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負けず嫌いと、美味い話 5


 本作中、アマク・ナヒウスとアマク・ナヒアが混在してました。

 表記揺れを統一するべくナヒウスにしようと思っていたんですが、同じ理由で書籍版の方はナヒアで統一していたので……悩みましたが、WEB版バッカスもナヒアで統一したいと思います。


 名前の元ネタ的にはナヒウスの方が発音的に正しいんだけど、まぁそういうコトもあります。作者のうっかりで、迷惑かけてすまねぇ٩( 'ω' )و



「……がはッ!?」


 バッカスの一撃に、イーサンは目を見開いてて膝をつく。

 腹部を押さえつつも、顔だけこちらに向けてくるイーサンに、バッカスは不敵に告げる。


「どうよ、クリーンヒットだ。さすがに、ダメとは言わねぇよな?」

「……ああ。文句、なしだ……」


 笑いながらも苦しそうに口にするイーサンに、バッカスは右手を掲げて魔力帯を展開した。


「偉大なる癒し手よ、その軟膏をここに」

「む? 助かる」


 バッカスの治癒魔術で痛みが引いたイーサンは、お礼を言いながら立ち上がる。


「しかし、『勁撃(けいげき)』とはな……アマク・ナヒアでも、今は使い手の少なくなった打撃の打ち方だ。よく知っていたな」

「そっちだと勁撃っていうのか。

 俺は、鎧貫(よろいとおし)って名前で知り合いから教わったんだが」

「なるほど。唯一無二のように思っていたが似たような打撃法が、アマク・ナヒア以外にもあったか」


 ふぅー……と大きく息を吐いてから、イーサンは「しかし」と首を傾げた。


「勁撃で結界を無視するコトは可能だろうが、第三の防御を抜くには至らないはずだ。

 ましてや、坊主の勁撃には魔力が乗っておらんかったワケだしな」

「魔力を乗せて彩技としてブチかましてたら、爺さんの内臓が爆散しちまってただろうしな」

「違いない。第三の防御を抜く勁撃に魔力なんぞ乗っていたらどうなっていたコトやら……」


 やれやれ――と、イーサンは首を振った。


「種明かしはしてくれるか?」

「んー……ギャラリーが多いぜ?」


 周囲を見回しながら口にするバッカス。

 同じように周囲を見回してから、それもそうか――とイーサンはうなずいた。


「なるほど。では質問を変えよう。そのタネはお前さん以外に使えるか?」

「大本のタネに対して知識があればな――思いつくところまでは行くだろうよ。もっとも、それを実行できるかどうかは、わからん。むしろ実行できないヤツの方が多いんじゃないか」

「――であれば良いか。そう簡単には抜かれないならそれでいい」


 そう安堵した直後、イーサンは少し眉を(ひそ)める。


「もう一つ確認したい。その手段を実行するのに勁撃は必要か?」

「俺がやったのは第三の防御を無効化する方法でな。無効化した上でどういう打撃を繰り出すかは、それぞれのやり方になるはずだ」


 バッカスはそう答えた上で、いつものシニカルな笑みを浮かべた。


「ただ――第四と第五の想定もあったからな。いちいち対応するのも面倒だし、とっとと終わらせる為に鎧貫を使っただけさ」

「本命である第三の防御を無視できるなら、これ以上無いほど完璧な攻略方法だ。まったく……これほどの使い手がいるとはな」


 諦めたような、満ち足りたような笑みを浮かべたイーサンは、自分の荷物置き場へと向かう。


「なんじゃ、お嬢ちゃん。こんなところで見ていたのか」


 その近くにミーティがいたのに気づいて、イーサンが笑う。

 もっと見やすい場所があるだろう――とそう口にしかけて、ふと気づいた。


「……まさか小僧ッ、そういうコトかッ!?」

「よもや反則とは言わねぇよな? それを反則と言ったら、そもそもこの興業は成立しねぇはずだしな」


 片目を瞑って皮肉たっぷりに告げるバッカスに、イーサンは哄笑(こうしょう)をあげた。


「かっかっかっかっか! 確かにそうだ。文句は言えぬな!」


 そして、改めて荷物置き場から酒のボトルを手にすると、それをバッカスに向けて投げ渡す。


「ほれ、持っていけ」

「よっしゃ」


 受け取ったボトルは間違いなく神桜輝山(しんおうかざん)

