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何度も言うが面倒を招くな、幸運を招け 2


 襲撃犯から情報を絞るだけ搾り取ったバッカスは、絞りカスを領主邸に詰める騎士に任せ、自宅へ帰った。


 夜も更けていたし、領主たちからも報告は翌日で構わないと言われていたのだ。

 バッカスもメシューガも眠かったので、じゃあそれでいいかと現地解散というやつである。


 一応は、他の夜襲もある程度の警戒はしていた。

 だが、仮に第二陣があったとして、第一陣をここまでコテンパンやられてなお作戦を変えずに実行するとは思えない。


 勢力が複数入り交じっていたとしても同じこと。

 別勢力の先陣の結末を見て、考えを改めないのは馬鹿のすることだ。


 それにもかかわらず襲撃してきたならば、バッカスとメシューガは、彼らを三流から四流へと評価を下げるだけなのだが。


 とまれ。


 領主邸の方は騎士たちが詰めているし、クリスもいる。

 バッカスに関しては、メシューガやクリス並の腕前の殺し屋でも襲ってこない限りは自衛できる。


 そんな理由から、解散して問題ないと判断したのである。




 そうして翌日。

 お昼頃に目覚めたバッカスが、自らが定めた主神へと祈りを捧げていると、玄関をノックする音がして、思い切り顔を顰めた。


 こういうパターンで、ロクな出来事があった覚えがない。

 とはいえ、居留守を使う気もないので、祈りを丁寧に終えてから、玄関に向かう。


 昨日、搾り取った情報を報告しに領主邸に行く予定だったのに、直前に予定が入ってくるのは正直、嫌なのだが――そんな胸中はさておき、バッカスは扉越しに誰何(すいか)する。


「誰だ」

「ルナサよ。マーナさんを連れてきたわ」

「…………」


 普段のノリとは違う。

 遊びに来たのではなく、何か相談や厄介ごとがあって足を運んできただろう気配に、バッカスは口をへの字に曲げて沈黙した。


「なんか思うコトがあるかもしれないけど、たぶん出た方がいいわよ」


 ルナサの声にどこか呆れが混ざっている。


「そして、出来るコトならお説教をした方がいいと思うの」

「あー……」


 思うことは色々ある。

 タイミング的なモノもそうだし、昨夜の襲撃のことを思えば、ここでマーナを迎えないワケにもいかない。


 確認したいことだってある。


「何度も言うが厄介事より幸運を招いてくれよ……ったく」

「あたしに言われても困るんだけどね」

「以前に面倒事を持ち込んだのは間違いなくお前だからな」

「ううっ……それを言われると……」


 扉越しに言い合ってても仕方がない。

 バッカスは嘆息しながら、ドアを開ける。


「二人とも楽しそうにやりとりするのね」

「ただの皮肉の言い合いだろ。そして原因はおたくだ」


 ドアを開けるなりのご挨拶、バッカスはうめくようにツッコミを入れた。


「とりあえず入ってくれ」

「内容によってはあたし、外す?」


 玄関からいつもの席までの道行きで、ルナサが気を遣ってそんなことを口にしてくる。

 バッカスはうなずきかけるが、思い直して首を横に振った。


「本来はそれでいいんだが……お前はマーナと付き合いすぎてるからな。聞いとけば自衛くらいは出来るだろ」

「げ。そんなやばい状況なの?」

「機会があれば、メシューガから対暗殺者戦闘でも学んどけ」

「すでに物騒すぎて帰りたいんだけどッ!?」


 口では騒ぐが、ルナサも以前と比べればかなり頭が回るようになっている。

 ここで本当に帰る気はないだろう。


 バッカスからすると、寝起きに食事もとれないまま真面目な話をしたくはないのだが、訪問があったのだから仕方がない。


 二人に椅子をすすめ、とりあえず即席で入れられる花茶を入れると、お茶請けのクッキーと一緒にテーブルに並べた。


 お茶を一口含むと、ひと心地ついた気分になるのだが、実際は何もしていない。


「おやつ時にでもこっちから出向くつもりだったんだ。まぁ来たなら来たで、手間は省けたんだが」

「あら? そうなの?」

「ん? 昨日の夜、俺が暗部系暗殺者に襲われたって関連の話じゃねーの?」

「あらら? 暗部ってうちの国の暗部って話よね?」

「クリスやコーカスさんから聞いてないのか?」

「バッカスくんが怪しい男に襲われたとは聞いたけど、暗部系の暗殺者とは聞いてないわね」

「じゃあなんでうちに来たんだ?」

「いつものようにルナサちゃんに護衛頼んだら、なんか急に引っ張ってこられちゃったのよ」


 そう言って、マーナはルナサを見る。

 バッカスもそれに習って彼女を見た。


 一方のルナサは、ゆっくりとお茶を啜り一息。


「マーナさんの隠し事に気づいちゃったからね。

 でもその話をする前に――バッカス。確認したいんだけど。マーナさんの正体って結構偉いお貴族様なのよね?」

「ああ。それがどうかしたのか?」

「――で、バッカスはマーナさんの旦那さんのお友達。その旦那さんも当然、結構偉いお貴族様、と。あってる?」

「誰にも聞かずにそこまで辿り着けてるのは優秀だな。だが、その質問に何か意味があるのか?」

「お貴族様って平民以上に、子供が生まれとか、性別とかで大揉めするって印象があるんだけど、これは実際どう?」

「まぁ間違っちゃいないよな。なぁ?」


 バッカスはうなずきながらマーナに視線を向けると、何故か彼女は視線を逸らした。

 なんだか嫌な予感がしつつ、バッカスはルナサに視線を戻す。


「今回のお忍び旅行って旦那さまの許可はでるのよね?」

「出てるな。結構無茶な計画でもあったから、旅行先であるこの町で俺に説教されるの前提って感じだったが」

「なるほど。その旦那さまはバッカスを信頼している、と」

「はっはっは。ベテラン商人や、貴族のような事実確認の仕方だなぁ……ルナサらしくない。めちゃくちゃ嫌な予感がしてきたぞ。めっちゃ外れて欲しいと祈りたくなる想像が湧いてきた」


