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魔剣技師ムーリーの、甘味食堂 1

きまぐれに本日更新2話目٩( 'ω' )و


 その日、クリスは軽鎧を身に纏ってモキューロの森にやってきていた。


 すぐそばに国境の関所があるこの森は、餓鬼喰い鼠の出たエメダーマの森と比べると、やや危険度が高い。

 その餓鬼喰い鼠が、この森の奥地に生息しているといえば多少の危険度は伝わるかもしれない。


突撃す(エグラハク・ギ)る大鹿(ビ・ノシネーヴ)……一応、足跡はあるが、見当たらないな」


 鎧を纏い、剣を携え、意識を仕事や戦闘に向けた時、口調が騎士に寄ってしまうのは、もはやクセのようなものだろう。


「難易度の割には依頼料の美味しい仕事だと思ったんだがな」


 独りごちつつ、地面を伺う。


 突撃す(エグラハク・ギ)る大鹿(ビ・ノシネーヴ)はその名の通りかなり大きな鹿だ。

 特徴的なのは角で、三叉矛を思わせる形状で、本当に槍を思わせるほどに先端が鋭い。

 その頭の槍を、敵に向けてスゴい速度で突撃してくるので、突撃す(エグラハク・ギ)る大鹿(ビ・ノシネーヴ)と名付けられた魔獣である。


 駆け出しの何でも屋(ショルディナー)が相手にするには難しい相手だ。

 ベテランであっても対処法を知らなければ、突撃の餌食になりかねない。


 逆に、対処法を正しく知っていると、駆け出しでも何とかなってしまう魔獣でもある。


 もっとも、馴れてようが馴れてまいが、その巨体には注意が必要だ。油断して踏みつぶされたらそれだけで致命傷になるほど、巨体というだけで危うい相手ではある。


「わざわざバッカスから腕輪を借りて来たというのに」


 突撃す(エグラハク・ギ)る大鹿(ビ・ノシネーヴ)は非常に大きい鹿なので、あの腕輪ナシで持ち運ぶとなると難しい。

 ましてや今回、依頼人はその肉を求めているのだ。

 倒して討伐証明部位を切り取って終わり――とはいかないのである。


 とはいえ、獲物が見つからなければどうにもならない。


「うーん……」


 小さくうめきながら、クリスは木々の隙間から空を見る。

 太陽は頂点を過ぎ、少しずつ落ち始めている。


 もう少し探して見つからないのであれば、切り上るべきだろう。また明日改めてくるべきだ。

 腕に覚えはあれど、この森で一泊したいとは思わない。


 クリスがそんなことを考え始めた時、少し離れた場所から地響きのような音が聞こえてきた。


「いた、か?」


 口の中で小さく呟いて、音のした方向へと駆け出す。



 そして、木々をかき分けて音の発生源らしきところへとたどり着いた時――



「うん。剣としての使い勝手も悪くないわね」


 野性味を感じる造作をした美丈夫が、桃色の刀身をした剣を試すように振っていた。

 その脇には倒れ伏した突撃す(エグラハク・ギ)る大鹿(ビ・ノシネーヴ)がいる。


「……ああ、一足遅かったか」

「あら?」


 思わず声を漏らすと、その男はこちらに顔を向ける。


 風貌や雰囲気からは野性味を覚えるのだが、非常に清潔感を感じる人物だった。身だしなみがしっかりとしているからだろうか。


 恐らくは天然であろう純白の髪の先端がくるんと(つの)だった面白い髪型をしている。

 こちらに向けられた桃色の双眸は、好奇心とやや警戒心が宿っているようだ。


「すまない。驚かせたか」

「いいえ。大丈夫。野盗の類ではなさそうで安心したわ」


 彼は、女性的な仕草としゃべり方をする。

 しかしそれが板に付いているというべきか、彼の仕草として自然であるからか、クリスは特に気にならなかった。


「もしかして、この大鹿。アナタの獲物だった?」

「どうだろうな。大鹿を探してはいたが、まだ遭遇はしていなかったんだ」

「そう」


 ふむ――と、男性は下唇に人差し指を当てて何やら思案を始める。

 それから、僅かな時間のあと、彼は口を開いた。


「目的は倒すコトかしら?」

「……いいや、依頼人は肉を欲しがっててな」

「アナタ一人で捕まえに?」

「知り合いから、運ぶ為の神具(アーティファクト)を借りてきている」

「そういうコト」


 なるほどなるほど――と、彼はうなずくと手を合わせる。


「アナタがイヤじゃないんだったら、この大鹿、貰ってくれないかしら?」

「それは願ったり叶ったりだが……いいのか?」

「アタシは襲われたから返り討ちにしただけなの。貰えるなら角と魔宝石は欲しいけどね」

「貴方が倒したのだ。角と魔宝石を持って行くのは構わない。だが本当にいいのか?」

「ええ。別に依頼とか受けてるワケじゃなくて、単にこの剣を試したかっただけだからね」


