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何度も言うが面倒を招くな、幸運を招け 5


「ああッ、もう! なんなんですかッ!!」


 バッカスとムーリーが声のした方へとやってくると、ミーティを守るようにナイフを構えたテテナがいた。


 どうやらミーティは血を流して倒れている女性の手当をしているようだ。

 そして、テテナはそんなミーティと女性を守っているのだろう。


 テテナが睨んでいる先には、いかにもな黒装束に身を包んだ男がいる。

 堂々と姿を見せている辺り殺し屋としては三流っぽいのだが――立ち居振る舞いを見るに、テテナやミーティでは荷が重そうな相手だ。


 それを確認すると、バッカスはムーリーに視線を向けた。

 彼がその視線にうなずいたのを見て、バッカスは二人へと声を掛ける。


「あからさまに怪しいヤツに襲われてるな、お前ら」

「バッカスさん!」


 声に反応したのはミーティだ。

 テテナは黒装束と睨み合ったままでいる。


「ムーリー、こっちは頼む」

「ええ。応急処置はできてるみたいだから、この人抱えて下がっておくわね」


 女性のことはムーリーとミーティに任せて、バッカスはテテナの元へと向かう。

 バッカスはテテナの元までいくと、その肩を叩いた。


「よしよし。俺が声を掛けたあとも睨めっこをやめずにいたなテテナ。良い判断だ。もう下がって良いぞ」

「ありがとうございます」


 安堵した顔でぺこりと頭を下げて、テテナはムーリーたちの方へと向かって下がっていく。


「さて、そこの馬鹿装束。お前みたいなのが真っ昼間から姿見せてシゴトするとか、正気を疑う話なんだが、大丈夫か?」

「…………」


 どうにも黒装束の反応が鈍い。いや無いとまで言っていい。


「バッカスさん、その人おかしいんです。切っても痛がらないし、怯まないし」

「なんていうか剣付きゾンビ(バッツ・デッドロウズ)を相手にしているような感じでした!」

「ほう?」


 テテナとミーティの言葉に、バッカスは目を(すが)める。


(魔導具による人造ゾンビの類い……というコトか?

 だが、剣付きと違って、分かりやすいコアはなさそうだな……)


 昼間の町中で、ゾンビとはいえ人間解体ショーをやるのはいささかはばかれる。


「…………」


 しばらくの睨み合いののち、黒装束はバッカスを敵と見なしたのか襲いかかってくる。

 手にした肉厚のナイフを扱う動きは、確かに知性あるゾンビを思わせた。


「まずはひと当てしてみるかね」


 振るわれるナイフを(かわ)し、懐に飛び込むと相手の鳩尾(みぞおち)に肘をねじ込む。


 痛みは堪えられても呼吸は一瞬詰まる。

 それすらも堪えて反撃してくるほどの使い手はそういない。


 だが、そのゾンビはその数少ない使い手のように、反撃をしてきた。


(我慢してる……とは、少し動きが違うか)


 可能性は考えていたので、バッカスは驚くことなくそれをいなし、不格好な前蹴り(ヤクザキック)を黒装束に叩き込む。


 技そのものは格好悪くとも体重の乗った蹴りだ。それだけで、相手を吹き飛ばすくらいの威力は出る。


「なるほど。ゾンビっぽいってのもうなずけるな」


 地面を転がったあとで、まるで痛みを感じていないかのように、黒装束は立ち上がるとバッカスに向き直る。その姿を見て、バッカスは顔を(しか)めた。


(……ヘタしたら暴れてるのはコイツの意志とは無関係。ガチのゾンビじゃなくて、単に操られてゾンビっぽい反応になってるだけだとしたら、迂闊に殺すのも問題だな……)


 どうする?

