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記憶に残る、白くてとろとろ 1

あらすじに『バッカス24歳』と書いてましたが、今後を考えてちょっと変更します。『バッカス27歳』です。今日までのあらすじでサバ読んでたってコトにしてください。


 二度目のボアしゃぶパーティから一週間ほど経った頃――


「お邪魔します」


 工房で一般向け小型コンロの設計図を作っていると、入り口から一人の女性が入ってきた。


 それは、透き通るようなピーチブロンドをした女性だ。気高さと優しさを兼ね備えたような茶色の瞳を笑みの形に細めながら、軽く会釈するように頭を下げる。


 女性にしてはやや背が高い。のんびりとした歩みからも、身体を鍛えてきたもの特有の動きを感じる。


 工房へと入ってきたのは、いつぞや助けた貴族令嬢だった。

 それを確認してから、バッカスはやや皮肉げな笑みを浮かべて訊ねる。


「邪魔するぞ――じゃないんだな」

「すでに()騎士なので。それにすぐに復帰する気もなく、しばらく自由にするつもりなの。いつも片意地張ったしゃべり方だと疲れるでしょう?」


 どうやら、オンとオフの切り替えがはっきりしているタイプのようだ。


「そのわりには、この間は騎士口調っって感じだったけど」

「警戒してたのもあるし、第一声がついつい騎士の調子だったから、引っ込みつかなくて」


 てへぺろとばかりに笑う彼女は、倒れていたときからは想像もつかないほど愛らしい。


 クールな顔つきを横から見れば、その凛々しさに同性からも一目惚れされそうな美しさを持つ。だがこうやって対面してやりとりをしている分には、可愛らしさも充分に兼ね備えているようにも思える。


「それで、何か用かな……クリスティアーナお嬢さん?」

「クリス・ルチルティアよ。しばらくはそういう名前で何でも屋(ショルディナー)をするコトにしたからよろしくね。ちなみに、今日はお礼を言いに来たの」

「バッカス・ノーンベイズだ。一応、魔剣技師を名乗っちゃいるんだが、どうにも何でも出来る便利屋さんや料理人扱いされてる昨今に疑問を感じている男でもある。

 わざわざ礼を言いにくるなんて、その律儀さには頭が下がるよ」


 そういえば、この前もわざわざ礼を言いに来た少女がいたな――と、バッカスは思い返す。


 この街の少女たちは、義理堅い子たちが多いのだろうか。


「倒れた私を介抱してくれてありがとう。改めてお礼を言うわ」

「随分とサッパリとした顔をしてるけど、悩みは無くなったのか?」

「吹っ切るのには時間がかかりそうだけど、それだけに拘泥(こうでい)しててもダメになるだけだって気づけたから」

「そりゃ何より」


 晴れ晴れとした顔で告げるクリスに、問いかけたわりには興味なさげにバッカスは相づちを打つ。


 それから、書いていた設計図を裏返しにすると、席から立ち上がった。


「そろそろ昼だな」

「そうね」


 ニコニコと嬉しそうな顔で、クリスがスススッと近づいてくる。


「…………」

「オカユ、美味しかったわ。

 叔父様のところの料理人が再現してくれたんだけど、あと一歩何かが違ったのよね」

「…………」


 何が言いたいのか予想がついたバッカスは、半眼でクリスを見遣る。


「本音は?」

「お礼を言いに来たというのは本当よ?」


 クリスは先にキッパリとそう告げてから、ややしてバツが悪そうな顔で俯いた。


「それとその……貴方の作ったオカユの味……忘れられなくって」


 そんなところだろうと思った――と、バッカスは小さく息を吐く。


「それに、美味しいモノって食べてる間、嫌なコトを忘れられるって気付いたの。私の分の食費はちゃんと払うから――」


 冗談めかしているようで、どことなく感じる必死さ。

 美味しいモノが食べたい。忘れられないというのも本心だろう。

 同時に、嫌なことを忘れられるというのも、本心のようだ。


(ショックを随分と引きずってんな。根深いところが傷付いたか?)


 バッカスは表情を変えずに、彼女の言葉を吟味し、わたわたと色々と言葉を重ねる様子を伺う。


(わざわざ王都から叔父が治めるこの辺境の町に来たのは、王都に居づらいから……わざわざ騎士を辞めてるってのは……)


 何となく脳裏に結びつくものがあって、バッカスは何度目だか分からない嘆息した。


「えっと、ごめんなさい。図々しいコト言ってる自覚はあるわ……」

「あー……いや。クリスに対してため息をついたワケじゃねぇよ」


 バッカスが嘆息した対象は、貴族であり知人の一人であり、クリスの婚約者の父親であるシダキ・マーク・ドルトンド卿に対してだ。


 だが、クリスにそれを悟られたくはないので、誤魔化すように後ろ頭を掻きながら告げる。


「ま、俺の料理で心の傷が癒えるってんなら、振る舞ってやるさ」


 すると、クリスは分かりやすく顔を輝かせて両手を合わせた。


「ありがとう。バッカス!」


 美人の笑顔だ。

 そう悪いものでもない――そんなことを自分に言い聞かせて工房を出ようとすると、一人の少女が入り口にいた。


「ミーティ?」

「あ。もしかしてご飯の時間でしたか?」

「そういえば、今日は見学に来たいって言ってたな」


 半分約束を忘れてたバッカスは、やや思案して、ミーティに訊ねる。


「お前さん、メシは?」

「まだですけど……?」

「クリス、一緒に席に着く奴が一人増えるけどいいか?」

「ええ。あなたの家の食卓でしょ? あなたの都合優先でいいわ」


 こうなれば、一人も二人も同じである。

 バッカスは二人に気付かれないように軽く息を吐くと、口の端をつり上げた。


「お前も一緒にあがってこいミーティ。男の手料理で良ければごちそうするよ。ついでに俺が自分用に改造した調理用の魔導具も紹介してやる」

「え?」

 

 何を言っているのだろう――という様子で目を瞬くミーティだったが、やがて理解したのだろう。


「はい! お言葉に甘えさせてもらいますっ!」


 そう言って、バッカスにとっては直視しづらいような、眩しすぎる笑顔をミーティは浮かべるのだった。




 自分のあとについて階段を登ってくる二人の少女。

 自己紹介を交わし合ってる女子二人をその背で感じながら、バッカスは内心で苦笑する。


(……ここへ来て変に女運が変動した気がすんな。

 それが上がってるんだか、下がってるんだか分からんけども……)


 ただ何となく、だが――良かれ悪かれ、この女運の変動がここで終わらずにまだまだ続きそうな予感だけを感じて、バッカスは小さく小さく――今日はもう数えるのも面倒になった回数目の――嘆息する。


(とりあえず、薄切りダエルブ使ったピザトーストでも作りますかね) 


 お昼の献立を考えながら、バッカスは自宅の扉の鍵を開けるのだった。


準備が出来次第、次話もアップします٩( 'ω' )و


今話更新時点で

ジャンル別日間18位

ジャンル別週間43位

ジャンル別月間247位


 昨日と比べると急にランクが上がりました٩( 'ω' )و

 お読み頂いた上に、ブクマ・評価してくださった皆々様、ありがとうございます!


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