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お前ら、何がしたいんだ? 5


 バッカスたちが噴水広場までやってくると、青と緑が複雑に混ざり合ったような魔力をまとうウイズがいた。


 魔剣を中心に風が渦巻き、鎧のように全身を覆っている。


「あ、あああ……!」


 目は血走り見開かれ、おおよそ正気とは思えない。

 魔剣の放つ膨大な魔力の逆流によって、正気を失って魔剣のなすがままになっているのだろう。


 剣を振るだけでかまいたちが放たれ、拳をふるえば突風が起きるような状態のようだ。


「おいおい。思ってたよりハデじゃねーか。どうなってんだこれ」

「周囲の人の避難は終わってるみたいだけど……」


 バッカスとルナサが周囲を見回していると、聞き慣れた声が二つ聞こえてきた。


「ロックさん、行けますッ!」

「ミーティちゃん、頼んだッ!」


 何でも屋のロックと、ルナサの友人であるミーティだ。


 ミーティはウイズに向けて右手を掲げ、基礎のしっかりとした術式を構築し魔力帯へ刻みこんでいる。


 構築速度はルナサよりも遅いが、精密さや精確さなどはミーティの方が上のようだ。


 そして、完成した術式を呪文と共に解き放つ。


「辛い竜爪(りゅうそう)は刺激的ッ!」


 掲げた右手から、竜の爪を思わせる三条の炎がウイズめがけて放たれた。


「よし!」


 その炎を追いかけるように、ロックも地面を蹴った。


 魔術と剣術の波状攻撃。

 即席とはいえ悪くない連携に見えた。


 ――だが。


「え?」

「なんだ……?」


 ルナサと驚き、バッカスは目を眇める。


 ミーティの放った炎が、ウイズにぶつかる寸前、不自然に消えた。

 続けて振り抜かれたロックの剣も、ウイズにぶつかる寸前に止まり、次の瞬間にはロックが吹き飛ばされている。


「わ、たた……っと」


 不自然な体勢で吹き飛ばされながらも、空中でバランスをとって華麗に着地するロックは流石といえよう。

 だが、そんな賞賛よりも、目の前で発生した情報を整理する方が大事だ。


「ミーティちゃん、次の魔術!」

「はい! ロックさん、もう一度だけ彩技(アーツ)による遠距離攻撃をお願いします」

「りょーかい!」


 即座に、ロックが剣から衝撃波を放った。

 だが、魔術同様にウイズにぶつかる直前に霧散する。


 同時に、二人がこちらをチラりと見てきたので、こちらへの情報提供なのだろう。


「ルナサ、どう見えた?」

「ミーティの術もロックさんの剣も、あたる直前でダメになった感じだったけど」

「弓もなんです。矢が当たる直前に弾かれちゃって」


 テテナの補足に、バッカスは睨むようにウイズをみやる。


「……青の魔力のせいか。

 青の眷属である禁則の子女神(リ・ゴズデビフォド)による術式や行動の妨害。風の子神(リ・ゴズウィンダ)による強風。それを鎧の形で身に纏ってるんだろうな」

「それじゃあ緑の魔力は身体強化だけ?」

「いや……緑の眷属である獣の子神(リ・ゴズワーディ)による本能強化もある。魔剣の暴走で我を失いながらも、反撃用の風を使うかどうかはそれによる直感で判断しているんじゃねぇかな」


