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腹が満ちれば、思いも変わる 3

この話を予約してる時点のジャンル別日間25位٩( 'ω' )و

投稿二日目にしてこの位置は嬉しい!

皆さま、ブクマ・評価ありがとうございます!


「お待ちどおさま」


 そう言いながら、彼がテーブルの上に乗せたは、小さな鍋。

 その鍋の蓋を彼がはずすと、そこから柔らかな香りがふわりと広がった。


 中身は白い粒のようなものが、卵だと思われる黄色いものとあわさった料理だ。


(エシル)料理か。

 だが見たコトのない料理だ……。リゾットに近いようだが」

「お? リゾットを知ってるとは珍しい」


 彼が驚くのも無理はない。

 (エシル)料理はもとより、そもそも(エシル)という穀物自体が、この国ではまだまだ珍しい。


「私は(エシル)料理が結構好きでな。王都で働いていたころは良く食べていた」

「貴族街と平民街の中間辺りにあった米彩色(エシル・カラリオ)って店でか?」

「知っているのか?」


 そして、その珍しい(エシル)を食べられる料理屋というのが、米彩色(エシル・カラリオ)というわけだ。

 興味本位で立ち寄ってから、彼女はすっかり虜になってしまっていた。


「俺も王都にいた頃は通ってた」

「そうなのか」


 米彩色(エシル・カラリオ)は、貴族ないし平民の富豪向けの価格設定がされていた。そこに通えるということは、彼は見た目よりも財力があるのかもしれない。


 お互い顔を知らなかっただけで、米彩色(エシル・カラリオ)の店内ですれ違っていた可能性はあるだろう。


「ともかく、こいつだ」

「ああ」


 柔らかな香気に食欲を刺激されていたところだ。

 (エシル)料理好きとしても気になっている。


「ある土地で、お粥と呼ばれている料理だ」

「オカユ、か」


 不思議な言葉の響きだ。

 この国はおろか、もしかしたらこの大陸の外の料理なのだろう。


「ま、ともかく食べてみてくれ」


 大きな匙で、鍋から器へと中身を移す。

 出来たばかりで湯気を立てる(エシル)に、彼女は目を奪われる。


 リゾットよりも水分は多そうだ。

 それに――


「この(エシル)は、粒が小さいのか?」

「お? 見ただけで気づくとは」


 彼は嬉しそうにうなずいて、器をこちらに寄越しながら説明してくれる。


米彩色(エシル・カラリオ)で主に使われてる(エシル)は、長米(グノルエシル)って品種でな。米同士がくっつきづらく、パラリと仕上がる。

 こっちは短米(トスエシル)って品種だ。加熱すると柔らかくなり、粘りが出て、もっちり仕上がる。

 品種によって特性が違うんで、料理によって使い分けるんだ」

(エシル)にも種類があるんだな」

「そりゃあな。一口に(ミルツ)って言っても色々あるだろ? あれと同じだ」


 言われて、彼女は納得する。

 そうなると、長米と短米も、大きな分類でしかなく、それぞれごとに細かい名称を持っているのかもしれない。


「まぁ(エシル)談義も楽しいが、冷める前に食ってくれ。

 こっちの小皿のものは薬味だ。風味を足すものだから、好みで掛けるといい」

「ああ。頂こう」

「俺は向こうにいるから、ゆっくり食べな。出掛けはしないから、何かあれば声を掛けてくれ」

「ありがとう」


 食の子女神(リ・ゴズデイツ)クォークル・トーンに祈りを捧げ、彼女は木匙を手に取った。


 器からオカユをすくい、軽く息を吹きかけてから口に入れる。


「あ」


 同時に口の中に柔らかな塩気が広がった。仄かに海を思わせる香りと塩気だ。


 柔らかい(エシル)を噛みしめれば、特有の甘みがじわりと広がり、その塩気と合わさって、さらに広がっていく。


 そこに、卵の甘みが自分も混ぜろとやってくる。


「美味しい……」


 しょっぱすぎず、薄すぎずの絶妙な塩加減。

 (エシル)の甘みと、卵の甘みが、その塩気の中にある甘みをも引き出していく。


 逆にその塩気は、(エシル)と卵の甘みを引き出し、風味を高める。


 口の中に、風景が広がっていく。

 それは海を望む丘にある白い別荘と、その別荘のテラスでそこで仲睦まじくデートをする(エシル)と卵の姿。


 磯の香りに包まれて、歌と話が弾んでいく。


 互いが相乗しあい、高まっていくハーモニーがやめられず、彼女は一杯目を一気に食べ干してしまった。


 だが、鍋の中には残っている。

 鍋の脇に置いてあった大きな匙で、空になった器にオカユをよそる。


「そう言えば、好みで使えって言ってたわね」


 彼の言葉を思い出し、鍋の横にある小皿を見た。


 小皿はいくつかあり――

 小さな緑色のワッカのようなもの。

 木くずのようなもの。

 蟻より小さな黒い木の実のようなもの。


 それぞれが乗っている。


「うーん……?」


 どれも見慣れない不思議なものばかりだが、これだけの逸品を作る男が、意味のないものを用意したりはしないだろう。


 とりあえず、緑色のワッカのようなものを少しだけオカユに乗せる。

 どうやら葉っぱの類のようだ。


 オカユとともに食べれば、シャキっとした歯ごたえと独特ながら爽やかな風味と香りが広がった。

 どうやら、ネーグルノイノー(長ネギ)の一種のようだ。

 爽やかな風味が加わって、味わい深くなった。


 次に黒い粒をぱらりと掛けてみる。

 それと一緒にオカユを食べると、香ばしい風味と甘みが足された。

 これもまた、自分の知らない食材だ。何かの種だろうか。


「こっちはどういう味なのかしら?」


 木くずのようなもの対する忌避感と好奇心のせめぎ合いは、二つの薬味を食べたことにより、完全に好奇心へと傾いた。


 それをオカユに乗せて一緒に食べてみると、磯の香りと魚の風味が口に広がり、想像しなかった味わいに変化する。


「スープの味が濃くなった……すごいわ」


 恐らく、この木くずのようなものでオカユの土台となっている出汁(フォン)を作り出したのではないだろうか。

 わざわざこうしてトッピングとして出すことで、もっと風味の濃い味が欲しい時に調整できるようにしてあるのはニクイ。


 オカユの味と食べ方、楽しみ方は理解できた。

 あとはもう、食欲の赴くままに楽しむだけだ。


 そうして、彼女は汗をかきながら、鍋が空になるまでオカユを食べ続けるのだった。



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