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空腹をスパイスに、したくはない 1

お待たせしました٩( 'ω' )و連載再開です!

毎日更新ではありませんが引き続きよろしくお願いします!


そして、書籍版7/14サーガフォレストより発売されるコトが決定です!

絶賛予約受付中! 皆様よしなにお願いします!


また、タイトルを書籍版に合わせて変更しました。

新タイトルで、よろしくお願いします。


 のそりと、バッカス・ノーンベイズはベッドから起きあがる。

 眠気の残るままに藪睨みで窓の外を見るに、どうやら昼は過ぎているようだ。


 薄っぺらい掛け布団を跳ね退けて、ベッドから降りる。


 あくびをしながら寝室を出て、リビングを通って洗面所へ。


 ぼんやりとした面もちのまま洗面台に向かい、冷たい水で顔を洗ったあたりでようやく意識がハッキリしはじめた。


 タオルで顔を拭き、鏡に映る目つきの悪い男――つまりは自分と睨めっこしながらうめく。


「あー……また昼まで寝ちまったな」


 昨晩もまた知り合いと夜遅くまで飲んでいたのだから仕方がないかもしれないが。


 顔を拭いたタオルを洗い物用のカゴへと放り込んでリビングに戻る。


「何、食うか……」


 空腹を感じながらリビングに戻った時、ふと一つの魔導具が目に入った。


 この部屋の中にある数少ない、バッカスが手を加えていない魔導具。


「すっかり使ってねぇなコレ」


 窓際に置いてあるソレに、僅かにつもった埃を払って魔力を流す。


《――ざざ、ざざざ……本日、統一神歴2199年……夜赤月(5月)、第二週……お昼をお知らせします……》


 魔力を流すと聞こえてくるのは人の声。


《ざざざ……今の王都の天気は晴れ。晴天が広がっております……。

 夏の、ような……青空と、日差しが、大変心地よい、です》


「相変わらず、退屈な内容だ」


 軽く肩を竦め、魔導具を起動させたまま、キッチンへと向かう。


 この魔導具の名称はオイダァル。

 魔力で動いていることと、魔力周波と呼ばれるモノを拾っていることを除けば、前世のラジオと同じモノと言っても過言ではない。


 この国で生まれた新しい魔導具であり、記念すべき最初の放送も、今流れたような内容だった。


 決められた時間に、王都の天気とともにささいなニュースを流す。その程度のもので、娯楽としてもイマイチだ。

 そんなものでも、まだまだ高価で、庶民には手を出せない。

 なので、世間からの評判はなんだかよく分からない魔導具という扱いである。


「一方的とはいえ、遠方の情報を数秒で送れるってのは画期的なんだけどな」


 それがどれだけ画期的であるかを理解するには、まだ国民の教養が足りてないのだろう。


 冷蔵庫から適当に食材を取り出しながら、バッカスは独りごちる。


 オイダァルはあくまで受信機だ。

 だが、これが開発された以上は双方向の送受信機が作り出されるのも時間の問題だろう。


《現在、この放送は、第一魔力周波と呼ばれる、魔力波形に乗せて、一定範囲に声を、お届けして、おります。

 このたび、第二魔力周波、ならびに、第三魔力周波の使用権を民間の商会が、購入しました》


 野菜を切っている時に聞こえてきた声に、バッカスは思わず手を止めた。


「お。ついに来たか」


 どんな商会が購入したのか気になるところだ。


《第二周波は、ウエステイル商会》


 いきなり、何とも言えない商会の名前が出てきてバッカスは吹き出す。


「ウエステイルって……手広くやっちゃいるが、美食の国にある大企業エイトブリジ社からだいぶ出資してもらってるところだろ? 大丈夫かよ」


 外国の影響が非常に強い企業に魔力周波の使用権を渡して大丈夫なのだろうか。プロバガンダに使われる危険性を分かっているのかいないのか。


