その一番の近道は、コツコツ地道で 2
明日(2/16)よりコミックノヴァにてコミカライズが開始します٩( 'ω' )وよしなにお願いします
「お前ッ、いきなり投げつけるんじゃあないッ!!」
投げつけたサンドイッチを慌ててキャッチしたシノン(?)が文句を口にする。
「いきなり知り合いの名前を口にする不審者を相手にするんだ。先制攻撃は大事だろ」
「いや本人だからなッ!?」
「嘘つけッ!」
もう一度同じ事を口にして、バッカスはシノンを名乗る不審者を睨むようにその全身を見た。
確かに痩せたシノンと言われればそうだ。
だが、どうしたって解せないことがある。
「お前がシノンなら余計な肉はどこいった?」
「ダイエットに成功した」
「嘘つけッ!」
二度あることは三度ある。
キャッチしたサンドイッチを食べながらしれっと嘘を口にした推定シノンに、バッカスは自分の眉間を揉む。
「数日でそこまで痩せるのは物理的にありえねぇ」
「そこは特殊な方法を見つけた」
「……特殊な方法だぁ?」
ひたすらに胡散臭いモノを見るように、バッカスは恐らくシノンだと思われる男に対して目を眇める。
彼は今、サンドイッチを食べきり、今は手に付いたソースをなめとっていた。
その仕草は確かにシノンを思わせる。
「まぁいい。それで、シノンかっこかり」
「なんだよかっこかりって?」
「まぁいい。それで、シノンっぽいやつ」
「っぽいじゃなくて本人だからな?」
「まぁいい。それで、シノンっぽいモノ」
「人ですら無くなってるじゃねーか!? なんでシノンだって言ってるのに疑問系で進めようとするんだよ!」
「数日で痩せて本人ですとか言われても信じられるワケねーだろうが! その辺り理解してるかモノ!」
「呼称変更時にシノンを消すんじゃねぇよ! ってかもうそれ人間の呼称じゃねーだろ!」
その辺りからお互いに睨み合い――むしろメンチの切り合いみたいになってきた。
しかし、そこへ意外な伏兵が声を掛けてくる。
「おい、アンタら」
「あぁん?」
二人がガラの悪さ全開で声のした方を見ると、サンドイッチ屋台のおっちゃんが、二人を越える迫力でメンチを切りながら告げた。
「商売の邪魔だ。ケンカすんなら余所でやれ」
「うっす」
「さーせん」
そんなワケで、二人は場所を移すことにした。
そのついでにお詫びを兼ねてバッカスは食べそびれたサンドイッチを追加で購入し、シノンっぽいモノはおかわりのサンドイッチを購入するのだった。
場所を移動してしたバッカスとシノンだと思われるモノは、噴水広場にあるベンチへと移動して座っていた。
バッカスはサンドイッチをかじりながら、半眼を横に座るシノンらしき何かへと視線を向けている。
「それで? どうやって痩せたんだモノっぽいモノ?」
「その呼称おれの要素をなくしすぎだろ!? もはや意味分からなくなってねぇか?」
「散々警告してやったのに違法薬物辺りに手を出した知人をどう対応していいか分からないだけだ気にするな」
「塩対応がひでぇなおい」
苦笑しながら自分のサンドイッチをかじるシノンかもしれないモノ。
「薬とかじゃねぇから大丈夫だって」
「薬じゃなくても大丈夫に見えねぇから言ってんだけどな?」
手法はともかく、数日でここまで体型が変わるというのはまともな手段ではないはずだ。
本人の認識だとか、この国の法律と照らし合わせてどうこうという話ではなく、人間の体型を数日で激変させる手段がまともであるはずがないという危惧である。
「とりあえずバッカスに自慢しに来たかっただけだ。昼メシ喰ったし、そろそろ仕事の時間だから行くぜ」
自分のサンドイッチを食べきったシノンが立ち上がった。
「そうかよ。お前の使った手段ってやつが、お前にも周囲にも悪影響を与えないコトを祈るぜ」
「心配しすぎじゃないかバッカス? んじゃあ、一仕事してくる」
後ろ手に振って、その場から去って行くシノンの後ろ姿を見ながらバッカスは嘆息する。
今は何の問題が起きてなくとも、その手段の反動は、シノン本人に対してどのような悪影響を与えるか分からない。
あるいは、その手段は使用者本人に悪影響がなくても、使用者の周囲に悪影響を与える可能性だってあるのだ。
綺麗に痩せて浮かれている今のシノンには何を言っても聞き入れて貰えないかもしれないが、その危険性だけはどうにかしても伝えたかったのだが。
「別に仕事の邪魔をしたいワケじゃないからな……ストーキングするわけにもいかねぇし、どーすっか」
小さく独りごちてから、サンドイッチの最後の一口を口に放り込む。
その時、どこか幼げな口調の少女が声を掛けてきた。
「お~い、バッカス~」
「ん? ああ、ネヴェスか。買い物か?」
メイド姿のその少女に、バッカスが訊ねると彼女は快活にうなずいた。
「主にお昼の買い出しを頼まれたからねっ!