 空瓶ということはなく、中にはちゃんと透き通った液体が入っていた。


「こんな簡単なコトで高級酒が手に入る。こんな美味しいコトはそうそうないよな」


 イーサンに向けて勝ち誇ったように口の端をつり上げるバッカス。

 それに対して、イーサンもうなずいた。


「うむ。こんな美味い話というのはそうそうないだろうな」


 バッカスに酒を渡したあと、イーサンは片付けを始める。


「あれ? おじいさん、もう片付けちゃうんですか?」


 ミーティの問いに、イーサンは好々爺の顔でうなずく。


「うむ。簡単にマネできぬとはいえ、タネが割れてしまった以上はな。

 この町での興業は店じまいじゃな。それなりに稼がせてもらったし、次に行くとするよ」


 そんなワケで、イーサンの青空武芸場は、ギャラリーたちやバッカス以外の参加経験者や参加希望者たちに惜しまれつつも閉幕となるのだった。




「さて」


 持ち帰った酒で楽しい独酌の時間だ――と思ったバッカスだったのだが、なぜか家のリビングには、クリス、ルナサ、ミーティの他シノンがいる。


「……まぁクリスたち三人はいい。関係者っちゃ関係者だからな」


 大きく息を吐きながらリビングを見回し、バッカスは嘆息する。

 その上で、キッと目をつり上げてシノンを指差した。


「だが、どうしてシノンがいるッ!」

「なんかバッカスが美味い酒を手に入れたって聞いたからな? あやかりたいなぁって」

「耳が早いにもほどがあるだろ」


 思わず呆れてしまうが、来てしまったものは仕方がない。


「……ルナサとミーティは飲めないぞ?」

「別に欲しくないし。それより気になるコトがあるんだけど?」

「わたしはクリスさんとルナサが行くなら行こうかなって」


 ルナサの聞きたいことは予想が出来る。

 ミーティは単についてきただけらしい。


 流れでクリスに視線を向ければ、彼女は優雅に微笑んだ。


「私は飲みたいわ。あと聞きたいコトもあるの。肴が出てくるならそんな嬉しいコトはないわね」

「聞きたいコトより酒と食い物を優先してんな……お前」


 やれやれ――と息を吐きながらも、バッカスはとりあえずキッチンに立つ。


「ルナサ、クリス。聞きたいコトってなんだ?

 メシ作りながらでも答えられる範囲で答えてやるぞ」


 冷蔵庫の中を確認しながらそう口にすれば、ルナサが待ってましたとばかりに訊ねてくる。


「ぶっちゃけ、第三の防御をどうやって攻略したの?」

「……ミーティ。解説してやれ」


 その問いに、バッカスは少し逡巡した上で、ミーティに丸投げすることにした。


「わかりました!」


 快くミーティが引き受けてくれたところで、バッカスは冷蔵庫の中から、鶏のささみ肉と、梅に似た実(ラミニム・ムルプ)大根に似た根菜(エティフ・ハシダル)を取り出した。


