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たまにはちょっと、そんな気分 4


「間引きって言うと難しく感じるが、間引き依頼に討伐数の指定はない。

 強いて言や、通常の討伐依頼よりも多めに狩る――くらいだな。

 別に一つのパーティだけで必要数狩って貰えるとはギルド側も思ってない」


 何でも屋は金の無い者たちも多い。

 討伐した魔獣は出来る限り、金に換えたいと考えるのがふつうだ。


「そもそも大量に狩ったところで、持って帰るのが大変だろ?」

「え? でも、間引きするだけなら討伐証明だけも持って帰れば……」

「今回は小柄の(ラミニム)カルヴの討伐だ。こんな美味しい死体を、そのまま放置するのか?」

「それは……」


 問われ、ガリル少年は言葉を詰まらせる。


「まぁ確かになぁ……。

 肉は食べられる。丈夫な皮や、鋭い牙や爪などは加工され装備や装飾になる。

 全身余すことなく金に換えられる魔獣を放置するのはちょっとな……」


 ニーオン少年はそれを理解してうなずいた。

 続けて、アーランゲ少年が訊ねてくる。


「でも、間引きなのに通常より多め程度でいいんですか?」

「さっきも言ったが、ギルド側は依頼を受けた各パーティがどれだけ討伐してきたのかを当然把握している。

 足りてないようなら追加で依頼を張り出すし、十分なら依頼はそれ以上張り出されない。

 そもそも何でも屋は数がいるんだ。俺たちだけじゃあない」


 この近辺が正常化すればそれでよし。

 正常化が一時的なモノなら、以降も定期的に狩りの依頼が張り出され、適正な数を維持することになるだろう。


「それに、一度に大量の討伐なんて、ただ実力があるだけでなく、収納系の神具なり、ニーダングの魔導収納具なりを持ってないなら難しいからな。

 持って帰らないにしたって、放置するワケにはいかないだろ?」


 一応、実績と信頼がある個人ないしパーティであるならば、ギルドからそれらの収納具を借りることはできる。

 もっともそれが可能なのは銀からなので、今の彼らには難しいが。


「じゃあ、今日はおれたちどのくらい狩ればいいんだ?」

「ふつうに考えれば持って帰れるだけ、だな」

「そっか」


 ニーオン少年はそれを聞いて難しい顔をする。

 自分たちで持って帰れるのは何匹だろうか――と考えているのだろう。


 だが、今日はここにちょっとした反則が存在する。


「悩んでいるところ悪いが、今日は好きなだけ狩っていいぞ。

 お前らが本気を出して狩っても、そこまで間引き切れないだろうしな」

「言い方に腹は立つけど、確かに間引きに必要な数はなぁ……。

 でも、持って帰れる量よりは多く狩れると思うぞ。どうやって持って帰るっていうんだ?」


 ガリル少年の推察は正しい。

 彼らの戦いを見たことはないが、それなりに出来ることくらいはバッカスとて分かっている。


「町で見せただろ~。

 ここに、収納の腕輪という神具(アーティファクト)がある」


 そう告げて、バッカスは自分の左腕に付けている銀の腕輪を示す。

 次の瞬間、少年たちは湧いた。


「うわ、おっさんすげー!」

「バッカスさんのそれ神具だったのか!」

「ほ、本物の……神具……!」


 出発前に剣の出し入れをして見せたのだが、神具とは思っていなかったようだ。改めて説明すると、少年たちはやたらテンションをあげた。


 そして興奮が冷めて落ち着いてくると、少年たちがバッカスを見る目が少し変わる。


(クリスさんと知り合いで、神具持ってるって、このおっさんスゴい人なんじゃ……?)

(この人の階級、そういえば聞いてないな……。もしかしなくても銀以上だったり?)

(神具を手に入れられるだけのお金持ち!? あるいはコネを持ってる人なの!? もしかしてボクたちとんでもない人に声を掛けたんじゃない……!?)


 だがバッカスは敢えて彼らの意識の変化を無視して、続けた。


「そんなワケで、狩った分はここに収納してやるから、好きなだけ狩れ。

 そのまま獲物を持ち逃げするようなバカなマネもしたりはしねぇからよ」


 バッカスの言葉に、少年たちが目を輝かせたその時だ――


「バッカスッ!」


 ストロパリカを横抱きしながら、クリスがこちらへと駆けてくる。


「クリスさん、また来た」

「あの人も懲りないよなぁ」

「キリっとした顔も素敵だ」


 少年たちはまたかよ……という態度だが、バッカスだけは目を(すが)めた。

 そして、腕輪から魔噛(マゴウ)を取り出す。


「おっさん?」


 これまでのような素っ気ない態度ではなく、クリスを睨むようにしながら剣を取り出したバッカスの様子をニーオンが訝しむ。

 