ところで、さっき横に座ってた人ってバッカスの知り合い?」
「ん? ああ、そうだけど、どうかしたか?」
「んー……」
バッカスが肯定すると、ネヴェスは何やら難しい顔をして見せる。
「あんま言いたくないんだけどさ、あの人……なんか変なシガム・メーチ持ってるよ」
「シガム・メーチ?」
「ん? あー……えーっと……この時代の呼称は魔導具だっけ?」
聞き慣れない単語をネヴェスがすぐに言い直してくれたので、バッカスもすぐに理解した。その上で、自分の目が眇まるのを自覚する。
「変な魔導具、ね」
「いやボクの感覚だと変ってだけでこの時代だと変じゃないかもだけどさ!
少なくとも、町中にある量産型みたいなのじゃなくて、個人制作品なのは間違いないよ」
思わずこめかみを押さえるバッカス。
どう考えても、その魔導具が怪しい。恐らくは痩せるのに使った魔導具だろう。
「あ、そうだバッカス。ちょうどいいからお願いしてもいい?」
「聞けるかどうかは内容によるぞ?」
「この時代の量産型じゃない魔導具をちゃんと見てみたい」
「ふむ」
「あ。準備とかいるならすぐじゃなくていいんだけどさ」
「大丈夫だぞ。何なら今でもいいか?」
「へ?」
戸惑うネヴェスを余所に、バッカスは自分の腕輪から魔噛を取り出す。
「ほれ」
「あ、うん。ありがと」
それを丁寧な手つきで受け取ったネヴェスは、真剣な表情で魔噛を見る。
「……いいなぁ、この魔導具」
「やらんぞ?」
「あ、ごめん。そういう意味じゃ無くてさ、同じ魔導具として羨ましいなって、思っただけ」
「どういうコトだ?」
ネヴェスは、古い時代に作られた意思を持つ魔導具――この時代では神具に分類される自動人形――だ。
だからこそ、魔噛に対して思うことがあるのだろう。
「ボクの時代と技術力を比べると格段に下だから、そこはどうこう言うつもりはない。
でもね。この子はとても丁寧に大切に作られているし、大切に使われているし、正しく手入れもされている。
作った人も、使う人も、手入れをする人も、本当にこの子を大事にしてるんだって伝わってくるのが、羨ましいってなったんだ」
「…………」
「この子は剣の魔導具だよね? 剣としての名前はあるの?」
「魔噛だ」
「そっか。魔噛。キミはバッカスやバッカスが認めた人に使って貰えている限り、幸せな魔導具だな」
それは普段のクソガキのような表情でも、ユーカリという主に仕えるメイドの顔でもない。
どこか慈悲深い女神のような、長い年月を生きる先達が後人を見守るような、そういう顔だ。
「ありがとうバッカス。これからも大切に使ってあげてね」
「……ああ、もちろん」
嬉しいようなこそばゆいような――なんとも言えない心地を飲み込んで、バッカスは魔噛を受け取ると、腕輪にしまう。
「全ての魔導具が魔噛みたいに幸せモノだとは思わないけど……それでも、うん。やっぱり変だ」
「何がだ?」
「魔噛を見たから余計に思う。さっきのバッカスの知り合いが持ってた魔導具。あれ、あんまり良くないモノかもだよ」
ネヴェスの言葉に舌打ちをしたい感情を抑えて、バッカスはシノンが消えていった方を見るのだった。
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