「第三の防御――そのタネは、魔導具です!」


 ミーティがそう口にすると、クリスは困ったような顔をして訊ねる。


「鋼体結界の二重掛けに飽き足らずさらに?」

「はい!」


 快活にうなずくミーティに、クリスとルナサは頭痛を堪えるような仕草を見せた。


「衝撃の緩和――まぁ痛みの無効に近い効果の魔導具を使ってたんですよ」

「あっはっはっは! あの爺さんすげぇな! 面倒な防壁に加えてそんなの使ってガチガチに守り固めてたのかよ!」


 シノンが思わず笑い声を上げる。


「つまり、その魔導具の攻略法を知らないと……」

「そう。どれだけがんばっても有効打にはならない。

 まぁお酒でなく賞金が欲しい場合は、場外狙う手段は色々あっただろうから、問題はないんだろうけど」


 ルナサが口を引きつらせると、ミーティはあっさりうなずいた。

 それを聞きながら、クリスが声を上げる。


「ちょっと待って……今気づいたんだけど、単に勝つだけなら有効打って狙う必要無かった……?」

「え? はい。ありませんけど? おじいさんを場外に出せば賞金貰えるワケですし」


 分かってて有効打狙いしてたんじゃないの?――とばかりにミーティが首を傾げると、クリスとルナサはミーティの視線から逃れようとサッと顔を逸らした。


「二人とも、冷静さ失いすぎだろぉ!」


 わははははは――と、シノンは楽しそうだ。


 クリスの場合はバッカスが煽った面があるのだが、本人は気づいていないようなので、バッカスはあえて口にはしない。


 そんなやりとりの間に、バッカスはササミを鍋を使った簡易蒸し器にかける。


 その間に、形と大きさが、前世の聖護院蕪そっくりの形をした大根に似た根菜(エティフ・ハシダル)を適当に切ってから、グレーターですりおろす。


「ミーティちゃんだっけ? どうやってバッカスは第三の壁ってヤツを突破したんだ?」

「戦闘中、わたしがこっそりと荷物置き場に置いてある魔導具に近づいて、楔剥がしを使ってえいって」

「…………」


 そもそも試合の為のリングの上に、魔導具が無かったのだと知って、クリスとルナサの表情がなんとも言えないモノになった。


「バッカスさんはそれを指摘して、第三者(わたし)が魔導具の効果を抑えたコトに文句言うなとも言外に言ってたんですよね」

「あの大笑いはそういう意味かぁ……」

「ちょっとズルすぎないあのお爺さんッ!」


 おのれ――と歯ぎしりするクリスとルナサを横目に、シノンがミーティに訊ねる。


「もしかしなくても厄介なのって第三の防壁ってやつだけだった?」

「そうですね。あれさえどうにか出来れば、ルナサでもなんとかなったかもしれません」


 少し考えてからミーティがうなずくと、即座にバッカスが否定した。


「いや、無理だろ」


 前世のスモモと同じくらいの大きさである梅に似た実(ラミニム・ムルプ)を摑んだバッカスが、首だけミーティの方へ向ける。


「第四の壁『身体強化による肉体硬度の上昇』と、第五の壁『そもそも痛みに対して耐性のある肉体』を、ルナサが突破できるとは思わないしな」

「あのお爺さんどこまで防御特化した能力持ってるのッ!?」


 ルナサが悲鳴じみた声をあげるが、それに関してはバッカスも同意する。


「クリスでもギリ突破できるかどうかじゃないか? だから俺は鎧貫を使ったんだし」


 そう言って、バッカスは梅に似た実(ラミニム・ムルプ)の中央にある大きな種を取り除き、細かくみじん切りにしていく。

 見た目はスモモだが、味や食感はカリカリ梅という果物だ。

 酸味が強いため、この国ではあまり好まれていないようだが、バッカスは結構好きな食材である。


「そうだわバッカス。その鎧貫だか勁撃だかって技。どういう原理?」

「原理と言われてもなぁ……」


 梅に似た実(ラミニム・ムルプ)を切る手を止めずに、バッカスは思案する。


「言っちまえば、壁や鎧の内側へ衝撃を通す打撃の打ち方だよ」


 そう答えてから、バッカスは手を止めた。

 水道で手を洗ってから、リビングのテーブルの元へとやってくる。


 テーブルの上のお茶請け皿からクッキーを三枚手にすると、一枚を手元に残し、二枚を重ねてテーブルに置く。


「こんな感じだ」


 手に持ったクッキーを縦に構えると、重ねたクッキーを叩く。

 パキリという音はするが、上のクッキーに変化がない。


「シノン。一枚目だけ食っていいぞ」

「じゃ、遠慮無く」


 言われるがままにシノンが一枚目のクッキーを手に取ると、下にあった二枚目のクッキーが割れていた。


「鎧の上からでも内臓を殴る為の手段だな。

 第三の壁はともかく、第一・第二の鋼体結界なら、この技を使えるなら、やり方次第で無視できる。

 第四の身体強化による肉体硬化も同様だ。そして内臓を直接揺らされるワケだから、いくら痛みに強い体質だろうと、そう簡単に耐えられるモンじゃない」


 バッカスは手に持っているクッキーを口に放り込む。


「これやべぇ技だな……暗殺系のやつだろ?」

「シノン正解。知り合いに元殺し屋がいてな。教えてもらった」


 クッキーを嚥下しながらうなずき、バッカスはキッチンへと戻っていく。


「クリスさん……これ、あたしたちに勝ち目あったのかな?」

「どうかしらね……でも、とんでもなく負けず嫌いのお爺さんだっていうのは理解したわ」


 二人は疲れたように顔を見合わせると、同時に深々と嘆息するのだった。




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 どちらもよしなに٩( 'ω' )و

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