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一人前のひよっこに、乾杯 1


 ムーリーの店を後にしたバッカスは、魔術学校の校門の前で、しばらく時間が過ぎるのを待っていた。


 そして、目的の二人を見かけて声を掛ける。


「よ! お二人さん。酷い顔してやがんな」

「バッカス……」

「バッカスさん……」


 ルナサとミーティの授業の予定を事前に確認していたバッカスは、この二人を校門の前で待ちかまえていたのだ。


 今日は二人セットで下校するだろうことも、想定済みである。


「どーせ、昼メシもロクに喉を通らなかったんだろ?」


 二人がうなずくのを見て、バッカスは仕方なさげに笑った。


「動く気力あるなら、少しウチに寄っていけよ。

 ギルドに行くのはその後でも遅くないぜ」


 バッカスの誘いに二人は顔を見合わせる。

 恐らくは真っ直ぐに家に帰るか、ギルドに向かうかするつもりだったのだろう。


「食べやすそうなモン何か出してやるから、寄っていきな」


 変に二人きりにさせると、新人病を拗らせかねないと判断して、やや強引な誘い方をする。


 すると、再び顔を見合わせた二人はそれぞれに告げた。


「バッカスさんじゃなかったら不審者のセリフですよね」

「顔が青い割には辛辣じゃねーか、ミーティ」

「端から見ると体調悪そうな女の子狙ってる悪人なのは間違いないわ」

「お前も辛辣か、ルナサ」

「バッカスさんって少し悪人顔してるしね」

「そうね。誤認逮捕常連リストの上の方にいそうな顔よね」

「そこまで悪人面か俺?」


 なにやらボロクソに言ってくる二人に、バッカスはしまいには泣くぞと顔をひきつらせる。

 そんなバッカスを見ながら、何てことのない軽口を叩いたことで、いくらかマシになった顔に笑顔を浮かべた二人が頭を下げた。


「お言葉に甘えさせてください」

「わざわざ誘うってコトは、何か理由があるのよね」

「ま、ガキのメンタルケアってやつは、大人の責任みたいなモンだよ。

 ましてや、顔見知りのガキどもとなりゃ、なおさらだ」


 いつものような皮肉っぽい笑顔。

 だけど、今の二人には、不思議と安堵を覚える笑みだった。




 そうしてバッカスがルナサとミーティの二人を連れて帰ってくる。


 居住区へ向かう為、工房の脇にある、狭くて段差のある階段を上っていく。

 そしてのぼりきった時――


「待ってたわよ、バッカス!」

「いやお前は別に呼んでねぇんだけど?」


 ――なぜか玄関の前で、仁王立ちしたクリスが待ちかまえていた。


「どうせバッカスのコトだから口ではなんのかんの言いながら、ルナサちゃんとミーティちゃんの様子を見に行くだろうなっていう確信はあったの」

「そうかよ」

「二人の精神状況や体調を考えると絶対に自宅へ連れ込むだろうなっていうコトも想定済み!」

「言い方」

「となれば料理!」

「思考の飛躍がひどいな」

「となれば美味しいオカユを頂ける絶好の機会!」

「地味に発想がゲスいぞ」

「二人のコトは心配だけどまぁ新人病だし?」

「そこは言わんとしてるコトを分からんでもない」


 クリスが新人病をあまり問題視していないのは、元騎士だからというのが大きいだろう。

 彼女からしてみると、新人病なんてものはいずれは(わずら)うものであり、退くも進むも、自ら向き合って結論を出すしかないものなのだ。


 新人病を患わぬ者は騎士にあらず。

 乗り越えて騎士になるのも、心折れてそれでも騎士であろうと裏方に回るのも、あるいは騎士を辞めるのも、全ては本人の選択次第。


 真に褒めるなり慰めるなりするべき時は、結果がどうあれ結論へとたどり着いた時である。

 ……というのが、この国の騎士たち大半の考え方だ。


 もっともルナサとミーティは、騎士や傭兵を目指しているワケではない。ましてや不意遭遇気味に新人病を患ってしまったが故に、クリスとしても多少は気にしているようだが。


 これが、騎士や傭兵、何でも屋(ショルディナー)を本業としている新人であったなら、どんな事情があれど気にするだけ無駄と言い放っていた可能性はゼロではない。


 そこはバッカスも近い考えだ。

 二人がその類の仕事を将来の夢としていたのなら、メンタルケアの仕方をもう少し厳しいモノにしたかもしれない。


 まぁこの理論でいくと職人を目指しているミーティはともかく、魔術士を目指しているっぽいルナサの方は気にかけて良いのか怪しい気もするが……。

 とはいえバッカスとしてもクリスとしても、今回は二人セット扱いなのは間違いない。

 細かいことは気にしすぎたら負けである。


「そんなワケで、二人に便乗して美味しいお米(エシル)料理を食べにきたの」

「堂々と胸張って言うコトか?」

「こういう時って変に気を使われた方がシンドくない?」


 ねぇ? と片目を瞑って、バッカスの背後にいる二人に訊ねるクリス。


 二人は少し戸惑いながらも、だけどこの行動と言動こそがクリスなりの気遣いなのだろうと考えて、正直にうなずいた。


「ダメ?」


 両手を合わせて上目遣い。トドメにチロリと舌を出し、全力で甘えるように訊ねてくるクリスに、バッカスは思い切り顔をしかめた。


 あざとく、可愛らしい仕草だが、クリスがやるような仕草に思えない。


「どこで覚えてくるんだそういうの?」

何でも屋(ショルディナー)やってると、女性同業者はまだまだ貴重だからってみんな良くしてくれるのよ。その時に色々と教えてもらってるわ」

「そうかよ」


 何だかバッカスは疲れてきて、小さく嘆息する。

 クリスに余計なことを教え込んだ奴らはあとで殴っておこう。


 自称正当派美人の弓使い辺りは間違いなく主犯格だ。


「とりあえず入ってくれ。

 一応、クリスが来る可能性も考えてたからな、下拵えは多めにしてある」

「やった! そうこなくっちゃ!」

「二人も、俺だけよりもクリスがいた方が気が楽だろうしな」


 そう言ってから、バッカスは二人に気づかれぬようにクリスに視線を向ける。

 その視線の意味に気づいたクリスも、二人に気づかれないように小さくうなずき舌を出す。


 道化ともワガママとも言えるクリスの今回の行動も、結局は二人の為だったというだけだ。

 お粥が食べたいというのは、かなり本心でもあるだろうが……。


(まったく、クリスのやつもだいぶお節介だな……)


 胸中でそう独りごち、無自覚にブーメランを投げながら、バッカスは自宅の玄関の鍵を開けるのだった。



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