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お前ら、何がしたいんだ? 2


「それで? 結局、お前ら何なんだ?」


 バッカスの問いに、ウイズはルナサにビシっと指を差して告げる。


「目的はルナサ・シークグリッサ! そいつが校内最強と呼ばれるのが納得いかない! ので! 勝負を挑みにきた!」


 名指しで指名されていながら興味のなさそうなルナサに、バッカスは訊ねた。


「お前、校内最強なの?」

「さあ? 別に自分が強いとは思ってないし――最強とかは興味ないから……」

「その態度が腹が立つ!」

「ただの嫉妬かよ」

「ただ嫉妬よねぇ」


 バッカスとマーナの容赦のない言葉に、ウズイはヒートアップしながら、ルナサを指さす。


「ナキシーニュ先生も、ヤコウ先生も! みんなしてルナサ・シークグリッサのコトも経験も能力も褒めるんだ!」


 そのメシューガ・ナキシーニュと肩を並べて異形と戦ったことのあるルナサだからこそ、褒められるのだとは思うのだが。


「なぁヤコウって誰だ?」

「ほら、アンタには話をしたコトあるでしょ? 新人病の時に無理して授業受けたコトを褒めてくれた元傭兵の、戦技科の先生。ドゥルフ・ヤコウ先生っていうの」

「ああ、あの時の」

「ルナサちゃんってすごいのね。元傭兵の先生に褒められるだなんて」

「別にすごくはないです……さっきも言いましたけど、わたしなんてまだまだですから」


 純粋に褒めるマーナに、ルナサは居心地が悪そうにしどろもどろだ。


「褒められてるんだから、素直に受け取っていいんじゃねぇの?」

「そうは言うけど……ほら、学校(うち)ってナキシーニュ先生いるじゃない。

 それに外にはアンタ筆頭に、クリスさんがいるでしょ? それにストレイさんやロックさんとか」

「なるほどねぇ……そもそもルナサちゃんは、学校の最強決定戦なんてモノに興味ないのね」

「――というか根本的に基準が違うんだろうな」


 この辺りはルナサの経験によるところが大きいだろう。

 学校という狭い世界ではなく、彼女はすでに、外にひしめく強者や異形と相対していることで、外の世界の大きさを知っているのだ。


「どうあってもルナサ・シークグリッサを褒める方向に話が進んでいくッ!!」

「いやお前が褒められるコトをしてないだけだろ」

「そんな正論で傷つくもんかッ!」

「自覚はあるのね」


 十分にダメージが入っている気がしないでもないが、本人が否定しているので入っていないのだろう。


「ともかく! 実戦的な戦闘と戦術を考え、実戦に近いゲームで研鑽を積む戦場(いくさば)部の部長としてッ!

 座学も魔術も戦技の成績も常に上位で、能力も経験もあると褒められるルナサ・シークグリッサに負けるワケにはいかないのだッ!」

「だいぶ勝ち目がねぇな」

「微塵も勝てる要素ないのに勝負を挑むだなんて……そんなに負け癖つけたいのかしら?」

「うるさいぞそこ!」


 つけたいならいくらでもつけてあげるわよ――と、マーナが妖艶に微笑むと、ウイズと金髪は顔をひきつらせるが、お下げのナンタラが妙な反応を示した。


 案外そっちのケがあるのかもしれないが、バッカスは深く触れることはせずに、ルナサに視線を向ける。


「お前、学校の成績いいのか?」

「そりゃあ学校の成績くらいは常に上位にいなきゃ、外にいるアンタたちに追いつけないでしょ?」


 ルナサはこともなげにそう口にした。

 それに、バッカスは胸中で笑みを浮かべる。


(やっぱアイツとルナサじゃ、そもそも土俵が違うんだよな。

 見てる世界も、目指している場所も、根幹からして違うんだ)


 そこに気づけない限り、ウイズに勝ち目はない。

 学校の成績とか経験とかそういうモノに関係なく、だ。


「確かにお前たちの言う通り、単純な成績ではルナサ・シークグリッサには適わない! だが、今のおれは昨日までのおれとは違うッ!」


 ギュッ――と拳を握りしめそう宣言してから、一振りの剣を示す。


「この剣こそが、ルナサ・シークグリッサに勝つための秘策ッ!」

 通りすがりの魔剣技師さんに譲ってもらった本物の魔剣ッ!」

「部長がドン引きするくらい土下座して手に入れた魔剣ッ!」

「リーダーが相手が涙目になるほど拝み倒して手に入れた魔剣ッ!」

「――その名も轟風(ごうふう)魔獣剣(まじゅうけん)ッ!」


 バッカスたちは何ともいえない視線を『戦慄の死の風』の三人に向ける。


「取り巻きの補足情報がどうしようもなさを加速させるな」

「通りすがりの人も災難ね」

「その場を誤魔化す為に処分予定のを渡しただけじゃないのアレ?」


 その微妙な空気を完全に無視して、ウイズはルナサへと真っ直ぐな視線を向けて告げる。


「さぁおれと勝負しろッ、ルナサ・シークグリッサ!」

「え? イヤだけど」

「な、なぜ!?」

「仕事中だし」

「…………」


 事実を口にするルナサに、ウイズは口をパクパクさせながら固まった。


 依頼人であるマーナと、何でも屋としての先輩であるバッカスが、『戦慄の死の風』の茶番につきあっているからルナサも黙ってつきあっているだけである。


「ちゃんと断れて偉いわ、ルナサちゃん」

「何でも屋としての一人前の自覚はあるみたいだな」

「褒められるコトでもないでしょ……です」


 マーナとバッカスから同時に褒められ、返事がどもる。

 それぞれへの口調が異なるせいで、同時に返事をしようとした結果だ。


 ともあれ、ルナサとしては本当に褒められても困るのだ。

 バッカスやマーナにどうにかしろと言われれば、ルナサはマーナをつれてちゃっちゃとこの場を離れるくらいのことは考えていた。


「仕事中だってコトを除いても、ルナサには勝負を受ける理由もなけりゃ、勝っても何一つ有益なモンはないから、当然ちゃ当然だよな」

「自分の一方的な事情を相手に押しつけてるようなモノだしねぇ」


 冷静な大人組の冷静な言葉に、ウイズの顔は真っ赤だ。

 その様子を見ながら、バッカスは目を眇める。


(とはいえ、このままあしらっててもしつこそうだしな……)