 そう思案していると、明らかに誰かが戦闘している気配がこちらへと向かってくる。


「おいおいマジかよ」

「ここへ来て厄介事増えるのかしら? やーねー……」


 バッカスとムーリーが同時にうめく。

 そこへ黒装束が踏み込んでくるが、バッカスはよそ見したまま蹴り飛ばした。


 立ち居振る舞いに対して戦闘力が低い。

 恐らく無意識にやっている染みついた動きはともかく、意識して動く行いは精度が下がっているのだろう。


 だからこそ、テテナでも時間稼ぎができたのだろう。

 そうでなければ、テテナが善戦できた理由がない。彼女には悪いが、相手の方が完全に上だ。


 ともあれ、バッカスが黒装束をあしらっていると、別の誰かと戦闘していると思わしきヤツが騒ぎを連れて広場へとやってきて――


「バッカス! ちょうどいいところに! 助けてほし……んだけど、そっちも取り込み中?」

「ルナサ?」


 広場に飛び込んできたのはルナサだ。

 彼女も彼女で、バッカスが怪しい黒装束と睨み合ってたり、ムーリーがケガした女性を抱えている姿を見て、顔を引きつらせている。


「まぁな。ちょっとゾンビっぽい黒装束の男をどうやって止めるか悩んでた」

「あー……それなら、一緒にこっちも考えて欲しいかなーって」


 ルナサのその言い回しで、彼女が相手にしているのも似たようなヤツだと言うのが予想できる。


「誰だ?」

「……見れば分かるわ」


 少し(くら)く、そして怒りを滲ませた様子で、自分がやってきた方の通りを示す。

 すると、ルナサを追いかけていただろう人物がそこへとやってくる。


「クリス?」


 明らかに顔色が悪く、目から光の消えた、精気の感じられない様子のクリスがしっかりとした足取りで現れた。

 やはり、無意識の立ち居振る舞いはそのまま出来ているようだ。


「……よくクリス相手に逃げ回れたなお前」

「普段のクリスさんよりは弱体化してるっぽいから。普段通りなら無理なのは理解してるわ」

「そうか。なら、スイッチだ。黒装束の相手は任せた。まぁそれでも荷は重い相手だが、クリスよかマシな相手だ」

「りょーかい。正気に戻す方法とかありそう?」

「戦いながら探るんだよ」

「やっぱそうなるのね」

「ムーリーとミーティがいるから期待しようぜ」

「そうね。頭脳労働をそっちに回せるなら、多少気ラクかも」


 そうして言葉を交わしあうと、バッカスは銀の腕輪から魔噛(マゴウ)を取り出す。


「ようクリス。つくづく誰かに操られるのに縁がある女だな、お前は」

「ぁ……うぅ……バ、、、ス、、、」


 何かを口にしようとして、口に出来ない。そんな様子に、完全なゾンビ化ではないことを読み取って安堵する。


 普段のクリスなら絶対に有り得ない、剣先をブルブルを震わせるような構え。

 それは何かに対して必死に抵抗しているようにも思える。


 掠れたような声で、枯れた喉を必死に震わせるような音で、クリスは声を出した。


「……バッ、、カ、……ス……助、、、け、て……」

「ああ――今、助ける」


 助け方など分からない。

 だが、助ける――そう思わせるには十分だ。


 バッカスだけではない。

 クリスのことを知っているムーリーも、ミーティも、テテナも。

 そして黒装束と戦っているルナサでさえも、同じ思いで怒りを見せる。


「誰の仕業か知らねぇが、この場を収めたら……誰にケンカ売ったか教えてやらねぇとな」


 クリスが踏み込んでくる。

 バッカスは鞘に入れたままの魔噛で、クリスが振るう剣を受ける。


 受け止めた姿勢から力のベクトルを逸らして、クリスの剣を鞘で滑らせる。

 直後に、バッカスが反撃しようとすると、クリスはすぐに身を(ひるがえ)して、間合いを取った。


 確かに普段のクリスほど動きにキレはないが、それでも無意識に行える動きそのものはしっかりと出来ているという点では黒装束と同じだ。


 基礎レベルは黒装束と比べたら圧倒的にクリスの方が上なので、無意識に行える動きのレベルもまたクリスの方が上であるが。


(助ける……とは言ったがマジでどうするべきかね。原因が分からねぇから、対策のしようがねぇし、そもそもクリスが強いから、色々試す余力もねぇ……)


 しばらくは持久戦で、ルナサの方で何か好転があることを祈るしかないだろうか。


(それもそれで楽観視がすぎるか)


 クリスが剣を震わせながらも構えて、魔力を剣に込めていく。

 バッカスも刀を抜き放つと、魔力を剣に込めた。


 お互いに切っ先を地面に擦らせつつ振り上げる。


走牙刃(ソウガジン)

蒼牙刃(ソウガジン)


 魔力の乗った剣圧が同時に放たれた。

 白い魔力の乗った剣圧と、青い魔力の乗った剣圧がぶつかりあうと、衝撃波を撒き散らしながら相殺する。


彩技(アーツ)も使うか……知性あるゾンビ並に厄介だな……)


 気絶させれば手っ取り早そうではあるが、黒装束の方は明らかに痛みを無視して立ち上がってきた。

 変に内臓を傷つけてしまった場合、それでも立ち上がって襲ってこようものなら、それだけで死のリスクがある。


(黒装束の方はどうでもいいが、クリスはな……)


 懐に入れてしまった弱みと言うべきか、見捨てるという選択肢をバッカスは取れない。


 どうするべきか――と考えていると、歪な魔力帯(キャンパス)が展開されたのに気づいて、黒装束の方を見る。


「魔術も使えるのか!?」


 手を掲げ、術式を組み立てている黒装束にバッカスが驚いていると、ルナサも即座に魔力帯を展開した。


 今まで見てきたルナサの魔術の中で、もっとも手早く、もっとも正確で精緻な術式だ。

 相手の術式を確認してから組み立て始めたにもかかわらず、ルナサの魔術は、黒装束の術式が完成するより先に完成した。


「嘘つき暴きの空色トカゲッ!」


 瞬間、黒装束の男の魔力帯(キャンパス)が無効化される。

 同時に、男の目にも僅かな正気が戻った。


「た、助けて……くれ……」

「だったら気合い入れて抗いなさいよ。こっちはその方法を探りながら、格上のアンタと()ってんだからッ!」

「……あ、ああ……」


 再び目から、表情から、精気が失われていく。

 だが、先ほどまでと異なり、クリス同様に何かに抵抗するような雰囲気へと変わった。


「ルナサ」

「何?」

「良くやった」


 バッカスはそれだけ口にすると、魔噛を銀の腕輪にしまい、別の魔剣を取り出すのだった。




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