 乾いた笑いを上げながら、バッカスはマーナへと視線を向ける。

 マーナは再び視線を逸らした。


「マーナさんの旦那さまとバッカスが仲が良いのって有名なの?」

「どうだろうな。シノンとか、料理ギルドのギルマスとか……その辺の、俺と同じ世代で中央の学園に通ってる連中ならば……ってとこだろ。

 俺と同じ世代の子供がいるなら、まぁ話くらいは聞いてるんじゃねーの?」


 そう言ってから、バッカスは心の中で口をひくつかせる。


 子供がいる家ならともかく、又聞きだけで直接関わったことのない世代からすれば、バッカスは王太子と仲の良い平民に過ぎない。

 そして、そういうやつが下調べもしないで、襲撃を計画したのが昨夜の出来事の真実であるとしたら――


(狙いは、悪友とマーナ。俺の命は脅しの一手ってか。他に仲の良い平民が殺されたくなくば――とかいう)


 ――悪友は、王都で危険な状況なのではないだろうか。


(いや、あいつのコトだ。そこは折り込み済みのはず。

 だからこそ、敢えてマーナだけを遠ざけた。自分だけならば過激な手段に出るやつらをどうにか出来るから、と)


 つまり、マーナのお忍びは最初から襲撃を見越されていたもの。


(わざわざ辺境都市のこの町までマーナを寄越したのは、俺がマーナを守り抜くだろうコトを想定したものってか)


 そこまで思案して、これ以上を考えるには材料が足りないな――と胸中で嘆息してから、ルナサの話へと意識を戻す。


「バッカスがマーナさんの旦那さんと仲が良いって話が有名なんだったら、バッカスが襲撃されたって話も恐らく無関係じゃないと思うわ」

「状況が状況だから素直に喜べないが、ずいぶんとまぁいっぱしの顔をするようになったな、お前」

「ありがと。状況が状況だから喜べないけど素直に受け取っておくわ」


 実際、今のルナサとのやりとりは、ロックやストレイとやりとりしているような気分になってくる。

 出会ったころは未熟だったルナサも、それだけ経験を積んできたということなのだろう。


「――で、現実逃避したいところ申し訳ないんだけど」

「そうだな」

「もっと現実逃避したくなる話、していい?」

「ダメって言ってもするんだろ?」

「本当に嫌なら止めてもいいけどさ、それだと結局意味も分からないままバッカスが襲撃され続ける可能性あるわよ」

「逃げ道ねぇのかよ」


 バッカスはうめきはするものの、それが意味のない嘆きである自覚はある。


「まぁいい。それで。お前が気づいたマーナの隠し事ってのは何だ?」

「妊娠してるわよ。マーナさん。それも結構時間経ってる」


 慌ててマーナを見る。

 マーナはさっと目を逸らす。


「嫌な想像がまさかドンピシャかよ」

「うまく隠してるけど、たぶんもう今から王都には帰れないと思うわ。

 王都までの距離を考えると、この町で出産して落ち着いてから帰還ってなると思うの」

「よく気づいたルナサ。そしてよく報告してくれた。あとでギルドに特別報酬を振り込んでおくから、ギルド経由で受け取っておけ」


 心の底からルナサに感謝しつつ、バッカスはマーナを鋭く見る。


「えーっとね、バッカスくん……」

「俺を襲撃してきたのも、恐らく王都で悪友(バカ)を襲っているのも、黒幕に煽られた木っ端だな?」


 何かを誤魔化そうとするマーナの様子を無視して、バッカスは続ける。


「おたくが何も聞かされてないとしても……おたくと悪友の間に子供が生まれて一番損をするヤツを考えれば、おのずと黒幕候補は何人か挙がってくる……」


 マーナを見ながら思案するようなバッカス。

 それを見て、マーナも別に自分が叱られるワケではないと思ったのか、バッカスへと視線を戻した。


「ならバッカスくんはその黒幕候補をどうにかするの?」

「いや……恐らく思いついた面々の誰が黒幕であっても舞台は王都だ。俺の出る幕はない」


 バッカスはそう口にしてから、改めてもう一度口にする。


「俺の役割は黒幕退治じゃあない」

「じゃあマーナさんとお腹の子供を守るコト?」

「まぁ大別すりゃあそうだな」


 ルナサの言葉に首肯しつつ、バッカスは悪友がどういう思考をしているのかを想像する。


(政治絡みの問題が生じた時に、アイツから送られてくるこの手の無言の依頼の時ってのは、大体決まって俺の行動次第で報酬になりうる何かが隠れているパターンが多い。

 今の段階で見えなくても、そのうちに何かしらの報酬が見えてくると思いたいが――)


 切羽詰まっている時の依頼は、その限りではない。

 あとあとで、お礼として色々と渡される場合もゼロではない。


 だからこそ優先するべき思考は、この状況で悪友がバッカスのどういう行動を望んでいるのか、だ。


 そこに関してはとてもわかりやすいし、悪友らしい頼み事だろう。


 バッカスはニヤリと笑いながら、ルナサに告げる。


「だが、悪友からの本当の依頼は一番は嫌がらせだよ。

 マーナと腹の中のガキを守りつつ、王都でふんぞりかえっているだろう黒幕に対して、この町からできる嫌がらせを仕掛けるってのが、恐らく悪友の望みだ」



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