックたちは顔を見合わせる。


「予定より早く到着するってのは想定してなかったな」

「被害者第一号ってところか?」

「本当にいるんだね、僕と価値観が合わない問題児が」

「すでに影響がでているとは面倒な……」

「早いところギルドに行くべきだろう」

「え? なに? どうしたのバッカスくんたち? 心当たりあるの?」


 ムーリーの言葉にしばし考え、バッカスは顔を上げた。


「店を閉めて俺を探してたんなら、今日は時間あるよな?」

「ええ、もちろん」

「ギルドの報告の後、こいつらとのランチに付き合ってくれ。

 元々俺もムーリーには頼みたいコトがあったんだ。

 店の女の子についても、そこで説明する」

「込み入った事情がありそうね。いいわ。お酒に合う料理のコトも気になるし、ご一緒させてもらうわね」


 うなずくムーリーを確認してから、バッカスはロックたちへと向き直る。


「そんなワケで急遽ムーリーも増えたが、いいよな」

「問題ない」


 ロックたちも了承してくれたところで、バッカスたちは何でも屋ギルドへと向かうのだった。



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