 そう言って彼が見せてきたのは、桃色の刀身をした長剣だ。鍔がハートの形をしていて、柄がチョコレートのような色と見た目をしていることを除けばシンプルな長剣だ。


「それは?」

「魔剣よ。アタシが作ったの」

「魔剣技師なのか」

「そうなの。魔剣技師ムーリー・クー。それがア・タ・シ♪」


 胸を張って名を告げる様子を見るに、魔剣技師である自分に誇りと自信を持っているのだろう。


「名乗られたからには名乗り返すのが礼儀だな。

 元騎士で今は何でも屋(ショルディナー)をしているクリス・ルチルティアだ」

「忍び名の時はクリスちゃんって呼んでいいかしら?」

「構わない。あと……」

「もちろん、忍び名であるコトを公言したりはしないわよ。

 雰囲気を見るに、何でも屋やっている事情とかもありそうだしね?」


 そう告げて片目を瞑って見せるムーリー。

 クリスの直感としては、それなりに信用できそうな男な気はするが……。


「疑うのも無理はないけどね。

 こう見えて、料理ギルドでは有名だし、貴族対応も結構しているのよ。

 だから、貴族事情もそれなりに知っているつ・も・り。

 例えば――クリスティアーナ様の噂とかね」

「……ッ!」


 思わず剣に手を伸ばしてしまった。

 それを見、ムーリーも失言だったと気づいたのか、魔剣を地面に刺してから、両手を前に突き出し、慌ただしく左右に振る。


「待って待ってッ! 今のは完全にアタシの失言だったわッ!

 むしろ噂とか信じてないというか、お客様から真相を聞いているから、同情している側よッ! だからね? ね? 剣から手をどけてッ、お願いよッ!」


 しばらくムーリーを見つめていたクリスだったが、ややして肩のチカラを抜いて息を吐いた。


「すまない。過剰に反応してしまったようだ」

「いいわよ。今のはアタシが悪いわ。広場で変な貴族に絡まれたって話も聞いてるし、そういう反応しちゃうのも仕方ないわよ」

「そう言って貰えると助かる」


 ふぅ――と、クリスは気を改めるような息を吐いてから、顔を上げた。


「ところで料理ギルドと言っていたか? 魔剣技師なのに?」

「そうなの。料理も魔剣もどっちも好きで好きなのよ。だから、せっかくだしって両方やってるの」

「そうか。知り合いの魔剣技師も、魔剣を作りつつ魔導技師と何でも屋を兼業しているし、やっぱり魔剣技師一本だとキツいのか?」

「あら? その魔剣技師さんが気になるわ……。

 でも、先に質問に答えちゃいましょう。実際、一本だとキツいわ」


 キッパリと告げるムーリー。

 それに、クリスも「やはりそうか」と苦笑した。


「今の時代――あまり魔剣の需要もないからな」

「そうなの。だから完全に趣味の領域なのよね。魔剣制作って」


 それでも、魔剣制作が止められないので、兼業しながら続けているそうである。


「ねぇ、クリスちゃんの知り合いの技師さん、お名前を伺ってもいいかしら?」

「バッカスだ。バッカス・ノーンベイズ。知っているか?」

「ええ。飲兵衛魔剣技師バッカスよね? 名前だけはね。

 でも魔剣技師っていうのはあくまで二つ名ってだけで、何でも屋や魔導技師としての名声の方が有名みたいだけど」

「それは貴方もでは? 魔剣を造っていても、発表の場がないだけだろう?」

「……ああ、それもそうね。魔剣ギルドとかも無いものねぇ……」


 何やら遠い目をするムーリー。

 あまりバッカスについて知らなかった理由に、何やら気づいたようである。


「……と、長々と悪かったわ。

 鹿をシメるの、お手伝いしましょうか?」

「いいのか? 実際に料理が出来る者に手伝って貰えるのはありがたい」

「もちろん。その代わり……ってワケじゃないんだけど、今度アタシのお店に食べに来てくれないかしら?」

「その程度でよければ、是非。

 仕事外では堅苦しいしゃべり方は控えているので、驚かせてしまうかもしれないが」

「そんなの気にしないわよ。アタシがこれよ?」

「なるほど。説得力がある」


 クリスとムーリーは笑い合うと、大鹿の処理を始めるのだった。



本作のように長いタイトルって呼びやすい略称をついつい考えてしまうんですよね

素直に【バッカス】でいいだろうと言われるとそうなんですけどw

【まけバカ】とか【剣バカ】とかもありだと思うんですが、どうだろう?

【バカ雑】とか【カス雑】とか……バッカスの名前を組み込もうとすると、

罵倒みたいになるのが難点だったりします。

なんか、コレっていう略称、ありませんかねぇ……?

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