侵入者
【罪人島】は劣化した建物や設備、無造作に伸びきった雑草で覆われ、管理が全くされていない。
しかし、島の東にある建物だけは、比較的綺麗で電気も通っている。
そこは【罪人の王】が住まう場所であり、死合会場でもあり、島内で唯一本土への連絡手段がとれる場所でもある。
【罪人の王】になれば、在籍期間中、衣食住の不安から解消されるが、現在の【罪人の王】も含め、歴代の王達もその環境には堕落せず、自身の身体を鍛え続け、人を使い情報収集に努め、本土の人間とも上手く立ち回っていた。
本土の人間達も、使えない受刑者よりも、使える受刑者のほうが御しやすく、都合が良かった。
今日の本土からの定時連絡が終わると、厳しい表情でモニタールームをあとにする青年がいる。
彼こそが現在の【罪人の王】海琳だ。
ドアの前には部下が立ち、【罪人の王】が出てくると、数歩後ろに離れたところで、ピッタリとついて行く。
「三日前、本土の人間がこの島に侵入した」
「本土の人間ですか?」
歩みを止まらせることなく、淡々と話す【罪人の王】に対し、部下は驚きを隠せなかった。【罪人島】から本土へと逃亡したい受刑者は腐るほどいるが、その逆はほとんどいない。
「見つけ出して本土に送還しろとのことだ。報酬は追加で食料と水、一週間分。期限は五日間」
「五日間で人一人を見つけろと?ここは本土じゃない!しかも食料と言ってもまずい携帯食でしょう?・・・・・もっとマシな物を寄こせよ!」
(受刑者に人権なんてない。配給があるだけマシだ)
部下の文句はもっともだが、海琳にとってはどうでも良いことだ。
「達成できなければ週一の食料配給は一時中止される。餓死で死にたくなければ探せ」
「・・・・・・」
冷たく言い放たれ部下は一瞬黙ると気持ちを切りかえ、大事なことを確認した。
「その侵入した本土の人間の特徴は分かっていますか?」
【罪人の王】は足を止め、冷ややかな視線を部下に向けると一枚の写真を投げつけた。
「十五歳の少女で、名前は栗栖瑠璃」
部下が写真に目を落とすと、それは家族写真のようだった。両親の間に挟まれた少女が標的の少女であると思われるが、写真の中の少女の表情はとても硬いモノだった。