表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/167

腹が満ちれば、思いも変わる 4

本日2話目!


本日の日間ランキング夜更新分、ジャンル別23位٩( 'ω' )وやったー!

皆さん、お読み頂いた上にブクマ&評価ありがとうございます!


 彼女はよほど空腹だったのだろう。

 一心不乱にお粥を食べてる気配を感じながら、バッカスは自分用に作った濃いめの味のお粥を啜る。


「お、良い感じに中華粥っぽい風味にできたな」


 その味に満面の笑みを浮かべたバッカスは、油で揚げたダエルブ――前世のフランスパンに近いもので、この世界での主食だ――をちぎって、中華粥にくぐらせて口に運ぶ。


「うんうん。これこれ」


 二百年くらい前までのダエルブは非常に堅かったらしい。

 だが、そんな時代にいたとある女性――歴史にその名を残す有名な何でも屋(ショルディナー)だ――が若い頃、ブドウに似た果物エニーブや、いわゆる柑橘系(ニラダナム)の果物などから酵母を作り出し、今の柔らかなダエルブの礎を築いたと言われている。


 現代を生きるバッカスとしては、その発明をした何でも屋(ショルディナー)さまさまだ。ついつい祈りたくなってしまう。


 食の子女神の化身とまで謳われるほどの美食家だったとかで、自身が納得する味を作り出す為に、食材を探し出すだけに飽きたらず、自らも鍋を振るうことがあったというエピソードには、親近感すら覚える。


 余力があるなら自分も食材探しの旅と未知なる食材の料理とかしてみたい。

 問題は、バッカスの中に冒険に出るなんて面倒なことはしたくないという感情があることか。


 ともあれ――


「あとはザーサイが欲しいところなんだが」


 生憎と自分の知識に作り方が存在しないのが口惜しい。

 だが、塩は容易に手に入るのだから、浅漬け程度のものなら作れるだろう。代用くらいはできるかもしれない。


 あるいは、香辛料などを組み合わせた調味液を作って高菜のようなものも漬けるというのもアリか。


(今度試してみるか)


 思考をしながらもスプーンは止めずにいると、いつの間にやら器の中は空になっていた。


「ふー……ごちそうさまでしたっと」


 ひとしきり――朝食なんだか昼食なんだか分からない微妙な時間の――食事を終えると、バッカスは寝室へと視線を向けた。


 そろそろ向こうも食べ終わった頃だろうか。


(あいつはノーミヤチョーク卿の長女……クリスティアーナだっけか? たぶん間違いないよな?

 王都に住んでた頃、米料理の店でちょいちょい見かけた姿と一致する)


