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空腹をスパイスに、したくはない 5

書籍版7/14発売です٩( 'ω' )وよしなに


「出会い頭に帰れって言ってくる人は初めてね」


 ケラケラと笑う女に、バッカスは心底からうんざりした様子を全開にした笑顔を返す。


「バッカス、いくらなんでもこの方にそのような態度は……」

「うるせぇ! あの悪友の嫁なんだ。アイツ同様に笑顔で腹黒く俺をコキ使うに決まってるッ! 絶対関わりたくねぇッ!」


 クリスは慌てた様子でバッカスを(たしな)めようとするが、それをバッカスは一蹴する。


「まぁ! 旦那様の言う通りだわッ!

 誰かが窘めようとすると、絶対に言うだろう言葉だと旦那様が教えてくれた言葉そのままだなんて!」

「ほれみろッ! すでに俺たちはあの悪友の手のひらの上なんだよッ!!」


 その光景を見ていた護衛の騎士たちと、護衛の何でも屋たちは困惑していた。


 若干涙目のバッカスと困り顔のクリス、そして豪華な馬車に乗っていた女性のやりとりに、誰もがついていけない。


 端から見れば、明らかに高貴な身分の女性。何でも屋のようだが明らかに貴族出身の女性。そしていかにも何でも屋然とした魔術を使う瞬抜剣士の組み合わせ。


 その中で瞬抜剣士の口の悪さが咎められないどころか笑われているという異常事態。

 そもそも、豪華な馬車に乗っていた女性は、その剣士を自分の夫の悪友と呼んでいるのだから、意味が分からない。


 誰か説明しろという周囲の人たちの視線を気にせず、バッカスたちのやりとりは続いていく。


「バッカス君。名乗らせて貰っていいかしら?」

「名乗らせた時点で俺の負けな気がするが……仕方ねぇ、今回は悪友に負けてやる」

「ありがとう」


 わざとらしく嘆息するバッカスに、女性はお礼を告げてから改めて自分を示した。


 煌めく栗色の髪と、喜色に満ちた藍色の瞳を揺らしながら、バッカスをからかうように名乗り上げる。


「私はマーナ・ヨッツィ・ヤーカザイ。ちなみに旧姓はエンビスコニックよ」


 茶目っ気たっぷりに名乗る女。

 その名乗りを聞いて、彼女について知らなかった者たちは、声にならない悲鳴を上げるが、一方のバッカスはますますうんざりした色を濃くしてうめく。


「悪友がエンビスコニック王国から、嫁を貰ったっていうのマジだったのかよ」

「あら信じてなかったの?」

「あの悪友に嫁いでくる女が実在するコトが信じられなくてな」

「私の一目惚れよ? 政略結婚ではあるけれどそのせいで嫌だとは思わなかったわ。むしろ最高って思った」

「マジかよ。大丈夫なのか? あの悪友だぞ。横に並んで正気を保ててるか?」

「貴方が悪友をどう思ってるのかは知らないけれど問題ないわよ。私、あの人の顔が大好きだから」

「顔かよ。あ、いや……顔だけだよな?」

「中身も大好きよ。私に優しいもの」

「マジかよ。あいつが優しい?」

「ちなみに言い忘れてたけれど、私これでも祖国では第三王女だったわ」

「そこはどうでもいいや」

「王位をどうでもいいとか言われたの初めてよ」


 ケラケラとマーナが笑う。

 何となくその笑った顔に思うことがあったので口にする。


「アンタ、悪友から笑ってる姿が良いとか言われたコトないか?」

「あるわ! やっぱりあの人の悪友ね! 分かるの?」

「アイツの好みっぽいなと思っただけだよ」


 明らかにバッカスが困惑する姿を見て楽しそうに笑っているのだ。

 困っているやつや、苦しんでいるやつを相手に笑みを浮かべるサディスティックさとか、悪友が好むに決まっている。


 バッカスと顔を合わせてから、マーナは徹頭徹尾上機嫌だ。

 明らかな不敬を気にせずに楽しそうに笑っている為、護衛の騎士やクリスも、なかなかバッカスに声を掛けづらいようである。


 とはいえ、悪友の嫁だ。

 かの男がいくら笑い方が好みであるからといって、無能を嫁にするワケがない。


 ひとしきりバッカスと言葉を交わして満足したのか、マーナは少し真面目な顔をした。


「さて、いつまでも私がバッカス君を独占しているワケにもいかないわね。こちらの事情はそちらのお嬢さんと交換するから、貴方は……」

「ああ。向こうの馬車を見てくるよ」

「必要ならば旦那様へ回してくれて構わないわ。金銭で解決する問題ならばなおさら、ね」

「了解。貸しを作る気はないが、さりとて事情によってはアンタに巻き込まれたみたいなモンだろうしな」

「辛辣ね」


 バッカスの言葉に、マーナがはじめて顔をしかめた。

 だが、彼はお構いなしに告げる。


「おべっかなんてもモノは持ち合わせてないからな。

 お忍びにしてはハデだし、そうでないなら護衛が少ねぇ。

 アンタの認識の甘さが、あの馬車を巻き込んだ可能性は十分にあるだろうよ」


 悪友らしくないミスだ。

 いくら最終的にバッカスを頼るにしても、少し手が甘い。

 となれば、マーナの独断だろうと、バッカスは考える。


 それを暗に示すように告げれば、マーナ自身も理解したようである。


「帰ったら、旦那様にも同じように叱られそうね」

「楽しみにしておくんだな」


 そこは仕方がないだろう。

 恐らく、マーナは悪友ほど庶民や下町というモノを理解できていない。

 もちろん多くの貴族に比べたら、だいぶ意識はしているのだろうが。


「その辺は、ケミノーサに着いてからだな」

「え? 私、街に着いたらバッカス君に叱られるの?」

「当たり前だろ? 悪友からしてみれば、俺からのお説教は折り込み済みだ。だからこそ、アンタの中途半端なお忍び計画に許可をくれたんだろうよ」

「……そ、そこまで計算されてたのね……」


 明らかにマーナが落ち込んだ姿を見せたことに溜飲を下げたバッカスは改めて、もう一台の馬車へと向かう。


 マーナのことはクリスに任せておけばいいだろう。


「よ。声を掛けるのが遅くなってすまなかった」

「いや……あんな大物を前に平然としているとかスゴイなアンタ……」


 それから、何事も無かったかのように声を掛けたら、何やら何でも屋たちにドン引きされていた。


 そんな中で、馬車から声が聞こえてくる。

 前世であればイケボと言われそうな良い声だ。


「もう顔を出して大丈夫?」


 舞台俳優でもやっていそうな通りの良い男性の声に、護衛の何でも屋の一人がうなずく。


「ええ。大丈夫ですよ」

「ふぃ~……窮屈だったぁ」


 イケボとは裏腹に、馬車から出てきたのは、髪を短く刈り込み、少しだけ逆立てソフトモヒカンっぽくした――どことなくダンディさすら感じさせる太った男だった。


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