 勝負に関してはルナサの好きにしろと思うが、このままつきまとわれてルナサの仕事を邪魔をするのはよろしくない。

 ルナサだけでなく、ウイズたちの今後にも悪影響を与えかねないだろう。


(こういう時にするべきコトってのは余り多くはねぇな)


 バッカスは人知れず小さく嘆息して、ルナサの名前を口にした。


「ルナサ」

「なに?」

「マーナの護衛を一時的に代わってやる。

 勝負を受けてとっとと終わらせろ。今後も付きまとわれるのが鬱陶しいと思うなら、やるだけ無駄だと理解させた方がはやい」

「そうねぇ……心を折るまではしなくてもいいけど、今後ケンカを売りづらくなる程度には体に教えてあげた方がいいわ」


 バッカスとマーナの言葉に、ルナサは目を(しばたた)く。

 それから僅かな逡巡をすると、小さく息を吐いてうなずいた。


「まぁ二人がそこまで言うなら」


 面倒くさそうに頭を掻きながら、ルナサはウイズの方へと向き直って一歩踏み出した。


「そんなワケだから、勝負を受けてあげるわ」

「本当か!」


 捨てられた子犬が助けてくれそうな人を見つけたような眼差しを鬱陶しく思いながら、ルナサはこれ見よがしに嘆息する。


 その時、手元に飲みかけの麦茶(ミルツティー)を持ったままだと気づくが、「まぁいいか」とそのままにした。


「それで勝負の内容は?」

「当然、戦闘だ」

「タイマン? それともそっちは三人で来る?」

「実戦を想定しているのだから三人だ!」


 胸を張っているが、色々とツッコミたい言葉である。

 だが、ルナサはそれを大して気にもせずに話を続ける。


「実戦を想定しているなら、開始の合図はいらないわよね?

 お互いが合意をした時点で開始でいい? わたしはいつでもいいんだけど」

「こちらも異論はないぞ」


 そのやりとりを見ながらマーナは感心したようにバッカスに訊ねた。


「なかなかえげつない手段を取ってるけど、あなたの仕込み?」

「日々を生きてりゃ仕入れる機会はいくらでもあるだろうよ。

 それに、今の時点で殴りかかってねぇから、だいぶ優しいと思うぞ」

「それはそうね」


 バッカスなら、ウイズが「異論なし」とうなずいた時点で攻撃している。お互いが合意した時点で開始なら、それが開始の合図なのだから。


「そして見せてやろう。この魔剣のチカラをッ!」


 お互いが合意した――とウイズは判断するなり、魔剣を抜いて天に掲げた。

 ウイズが魔剣に魔力を流し始める。隙だらけだ。


「…………」


 それでもルナサは攻撃しない。

 取り巻きが魔剣の準備をフォローするべく攻撃してくるだろうと思ったのだが、そういうのもないらしい。


 気を張って損したと、ルナサは気怠げに息を吐くと、手に持っていた飲みかけの麦茶を容器ごとウイズに向かって投げつける。


「うおッ!?」


 麦茶はウイズの顔に直撃し、同時に彼の集中が切れて魔力が霧散していく。


()ッ!」


 続けて、魔力で身体強化を行い地面を蹴っていたルナサの呼気が響く。

 

 次の瞬間――


「ぶべらっ!?」


 ルナサの右膝がウイズの顔面にめり込んだ。

 その反動でルナサはバク転しながら綺麗に着地すると、即座に横へと跳ぶ。


 驚いている金髪のショーメッズのこめかみへ、ルナサは後ろ回し蹴りの要領でカカトをたたき込んだ。


 ルナサは吹っ飛んでいくショーメッズには目もくれず、魔力帯を展開しながら着地。

 即座に術式と祈りを刻み込むと、振り返りながら掲げた人差し指を、お下げのメイシズへと真っ直ぐ向けて呪文を紡ぐ。


「赤いカラスの燃えがら漁りッ!」


 指先から小さな火球(かきゅう)が放たれると、それは空を駆けてメイシズに迫る。


「うわああああ」


 それはメイシズに直撃すると大きな音と衝撃を放つ。

 メイシズは軽いやけどを負いながら、目を回してひっくり返った。


 バッカスが術式を読み解いた限りだと、音と見た目はハデながら威力のないモノのようだ。大したやけどではないだろう。


 その爆発音が響くなか、魔術を放った当のルナサは隠し持っていたナイフを引き抜くと再び地面を蹴る。


 起き上がろうとしていたウイズの鳩尾に膝を突き刺すように着地。


「ぐえぇ」


 カエルが潰れたような声でうめくウイズに向けて、ルナサはナイフの切っ先で鼻先に触れながら告げる。


「はい。これでわたしの勝ち。いいよね?」


 その口調には、気負いもなければ勝ち誇ることもなく。

 傲慢も謙遜もなければ、興奮も不必要な冷静さもなく。ただただ、事実を確認するだけの淡々としたモノだった。




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