 扉を見ながら、ぼんやりと思案する。


 ノーミヤチョーク家の邸宅は王都のはずだ。

 この領地に別荘があるという話も聞いたことがない。


「ドントルドのおっさんとこのガキと婚約を結んだとかって話は、おっさん自身から聞いた覚えがあるっちゃあるが……うーむ……」


 独りごちながら、首を傾げてうめく。


 自分の知っている情報を引っ張り出してきても、どうして彼女が工房前で倒れていたのかがそれぞれの情報に結びつかない。


「確か、ここの領主とノーミヤチョーク家って親類なんだっけか?」


 曖昧な情報だがそうであれば連絡先は領主だろう。

 そうでなくとも、バッカスがこの町で安心して彼女を預けられる貴族と言うと、領主しかいないのだが。


 何であれ、だいぶ弱っていたし、熱もある。

 まずは可能な限りの手当を施した上で、連絡するべきだろう。


「あ、本人からどこへ連絡すればいいか聞けばいいのか」


 バッカスは立ち上がると、自分の使っていた食器を片づけから、寝室のドアをノックする。


「入るぞー」

「ああ」


 返事が来るのを待ってからドアを開ける。


「綺麗に食べてるじゃないか。ありがとな」

「ごちそうさま。良い味だった」

「お粗末様でした。そう言ってもらえると作り手の冥利に尽きるな」


 空になった鍋の中に、お椀やスプーンなどを入れながら、笑顔を向ける。


 これは本音だ。


 自分で食べるのではなく、誰かに食べて貰う時に、食べてくれた相手からこう言われることをバッカスは嬉しく思う。


「ふわ……っと、失礼」

「気にするな。身体がだいぶ弱ってたようだし、疲れも溜まってるように見える。そこへ、久々のまともな栄養が身体を巡ってるんだ。眠くもなる」


 思わず出てしまったと思われるあくびに対して、あわてた様子を見せる彼女にバッカスはそう告げる。


 それから、失礼――と一言添えてから、彼女の額に自分の手を当てた。


「あ、な……」


 熱とは違う理由で赤面する彼女の様子を無視して、バッカスは自分の手から感じる彼女の熱を読みとる。


「少し高めだが……まぁそう悪い熱でもなさそうか。

 一番は疲労だな。そこに冷たい雨に打たれ続けたワケだし」


 口をパクパクさせていた彼女だったが、極めて冷静な様子のバッカスに、どうやら落ち着きを取り戻してきたようだ。


 だが、バッカスはある意味で容赦なかった。


「さらに失礼するぞ」


 そう言うと、今度は額に当てていた手を首筋にあてる。


「……ッ!?」


 冷静になりかけていた頭の中が、再び沸騰するように熱を帯びる。

 しかし、やはりバッカスは冷静な態度を崩さなかった。


「ふむ。首回りに腫れの気配もない。

 身体の調子はどうだ? 特に肘や膝といった関節に痛みとかはあるか?」


 手を離して真顔で問うバッカスに、彼女は少々慌てた様子で、軽く身体を動かしてみせる。


「大丈夫、だと思う」

「そうか。頭痛とかはどうだ?」

「それも平気だ」

「うし。なら、もう一眠りしとけ。

 栄養が補給された身体が休みを欲してるだろうからな」

「まるで医者のようなコトを言うのだな」

「多少の心得はあるからな」

「そんな男に助けて貰えたというのは幸運だったのかもしれないな」

「そう思うんだったら、大人しく寝ておけって」


 最後に本心を口にする彼女に、バッカスは苦笑するように枕を示す。


「お言葉に甘えさせてもらおう」

「そうしろそうしろ」


 彼女にうなずいてから、バッカスは思い出したような素振りで訊ねる。


「そういや、誰に連絡すりゃいいんだ?

 特に問題ないようなら、領主にでも連絡するが……」

「それで構わない。

 今は……私は今――叔父であるこの地の領主コーカス・シータ・ミガイノーヤ卿の世話になっているからな」

「分かった。連絡しておくよ」


 バッカスはそれを聞いて一つうなずくと、静かに扉をしめるのだった。



準備が出来次第、もう1話アップします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ版【魔剣技師バッカス】連載中!٩( 'ω' )و
【コミックノヴァ】
コミカライズ魔剣技師バッカス
https://www.123hon.com/nova/web-comic/bacchus/

第三金曜日 17時頃更新予定!


【ピッコマ】
https://piccoma.com/web/product/165180?etype=episode
話読み先行配信中!
ノヴァ版より先行して最新話が更新されます!


【ニコニコ漫画】
https://manga.nicovideo.jp/comic/70493?track=official_list_s1
毎週日曜日11時頃更新予定!

【コミックス1巻~】発売中!
魔剣技師コミックス1



書籍版【魔剣技師バッカス】
一二三書房 サーガフォレスト より発売
2023/7/14発売 発売中!
魔剣技師バッカス1

2024/08/09発売 発売中
魔剣技師バッカス1





他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~【書籍化】
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~ヒロインの一人に転生しましたが主人公(HERO)とのルートを回避するべく、未知なる道を進みます!
【連載版】引きこもり箱入令嬢の結婚【書籍化&コミカライズ】
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
レディ、レディガンナー!~家出した銃使いの辺境令嬢は、賞金首にされたので列車強盗たちと荒野を駆ける~
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