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空腹はスパイスと言うけれど、限度がある 2

本日2話目٩( 'ω' )و


「あー……酒呑みたい……。あと肉」


 二階にあった居住区から一階の工房に降りてきたバッカスは、そんなことを独りごちながら、自分の作った剣を入れてあるケースを物色する。


「お前、昨晩は鍛冶工房の連中としこたま呑んでただろ」

「そうだよ。おかげで、午前中に起きれなかった」


 鞘はなく抜き身のまま傘立てのようなもの中へ無造作に放り込まれた剣のうち、持ち手に青の魔宝石を用いたものを手にした。


「二日酔いとかないのか?」

「今生においては生まれてこの方、味わったコトないな」


 それから、別の傘立ての中に無造作に差し込まれた鞘を見る。

 青属性の魔剣の鞘に相応しいものを掴み、そこへ剣を納めた。


「どういう言い回しだよ。大袈裟な。そして二日酔いがないとか羨ましい」

「実は俺、人生の二周目を楽しんでるところなんだよな……って言ったら信じる?」


 バッカスが作り出す剣のうち、今漁っている場所に置いてあるモノは、刀身の形が常に一定のモノだ。

 それに合わせて鞘も作っているので、この辺りにある剣と鞘はどんな組み合わせでも一応は納まるようになっている。

 もっとも、剣と鞘の属性相性というものもあるので、そこは気にしないといけないのだが。


「あり得ないな。もし本当に人生二周目なら、こんな昼行灯みたいな生活してないだろ。オレなら真面目に生きるね」

「結構、真面目に生きてるつもりなんだがなぁ」

「言ってろよ」


 実は本当に人生二度目のバッカスなのだが、友人は信じてくれないらしい。

 前世はこことは異なる世界の日本という国で暮らしていた。オタク向けグッズショップの店員だったが、何の因果か生まれ変わってこの世界だ。

 生まれた時から、前世の記憶ってやつとつき合って生きている。


「えーっと、剣のホルスターはと……」


 青の魔剣と、愛用の片刃剣――こちらはふつうの剣だ――をホルスターに納めると、ズボンのベルトにひっかける。

 ホルスターのベルトを腰に対してたすき掛けするように斜めに巻き付けた。


「武装よし、と」

「相変わらず魔剣(ホイーラウェポン)に傾倒してるんだな、お前は」

「そうだよ。いつか神剣(ディバインウェポン)と同等の魔剣を作るのが俺のガキの頃からの夢さ」


 周囲を見渡しながら言ってくるライルに、バッカスは面倒くさそうに答えながら、棚から革の手袋を取りだした。


「そのわりには、武器とは関係ない魔導具を色々開発してるみたいだけど」

「研究を続けるにも金が必要なんだよ。だから何でも屋(ショルディナー)として魔獣退治も手伝ってやってるだろ」

「そういうの目指す奴って、神剣作るのに傾倒した情熱の人って印象あるけどよ。お前は違うよな?」

「神剣を作る為に神剣だけにこだわる奴は二流だよ。アレは生涯を賭けて作るもんじゃなくて、生涯で得た全てを注ぎ込んで作るモンだ……ってのが俺の持論な」

「なるほど、それで昼行灯してるのか。暇人だな」

「人聞きが悪いコト言うなよ。俺は暇も含めて人生を全力で楽しんでるんだよ」


 剣の準備を終えたバッカスは、ライルに言い返しながら、手首と肘のちょうど中間くらいまで覆うそのフィンガーレスの手袋を付ける。

 さらに左腕には手袋の上から、銀色に輝く魔宝石のついた腕輪を付けた。


「その魔導具の腕輪。量産できねぇのか?」

「バカいえ。神剣と同様に神の奇跡の具現した品、神具(アーティファクト)だぞ。今現在の人間の技術じゃ再現不可能だ」

「そりゃ残念」


 バッカスの答えに、ライルは大袈裟に肩を竦める。


「モノを収納できる腕輪……便利だと思うんだがなぁ」

「大昔はふつうに使われてたんだろうな。この大陸じゃあ、それなりの数が発掘はされるらしいぜ?」

「それを貴族と商人たちが独占してんだろ? コネでもなきゃ手に入らん」

「なんだ、分かってるじゃねぇか」


 そう嘯きながら、バッカスは必要な小物をいくつか物色し、身につけたり腕輪に収納したりした。


「準備よし、と」

「急かして悪いな」

「いいさ。餓鬼喰い鼠(パンディック・タロ)が出たなら、焦るのも分かる」


 餓鬼喰い鼠(パンディック・タロ)は、巨大なネズミの魔獣だ。その名の通り、人間の子供なら容易にその頬袋へとしまい込めるほどの体躯を持つ。

 基本的には森の外へはでてこないのだが、一度人間の味を覚えると、人里へとおりてくる為、発見されると同時に討伐対象になる魔獣である。


「巣穴の場所は分かってるのか?」

「エメダーマの森の中腹だ。地図も持ってきてある」


 手渡された地図に軽く目を通し、バッカスは一つうなずく。


「ここなら場所は分かる……ってか、こんな場所に出たのか」


 エメダーマの森そのものは、この街に住む魔導具職人を筆頭に様々な職人たちが材料の採取に利用することの多い森だ。

 当然、バッカスも利用している。


 逆に言えば、あまり危険のない森に、危険な魔獣が現れた。

 そのことこそが、緊急の案件であると言えるだろう。


「被害が出たのが昨日なのに、なんでここまで情報がまとまってるんだ?」

「友達がさらわれたと駆け込んできた女の子がいてな。その子の報告だよ」

「優秀だな。もっともトラウマにならなきゃいいが……さらわれたのはいつだ?」

「昨晩だな。採取に夢中で日が暮れちまったんだと」

「エメダーマはそれでも危険は少ないはずなんだがなぁ……」


 だが、事実――餓鬼喰い鼠(パンディック・タロ)が出現し、子供を一人さらっていったという。


「ま、ともかく行ってくる。報告はギルドでいいんだよな?」

「おう。悪いが頼む」


 そうしてバッカスは工房を出て行こうとして、ライルへと振り返る。


「一応、言っておくが、俺は魔剣技師だからな?」

「さっきも言ってたな。知ってるよ」

「魔剣士でもなければ魔剣使いでもない。魔剣を作る魔剣技師だ」

「わかってるよしつこいな。さっさと行ってくれッ!」

何でも屋(ショルディナー)は副業なんだ。こういう時以外は、指定依頼を受ける気はねぇって念押ししてるだけだよ」


 言うだけ言って気が済んだバッカスは、今度こそ工房を後にするのだった。


次話の準備が出来次第、すぐに投稿しますよ~٩( 'ω' )و

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