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誤解を招くな、運を招け 7

本日更新3話目٩( 'ω' )و


 模擬戦から数日後。


 バッカスが自分の工房で仕事をしていると、ルナサが工房に訊ねてきた。


 そして、バッカスの顔を見るなり――


「ごめんなさいッ!」


 そう言って頭を下げてきた。


「詫びの言葉が出るとはお前にしては殊勝な態度だな」


 皮肉げに笑いながら、バッカスは訊ねる。


「――で、ルナサ。それは何に対するゴメンナサイだ?」

「あなたって、本当にいじわるね」

「クリスはいつも暇そうだな」

「私は常にあなたのご飯を食べにきているだけよ」

「はいはい。ウチはメシ屋じゃないから他に当たれ」


 いつものように工房に遊びに来ているクリスからの言葉に、バッカスは雑に返答しながら、ルナサへと視線を向けた。


 何やら沈痛な面もちをしているルナサに、クリスは優しげな声で少し厳しめな言葉を投げる。


「バッカスはいじわるっぽく言っているけど、言っているコトは間違ってないのよ?

 ルナサちゃんは自分が何に謝っているのかちゃんと自覚はしてる?

 謝りたいから謝る――なんてモノはただの自己満足だからね それは謝罪とはいえないわ。

 その場合、謝るべきバッカスに対してとても失礼なコトよ?」


 クリスもバッカスも別にルナサを泣かしたいワケではない。

 それでも、二人は敢えていじわるく、あるいは厳しくそれを口にする。


 ルナサは猪突猛進気味で、感情に真っ直ぐな人間ではあるが、決して頭が悪いワケではない。

 思考の道筋を順序立てるよう促せば、自分なりの答えを導き出せるし、一度導き出せばこれまでの行いを反省できる。


「まずは、一昨日。突然工房に飛び込んできたコト。

 あと、模擬戦のあと、迂闊なコトを言っちゃって、料理させてしまったコト。

 ……ごめんなさい」


 改めて頭を下げるルナサに、バッカスは小さく笑った。


「良いぜ。許してやるから、もう気にすんな」

「ほんと、ごめん。まさかあんな大事になるなんて思ってなくて」


 何度も頭を下げてくるルナサを手で制し、バッカスはルナサを気遣うように笑みを浮かべた。


「大事ってほどでもないさ。極上の酒も飲めたしな」

「そのお酒で全部許しちゃってるだけじゃないの?」

「そこは否定しきれん」


 真顔でうなずくバッカスに、ルナサは小さく吹き出した。

 ようやく笑顔を見せたルナサに、バッカスは皮肉げな笑みを浮かべて優しく告げる。


「謝って済むコトなら謝って済ませばいいんだよ。

 いつまでも気にするくらいなら、コトを済ませたあとで、そうやって笑ってればいい」

「いつになく素敵なコトを言うじゃない」


 からかうようなクリスに、バッカスはひどく真面目な声色で返す。


「バカの尻拭いや、アホのやらかしをフォローする為に、王都中を走り回ってりゃあそういう考えにもなるってもんだ」

「声に実感が籠もりすぎてて言葉もないわね」


 バッカスは王都で暮らしていた頃はどんな生活をしていたのだろうか、クリスは少し気になった。


「まぁ何割かは自業自得も混じってんのは認めなくはないが」

「そして謝って済ましてきたのね」

「そりゃあ謝って済む問題に対してはな」


 思わず呆れた声を出すクリス。

 それに、バッカスは皮肉げに口の端を吊り上げてうなずく。


「そっか……バッカスも謝って済ましてきたんだ……」


 こちらのやりとりを聞きながら、何やら感心しているルナサ。

 バッカスの口にする『謝って済む問題』には、色んな意味が含まれていそうなのだが――クリスは敢えてそこに触れることはしなかった。


「ねぇバッカス。今日も二人前の代金払うわ」

「だからウチは食堂じゃねぇッ!」


 ったく――とぼやきながら、バッカスは頭を掻きつつ立ち上がる。


 バッカスの脳裏には鶏肉と白身魚が浮かぶ。

 どちらも軽い処理をして、冷蔵庫に入れてあるモノだ。


「鶏肉と海の魚。どっちがいい?」

「そうねぇ……」


 人差し指を口元に当てて少し逡巡してから、クリスはルナサへと笑いかけた。


「ルナサちゃんは、鶏肉とお魚。どっちが好きかしら?」

「えっと、鶏肉……かな? お魚ってあんまり食べたコトなくて……」

「じゃあせっかくだからお魚に挑戦してみない?」

「はいはい」


 両手を手を合わせて嬉しそうにするクリスに、バッカスは嘆息混じりに答えて歩き出す。


「先に上がってるから、お前らも適当に上がって来いよ」


 言い放つように口にしてから、バッカスは工房の入り口へ向かう。

 そんなバッカスの背中に、クリスが声を掛ける。


「そういえばバッカス。あなたさ、以前に誤解を招かず運を招けって言ってたじゃない?」

「言ってたか? イマイチ覚えてないが、それがどうした?」

「来てるんじゃないかなって。運。まぁ、運は運でも女運ってやつだとは思うんだけど」


 クリスは自分とルナサを示して笑う。

 それに対してバッカスは、嘲笑するような顔を見せてから、一蹴した。


「女難の間違えだろ」

「否定できないわね」

「否定しないのッ!?」


 何やら驚いているルナサの声を聞きながら、バッカスは工房から出ると、自宅への階段を上がっていく。


「魚……魚か。

 骨を取るのが面倒だが、ダエルブ(パン)に乗せたり挟んだりして、フィレオフィッシュみたいのでも作りますかね」


 タルタルソースもどきの作り方も考えていたところだ。チーズとともに挟むのも悪くないかもしれない。

 せっかくだから、白身魚に合いそうな酒も開けてしまおうか――などと考えながら、バッカスは自宅の玄関の鍵を開けるのだった。


今日はここまででございます٩( 'ω' )و



【魔剣技師の酔いどれ話】

『バッカスが謝って済ませてきたコトの一例』

・素直に謝った

・ちょっと睨みながら謝った

・ガンつけながら謝った

・殺気ぶつけながら謝った

・目の前で魔術を見せてから謝った

・うっかり魔術誤射ってから謝った

・殴って蹴って受け入れ態勢を整えさせてから謝った

・謝罪を受け入れてもらうまで殴るのをやめない

・謝罪を受け入れてもらうまで蹴るのをやめない

・謝罪を受け入れてもらうまで魔術ぶっぱするのをやめない

・後ろ盾をチラつかせて謝った

・悪友である王子様に見てもらいながら謝った

・悪徳貴族に対し書類偽装の証拠をチラつかせながら謝った



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