 だから魔術は無効化こそすれ、反撃の風はない。


 しかし、ロックの剣撃は違う。

 そのまま白兵戦をされるのは危険であると直感し、受け止めるだけでなく、風による反撃で吹き飛ばすことで距離を取ったのではないだろうか。


 恐らくは密着に近い状態で魔術を放てば、無効化した上で風で反撃してくるはずだ。


「でもバッカスどうするの? 結構どころじゃないくらい厄介よね」

「ああ。ちゃんと制御できるようなシロモノなら、すげぇ魔剣だよ」


 ウイズが未熟だから暴走したのか、そもそも制御を考えていないのかで、バッカスからの評価は百八十度変わるだろうが。


「二人とも見てないで、ロックさんとミーティちゃんを……」

「助ける為に見てるのよ、テテナ」

「え?」

「戦術の組み方はロックとミーティの組み合わせも、俺とルナサの組み合わせも大差ない。取れる手段もな。なら、先陣にもうちょっと判断材料を増やしてもらった方がいい」

「ミーティもロックさんも、こっちに気づいてるから、色々と試して判断材料を増やしてくれてるでしょ」

「え? え?」


 目を白黒させながら、向こうとこちらに視線を巡らせる。


「しかし、魔剣を壊すにしろ取り上げるにしろ、近づけないのは面倒だぞ」

「攻撃はほぼ無効化。近づけば本能感知によって反撃……。

 あの魔剣、ちょっと無法がすぎない?」

「使い手が暴走しないなら、ほんとすごい魔剣だよ。欠点がなければいいんだがな」

「使い手が暴走してるだけでだいぶ欠点じゃない?」

「まだ暴走理由が分かってないからな。補欠すごい魔剣って感じだ」


 ミーティとロックによる何度目かのトライを見、バッカスは小さく息を吐いてから声を上げる。


「二人とももういいぞ! 疲れてんなら、交代だ」

「すまん、助かる!」

「ありがとうございます!」


 二人は前線から引いてきて、バッカスたちと合流する。


「実際触れ合って、糸口はあったか?」

「ない。マジでどうすりゃあいいんだ?」

「攻撃していると足を止めてくれるんで、広場に釘付けにするなら攻撃をしてればいいと思うんですけど」


 キッパリと言い切るロックと、ひとまずの足止め方法を教えてくれるミーティ。


 二人の言葉にうなずき、バッカスとルナサは入れ替わるように前に出た。


「そういや取り巻きはどうしたのかしら?」

「言われてみればいねぇな」


 見回せば他の路地からも、警邏や騎士、何でも屋たちが様子を見ている。だが、ミーティとロックの戦いを見て、迂闊に近づかないことを選んだようだ。


「リーダー!」

「部長!!」


 噂をすればなんとやら。

 物陰にいたのか、それともどこかで今まで気でも失っていたのか――取り巻き二人はウイズに声をかけながら、背後から飛びついた。


「止まってくれリーダー!」

「部長! いくら何でもこのむちゃくちゃはないですよ!!」


 組み付いて、必死に声をかけている。

 だが、軽くもがいたウイズに二人は吹き飛ばされてしまった。


「あんな動きで人が吹き飛ぶなんてな……どんだけ身体強化されてんだ? 身体が保たねぇだろ、どう考えても」


 いくらウイズがバカだったからといって、あの魔剣の暴走のせいで肉体の内部がズタズタになっていいとは思わない。

 何より、魔剣技師として、バッカスは魔剣の暴走で使い手に後遺症を残すことは起きて欲しくないのだ。


「バッカス」

「どうした?」

「あいつら、組み付けたわよね?」

「……そういや確かにな。なんでだ?」


 ルナサに言われて、バッカスはハッと顔をあげる。

 吹き飛ばされてしまっているが、確かに取り巻きの二人はウイズに抱きついていた。


「獣の子神の本能強化――その本能が、あいつらは敵じゃなくて仲間……群れの同胞とかそういう扱いだと判断したんじゃない?」

「なるほどな……その推察は恐らく正しい」


 僅かな逡巡のあとで、バッカスは「よし」と一つうなずいた。


「ルナサ、しばらくタイマンで足止めできるか?」

「いいけど……何かネタがあるの?」

「ああ。取り巻きのおかげで良いネタが沸いてきた。時間稼ぎを頼む」

「りょーかい」


 返事をしたルナサは、指を鳴らしながらウイズへと近づいていく。

 バッカスはそれを見ながら、ルナサから大きく離れていった。


 離れていくバッカスが暴走を止めるネタを持ってくることを信じつつ、ルナサはウイズに対して嫌味たっぷりな笑みを向ける。


(なっさ)けないわねぇ、アンタ。

 魔剣を暴走までさせなきゃわたしに勝てないと思ってたワケ?」

「ぅぅル、ナサ……シーク、グリッサァァァァ!!」


 暴走していてもこちらを認識するくらいのことはできるようだ。

 これなら、自分にだけ注目しててもらうことができそうである。


「勘違いしないでね。アンタは暴走したところでわたしに勝てないんだから」

「シー、ク……グリッサァァァ……!!」


 完全にルナサをターゲットにしたウイズが地面を蹴る。


(速っや……!?)


 想定よりもずっと速いが、するべきことは変わらない。


(でもまぁ、どれだけ本能的な直感が強化されてようともさ……)


 ルナサは向かってくるウイズに向けて踏み込んだ。


 雑な大振りで振り抜かれる魔剣。

 技や技術というものはなく、ただ振り回しているだけのような斬撃を、ルナサは姿勢を低くして躱しながら――ウイズとすれ違った。


 頭上を剣圧とかまいたちが飛んでいくのを感じながらも、ルナサは素早くナイフを取り出す。


 次の瞬間――


「っううう……ッ!?」


 ルナサは強烈な反撃の風に吹き飛ばされる。

 地面を転がるもルナサは素早く立ち上がり、ウイズを見た。そしてそれを確認すると、バッカスのマネをするようにシニカルな笑みを深める。


「自慢の風も、こういう手は防げないみたいね」

「あ、ぐ……」


 うめく姿を見るに、暴走して理性が吹き飛んでいても、痛みは感じるようだ。


「本能が身体を突き動かそうとも、直感が風を起こそうとも、身体がそれについていけなければ、防げないワケよ」


 うめくウイズをあざ笑うように、ルナサはそこを僅かに震える指で指し示す。


「顔見知りを殺したくはないけどさ、なにを試してもダメそうだった場合――止める手段は用意しておくべきよね」


 ウイズの左の太股には、ルナサのナイフが突き刺さっていた。



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