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罪人島  作者: 木邑 浩二
9/21

人の温もり

 陽の光を感じ、ゆっくりと瞼を持ち上げると、ベッドで横になっていいた。

ベッドと呼ぶにはあまりにお粗末で、綿は飛び出し汚れはひどく、床で眠るよりは幾分マシな程度だった。

気だるげに上体を起こし、周囲を見回す。

かつて校舎として成り立っていた時は、保健室と呼ばれていた一室だ。


「オレ、何でここにいるんだ・・・・・」


数日前から頭がボーッとし始めた少年は、とりあえず目についた校舎に入り休憩しようと、教室のドアを開けたところで力尽き、倒れてしまった。

そのまま死んでもおかしくないのに、生きているうえに移動しているのは何でだと考えていると、一人の少女が両手に鍋を持って現れた。

少年が起きているのを見ると、安堵の表情を見せる。


「持ってきた薬が効いたみたいで良かった~」


(・・・こいつ・・・おかしの・・・・)


少女瑠璃は少年に近づくとベッドの端に腰掛ける。手にしていた鍋は近くの棚に置き、少年の額に手を伸ばす。

一瞬、少年の肩が震えたが、瑠璃は気にせず額に手を当てた。


「熱もだいぶ下がったね。おかゆ作ったけど・・・食べれる?」


「・・・・・・」


「大丈夫!レトルトだから味は保証する!」


「・・・・・・」


ジッと見つめてくる少年に瑠璃は首を傾げ、心配になる。


(おかゆキライだった?それとも私がウザかった?)


「・・・・・・何で?」


「?」


「なんでオレをたすけた?」


「え?助けた理由がいるの?」


間髪入れない瑠璃の返事に、少年の両目が軽く見開かれる。

そんな少年を、今度は瑠璃がジッと見つめ返す。瑠璃にとってその疑問が心底不思議だったのだ。


「ん~・・・だったら、そう。私が助けたかったの!これでどう?」


屈託なく無邪気に笑う瑠璃。

ここに来てから、少年が意図して自分を助けてくれたわけではない。

すべて偶然だと分かっている。

でも助けられたのは事実だ。

そのことが単純に嬉しかったし、目の前に死にそうな人間(ひと)がいるのに、罪を犯した受刑者だからと見捨てるほど、瑠璃は割り切れる人間ではなかった。

瑠璃の言葉が偽りなく本心だと感じると、少年の心が落ち着かなくなり、思い切り俯くと、身体に掛けられていたシーツを握り締める。



(・・・・・なんで・・・だれも、だれも、だれも、だれも、だれも・・・・・オレをたすけてくれなかった・・・・・それなのにいまさら・・・・・!)


「・・・オレは・・・そんなこと・・・たのんでない・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・あんたがかってに・・・やっただけだ・・・」


瑠璃は少年の身体が震えているのに気づく。

抱き締めようかと手を伸ばし逡巡したあと、矛先を少年の手へと変え、両手で包むように優しく握った。


「うん、私が勝手にしたの。だからキミはなーんにも気にする必要はないの」


少年は自分の手に重なる瑠璃の手を見つめる。

肉付きのある指先と、きめ細やかな美しさのある白い瑠璃の手に対し、皮と骨の指先に、爪の中まで黒く汚れた自分の手に、躊躇いもなく触れる瑠璃の体温があまりにも心地良く、身体全体に浸透していく。

少年はその手を、決して振り払うことができなかった。

唯、子どもらしく無邪気に大声で泣くことを躊躇い、声を殺して泣いた。


(・・・・・・オレ・・・・かっこわる・・・・・)

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