「いやそもそもがプロバガンダという概念がねぇのか……」


 今度、悪友に会ったら言っておく必要がありそうだ。


《第三周波は、ヤーカザイ文化芸能社》


 もう一つは聞き覚えはないが、間違いなく国内の商会のようだ。


《ヤーカザイ文化芸能社は、大道芸ギルドが、中心となって発足され、複数の劇団や商会が協力しあい、オイダァルを使った、新しい娯楽提供を、目的とした集団です》


 そして、その存在がどんなものであるかを理解してバッカスは笑う。

 ようするに、この世界で初めてのラジオ局――ならぬオイダァル局の発足だ。


「ともあれ、これでオイダァルが暇つぶしの道具になる一歩を踏み出した……か」


 ウエステイル商会が何をしようとするのか不安だが、この放送によって、この世界の近代化が一歩進んだのは間違いない。


「俺が五彩の輪に還るまでにはテレビも生まれそうだよな、これ」


 そんなことを(うそぶ)きながら、上機嫌に料理に戻ろうとした時だ――


 ドンドンと、力強く玄関をノックする音が聞こえてきて動きを止める。


「…………」


 僅かに悩み、バッカスは無言を貫くことにした。

 すると、再びドンドンという音が聞こえてくる。


「バッカスいるんだろッ、ライルだ!

 オイダァルの声が聞こえてるってコトは家にいるんだろ!

 居留守は無しだ! 話がある!」


 深く深く嘆息したあと、バッカスは切った野菜をザルに移した後、ザルごと布でくるんで冷蔵庫へとしまう。


「…………」


 それから無言のまま玄関に行き、扉を開けた。


「よ! なんか不機嫌そうな顔してるじゃないか」

「寝起きにオイダァル聴きながらメシでも作ろうかと思ったらやかましいのが現れたからな。機嫌も悪くなる」

「ま、そういうなよ。入るぜ!」

「……ったく」


 遠慮なく入ってくるライルに舌打ちしながらも、追い出すようなことはせずに玄関の扉を閉める。


 リビングのイスに腰をかけるライルを無視して、バッカスはキッチンの冷蔵庫で冷やしてあった麦茶(ミルツティー)を取り出すと、コップを二つ用意してそこに注ぐ。


「んで、今日は何の用だ?」


 麦茶の入ったコップの片方をライルに手渡しながら訊ねる。

 すると、ライルが端的に答えた。


「依頼」

「帰れ」


 なのでバッカスが端的に返したのだが、ライルは気にした様子はない。


「まぁ聞くだけ聞けって」

「聞く前に訊きたいんだがロックやストレイじゃダメなのか?」


 バッカスの当然の疑問に、ライルは肩を竦めた。


「この町に来る予定の要人が予定より遅れているから確認しに行って欲しいんだが、これがまた面倒な要人でなぁ……」

「ロックやストレイでも不安なのか?」

「仕事は問題ないだろうが、要人の機嫌も含めての話だな」

「クリスにやらせろよ。朝飯前だろうぜ、そういうの」

「バッカスと一緒ならやるって言ってたぜ」

「…………」


 どうやらクリスに先手を打たれていたらしい。


「仕方ねぇなぁ……」


 頭をかきながら、ぼやくようにバッカスは訊ねる。


「出発は?」

「今」


 瞬間、バッカスは無言で拳を振るった。


「避けるなよ、ライル」

「殴るなよ、バッカス」


 しばしの睨み合いの後、バッカスは椅子から立ち上がる。


「準備してくるぜ、クソッタレ」

「なるはやでなぁ~」

「今度テメェにメシ作る時、全部激辛にしてやるから覚悟しとけッ!」


 苦々しく毒づきながら、バッカスは着替えるべく入った寝室のドアを、乱暴に閉じるのだった。


 冷静になってみると、ライルに作る前提の仕返し手段だった気がして、思わず天を仰いだ。


改めまして、7/14に書籍が発売します!

下の方に書影も置いておきますので、

是非とも格好いいバッカスとクリスを見て頂ければ!


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