第八話 決闘
1週間後。
決闘場所は未開の地、北5地区。
ガイアいわく、ここなら邪魔は入らないとのこと
鬱蒼と生い茂る密林の中、俺とガイアは対峙していた。
俺の後ろにはラキアが、ガイアの後ろにはパールとアイリスの姿が見える。
「逃げずにちゃんとここまで来たことは褒めてやるよ」
開口一番、挑発行為をするガイア。
「ケガはちゃんと治したか? 負けた後の言い訳にされちゃたまらないからな」
売り言葉に買い言葉。
俺も言い返す。
「どこまでも調子に乗りやがってッ!」
ガイアは腰に差していた剣を抜く。
オーソドックスなロングソード。
銀色の剣の切先を俺に向ける。
「勝負は簡単だ。てめぇと俺が戦って、立ち上がれなくなるか、参ったと言ったほうが負けだ。いいな!」
「なんでもいいよ。さっさとやろう」
ガイアが踏み込む。
真っ直ぐ、一直線に俺へと向かってくる。
「剣技・一刀両断!」
ガイアのスキルは《剣技上昇》。
様々な剣技を扱うことができる、単純だがそれなりに使い勝手のいいスキルだ。
ロングソードを俺の脳天に振り下ろす。
おいおい、殺す気じゃないか。
「重力操作・上転」
俺の目の前、ロングソードの柄の部分のみの重力を操作して、へしゃげるほどの重力場とは逆に、人が浮くほど軽くする。
当然、ロングソードは俺の眼前で止まる。
それどころか、反対方向に働く力が強すぎて、ロングソードは上へ上へと押し返されていく。
「な……んだ?」
ガイアは必死の形相で力を込めているが、まるで意味がない。
飛びのいて窮地を脱したガイア。
額には大粒の汗が滲んでいた。
「どんな手品だそりゃあ!」
「手品っていうか……ただのスキルだ」
「クソが!」
こりもせず突っ込むガイア。
チラリと後ろを見ると、ラキアが不安そうに両手を胸の前で組んでいた。
その不安は、俺が負けるということではなく、やり過ぎてしまうということだろう。
今の一合で実力差に気付いて欲しかったんだけどな。
仕方ない。
「剣技・乱れ木葉!」
ガイアは上下左右から斬りかかる。
「重力操作・下転」
ガイア本人に当てれば勿論死んでしまう。
ロングソードにのみ重力をかけて、地面に突き刺した。
「ぐ……ぐぐぐぅ……抜けねぇ……!」
ガイアは引き抜こうとするが、ロングソードはびくともしない。
ここまですればもう分かるだろう。
もしもこの重力を人間に当てたらどうなるかということを。
「おい! パール! アイリス! 見てねぇで助けろ!」
筋金入りのバカだ――
どうしてこの状況下で人がいれば勝てると思っているのか。
呼びかけられたパールは魔導書を、アイリスは杖を取り出す。
仕方ない。俺を追い出したこの大バカたちにお灸を据えるとするか。
「重力操作・強下転」
殺さぬよう、ケガをさせないよう、羽虫を捕らえるかのように優しく重力をかける。
「ウガッ……!」
3人とも地べたを舐めている。
起きあがろうとしても無駄。
芋虫のように体を這わせながら、息を切らしていた。
「て…めぇ! いつの間にこんな力を……!」
「つい最近だ。魔力量がとても多くて、スキルの作成に時間がかかっていただけみたいだ」
「そんな……バカ……な……」
抵抗する力も失ったのか、喋らなくなってしまった。
やれやれ、解放してやるか。
スキルを解く。
3人は立ち上がったが、膝は揺れ、顔面蒼白だ。
「お、覚えてろよ……!」
やられ役の捨て台詞を吐いて逃げていってしまった。
「あ……仲間になろうとしてたのに……」
逃走本能だけは一丁前だな。
「カイトさん……すみません。嫌な思いをさせてしまって。私のわがままのせいで……」
ラキアは俺に視線を合わせずに話す。
バツが悪いのだろう。
けど、ラキアは悪くない。悪いのは、あの大バカたちだ。争う必要のない者同士で戦うなんて本当にバカげている。
「俺のほうこそ、上手くやれなくてごめんな。これ以上俺と一緒にいたらあいつらの心象悪くしちゃうし、早く戻ったほうが……」
最後まで話す前に、ラキアは俺の腰に腕を回して抱きついた。
「な……ラ、ラキア!?」
熱い。
体中から熱を放出しているような感覚だ。
心臓が高速で鼓動し始める。
これが女の子に抱きしめられるということか――
「私、これからカイトさんと一緒に行動してもいいですか? 足手まといになってしまうかもしれませんが……カイトさんと一緒なら、私も幸せになれると思うんです」
「けっ……」
こんしよう、と喉まで言葉が押し寄せてきたが、強引に引っ込める。
ラキアは自分自身の目的のためにも、俺と一緒に居たいだけだ。それは前にパーティを組んでいたときから分かっている。
咳払いをして、俺は応えた。
「じゃあ、これからもよろしくな、ラキア」
ラキアは満面の笑みで頷いた。