少年と少女
太陽の光が地上に惜しみなく降り注ぐ中、一人の少女が流れ落ちる汗も拭わず、必死な形相で、前を走る男を追いかける。
「返して!私のリュック!」
少女の怒声に、ほんの一瞬男は視線を少女へと向けたが、足は止めず更に加速する。
徐々に少女と男の距離が広がっていく。
涙目になりながら、少女は唇を噛みしめる。
(私のバカ!ここは危険な所だって聞いてたのに!ホントにバカ!!)
自分の行動に後悔しながら、男を、盗まれたリュックを追いかける。
どうしても【罪人島】に行きたくて、一ヶ月に一度だけ【罪人島】に食料や物資を運ぶ船に忍び込み、島に上陸したまでは良かったが、どちらに進むか悩んでいると、その隙にリュックを引っ手繰られた。
(ぜっったいにあきらめない!)
遠くなっていく男を決して逃すまいと、もつれそうになる足を前へ前へと走り進める。
しかし、無情にも男の姿は小さくなっていく。
追ってくる少女の姿がほとんど見えなくなると、男は走りつつにやりと笑う。
「じゃまだ」
「!?」
突然の声に男は足を止め周囲を警戒するが、誰もいないと分かると安堵したのも束の間、頭上から大きな衝撃を受けた。
意図せず意識を失った男はそのまま地面に倒れる。それと同時に、小柄な少年が地面へと華麗に着地する。
「オレはじゃまだって言った」
すぐ側の廃墟と化した建物から飛び降りた少年は、悪びれることなく男に告げた。
息を切らしながら、何とか男に追いついた少女は少年と男を一瞥した後、取り急ぎ地面へと放り出されたリュックを抱きしめる。
「よかった~」
無表情に自分を見つめる少年の視線を感じ、少女は立ち上がると笑顔で少年に詰め寄り手を握る。
「状況はよく分からないけど、キミがあの人を止めてくれたんだね!ホントにありがとう!!キミのおかげでホントに助かった!!これお礼!じゃあ、私急ぐからここで!」
一方的に少年に向かってしゃべると、リュックの中からお菓子のポッ〇ーを取り出し、有無を言わさず少年の手に握らせ、手を振りながら笑顔で走り去って行く少女。
一連の行動に呆気をとられ立ち尽くす少年。
(なんだ・・・あいつ?)
そこに、廃墟と化した建物から、ぞろぞろと人が現れる。
「急に飛び降りるからビックリしたじゃない!」
少年の姿を見つけ、一人の女が彼に駆け寄る。女は腰まである長い髪を靡かせ、露出の多い服を纏い、艶やかな笑みを浮かべながら、自分より小さな少年を抱き締めようと手を伸ばしたが、背筋に寒いモノを感じ、手を止めた。
「さわるな」
女を一瞥することなく、その場から少年は去って行く。
「菜々姫、あんなクソガキほっとけ」
「そうそう、俺のほうが間違いなく、イイ男だろう?」
「いや、俺だろう」
菜々姫の後方に控えていた、彼女の取り巻きの男達が、思い思いに発言する。彼らには目もくれず、内心溜め息をこぼすと、少年が去って行った方向へと視線を向ける。
(弱い男ほどよく咆える。あんた達は非常時に私の盾になる道具でしかないわ)