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空腹はスパイスと言うけれど、限度がある 4

本日4話目٩( 'ω' )و


 後を付けているのはとっくに気づかれていたらしく、警告を受けた。


 それでも、彼女――ルナサ・シークグリッサは可能な限り息を殺し、警告にも反応せず、ただ愚直にそいつの後を追い続けた。


 そいつは、友達をさらった魔獣は、警戒心が強く迂闊なことをされて警戒されると厄介だと言っていた。

 彼女はそんなことを知らなかったので、素直にその言葉を受け入れた上で、そいつを追いかける。


 彼女は自分でも分かっていた。

 そいつの邪魔をしてしまえば、友達を救える可能性が下がることを。


 正直に言って、そいつのことは以前から知っていて、さらに言えばその人間性が大嫌いだった。

 だが、何でも屋(ショルディナーズ)ギルドの偉そうな人がわざわざ声を掛けたところを考えれば、そいつが一番の適任だったんだろうというのは分かる。

 実際、誘拐を行なった魔獣の正体も性質も知っているようだった。


 そいつの邪魔はしない。

 大嫌いだからという理由で邪魔をする理由はない。

 そもそも、友人の生死が掛かってる。


 でも、そいつを信用しきれない。

 だから、邪魔にならないように見届けたい。


 自分のやっている行動そのものが、そいつの足枷になっているというのを理解しながらも、彼女はそいつの追跡をやめられなかった。


 そして、ついにそいつが動いた。

 森の壁に向けて、なにやら剣を振るうと、壁に空いた穴の前が水浸しの泥濘(ぬかるみ)となった。


「魔剣……」


 使い手も作り手もあまり多くないと聞いていたそれを、そいつは苦もなく振るってみせる。

 魔術士であるならば、同じようなことを魔術で出来るはずだが、それをしない理由はなんなのだろうか。


 そう思っていると、友人を誘拐した鼠の魔獣が穴から顔を出した。


 生き物の中には、周囲に投射する魔力帯(キャンバス)に対して敏感に反応するものがいると聞いたことがある。

 もしかしたら、あの鼠はその類なのだろうか――


 などと彼女が考えているうちに、そいつが周辺へと織り上げた魔力帯を広げ、術式を投射しはじめた。

 それに鼠が反応していないところを見ると、彼女の推測は間違っていたようだ。


 とはいえ――


(なんて複雑な術式なの……)


 投射された魔術帯(キャンバス)に織り込まれた術式を読み解く訓練は、魔術士にとっては必須とされる。

 その為、本来は使用する術者しか見えない魔力帯と術式を、魔術士は視る訓練をし、読み解く力を身につけるのだ。


 それは見習いである彼女も例外ではない。

 だからこそ――彼女はその術式に絶句する。


 自分が学校で習っているような術式など足下にも及ばないような複雑な内容でありながら、広範囲に投射された術式。

 辛うじて、赤の神とその眷属である山の子神と氷雪の子神の三柱に関する記述があるというのが理解できた程度だ。


 そして、タイミングを見計らっていたらしいそいつは――


氷銀(ひょうぎん)の魚よ、雪山(ゆきやま)を泳げッ!」


 茂みから飛び出しながら、練り上げた魔力(カラー)を魔力帯に描かれた術式に流し込み、起動の為の呪文を叫んだ。


 瞬間――そいつの周囲に氷の魚が複数匹現れて、軽く飛び上がると地面へ向けてダイブする。


 ぶつかった場所が凍結し、氷筍(ひょうじゅん)が生える。


 鼠の魔獣は慌てて巣穴に戻ろうとするものの、入り口が半分ほど凍り付いていて、中に入れない。

 それならば――と、巣穴を捨てて逃げようとするも、周囲に生み出された逆さ氷柱が完全に鼠の退路を塞いでいた。


「すごい……」


 絶妙に制御された魔術だ。

 不規則にあちこちを凍結させる似たような術なら使える魔術士は少なからずいるだろう。


 だけど、そいつの使った魔術は桁が違う。


 等間隔で氷柱を作り出すことが難しいのに、それだけでなく鼠の魔獣が逃げられないギリギリの隙間を作りだし檻に形成させている。


 逃げられないと悟った鼠の魔獣は、威嚇するように唸りながら、そいつと向き合った。


 そいつは、気楽な調子で水の魔剣をもう一度抜き放つ。


「とっとと終わらせようぜ」


 言うやいなや、鋭い斬撃を繰り出した。


 そいつは、これだけの魔術を使えるハズなのに剣を使う。

 この期に及んで、余裕ぶりたいのだろうか。あるいは、こちらに何かを見せつけたいのかもしれない。


 友人の命が掛かっているのに、余裕を見せつけるような戦い方をする。

 だから彼女は、そいつのことが嫌いなのだ。


 力を持っているくせに、正しく力を使ってくれないのだから――


次話が準備出来次第、まだまだ投稿します!

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