「クリス、何があった?」

「ラミニムたちに囲まれた」


 バッカスのところまでたどり着き、ストロパリカを降ろしながら、クリスが端的に答える。

 その答えに、バッカスはますます眉間の皺を寄せる。


「お前ら二人ならどうにでもなるだろ?」

「数が尋常ではないんだ」

「何を言って……」


 バッカスが周囲の気配を探りながら聞き返そうとして、言葉を止めた。

 そして、バッカスが言おうとした言葉を、即座にニーオンが口にする。


「ガリル、アーランゲ……構えろ」

「ふむ。将来有望な少年たちだな」

「だろ? だからここで潰すワケにはいかねぇよな?」


 クリスとバッカスはそう笑いあう。


「クリスさん、バッカスくんと合流するなり急に余裕になるじゃない?」


 そんな二人に、ストロパリカがどこか不満そうに口を尖らせる。

 だが、クリスはそんな彼女へ、真面目な顔をして返した。


「ストロパリカは魔獣戦は苦手だと言っていただろ。

 安心して背中を預けられるバッカスと貴女を一緒にはできないからな」

「うーん、お仕事スイッチ入ってるクリスさんはからかいづらいわね」


 緊張を漲らせて構えている少年たちは、背後で軽口を叩き合っている大人たちに対して、大人の余裕ってスゲーなどと、合っているんだか間違っているんだかな感想を抱いていた。


 少年たちの胸中を知ってか知らずか、バッカスとクリスは彼らよりも前に出る。


「確かに気配が多いが、どんだけいるんだ……?」


 すでに目視できている小柄な(ラミニム)カルヴだけでも十は越えている。


 バッカスとクリスが殺気をぶつけて脅かしているのですぐには襲ってこないが、しばらくすると痺れを切らして襲ってくるのも出てくるだろう。


「私の知識だと、緊急時の一時的な群れは十匹前後のハズなんだが」

「俺の知識でもそうだよ。マジでどんだけいるんだか」


 こちらを取り囲む数を増やしていく小柄なカルヴを見ながら、バッカスとクリスがうめいていると、ストロパリカが補足をしてくれた。


「気配だけならざっと四十はあるわね」

「そりゃまた大量なこって」

「広い場所で見たらさぞかし壮観なコトだろう」


 やれやれと二人は嘆息を漏らす。

 だが、そこに悲壮感は何もなく、面倒そうな態度なのだ


 二人の背中を見ながら、少年たちは内心ですげーすげーと騒いでいる。

 大人や強者は、こうやって余裕を見せることで、自分たちを安心させてくれているのだと勝手に解釈してハシャいでいる。もちろん心の中で、だが。


「俺とクリスで可能な限り倒すが、この数だ――確実に討ち漏らしは発生する。それをお前たちで、倒してくれ」


 後ろを見ながら告げるバッカスに、ニーオンたちがうなずく。

 それから、さらに後ろにいるストロパリカに視線を向けた。


「私にはあまり回さないで欲しいわ。対人戦はできるんだけど、魔獣戦は苦手なのよ。あいつ等の食べるって比喩じゃなくて本気だろうし」

「自衛くらいはできるよな?」

「それはもちろん」


 言動はふざけていても、この場で本気のおふざけをするほど、ストロパリカもバカではない。


 ならば――


「お前ら、討ち漏らしを倒しつつ、ストロパリカの護衛を頼む。

 本人が言っている通り、魔獣戦には馴れてないみたいだからな」

「わかった!」


 少年たちはバッカスの言葉に了解しつつ、ストロパリカを見る。


 対人戦に特化した何でも屋。

 盗賊たちを倒したり、暗殺者や、闇の組織の人との戦いが得意なのだろうと、勝手に期待値を高めている。


「ボクちゃんたち、よろしくね~」


 少年心を弄ぶお姉さんスマイルを浮かべて手を振るストロパリカ。

 ニーオン少年とアーランゲ少年はともかく、ガリル少年には効果がバツグンのようだ。


「女の前でカッコつけたくなるのは分かるが、肩に力入れすぎて空回りするんじゃねーぞ。そんな邪魔な奴、魔獣と一緒に叩き斬るぞ」


 何となく不安になったバッカスは、ガリル少年を見ながら、鯉口を切ってみせる。すると、ガリル少年は気合いを入れ直したようだ。


「そろそろ痺れを切らしそうなのがいるな」

「切らす前に話が纏まったのは何よりだな」


 バッカスはクリスとアイコンタクトを交わすと、魔力を込めながら剣を振り抜く。


 クリスも魔力を込めた切っ先を地面に擦らせながら振り上げる。


蒼牙刃(ソウガジン)ッ!」

走牙刃(ソウガジン)ッ!」


 バッカスの抜刀の剣圧とともに放たれた青い魔力衝撃波が、動きたくてうずうずしてそうな小柄な(ラミニム)ガルヴの一匹を襲う。


 クリスが剣を振り上げながら放った白い魔力衝撃波は、剣圧とともに地面を走る牙となり、バッカスとは別の小柄な(ラミニム)ガルヴを襲う。


 それぞれの衝撃波は炸裂し、周囲のガルヴも巻き込んで吹き飛ばす。


 その爆発こそが開戦の合図。


 舞い上がる土煙などの合間を縫うように、多数のガルヴが二人を狙って動き出した。



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