第六話 帰還
ギルド内でどよめきが起こる。
俺がゴリラントの頭部を袋詰めしたものを手にしていて、入りきらなかった分を素手で握っていたからだ。
ラキアは上機嫌とまではいかないが、誇らしげな表情だ。
あれだけ俺を冷ややかな目で見ていた連中も、恐怖の眼差しに変わっている。
「これで文句ないだろ?」
ドサッとカウンターにゴリラントの頭部を乗っける。
受付嬢は血の気が引いたような表情をしていた。
「一体……どうやって?」
「どうやってって……普通に倒しただけだよ」
「カイト様は勇者パーティに追い出された身なのに、そんな普通に倒せるわけがありません!」
随分と酷いことを言う。
けど受付嬢も悪気があって言っているわけでもあるまい。許してやろう。
「信じてもらえなくても結構だけど、結果はここにあるんだから、報酬のお金をくれ」
トン、とゴリラントの頭部を人差し指で突いてお願いをする。
受付嬢はまだ信じられないという顔だったが、渋々貨幣を取り出して俺に手渡した。
◇
ギルドを出たらもうすぐ夜になろうかとしていた。
「ふふっ」
ラキアが急に笑い出した。
「いきなりどうした?」
「受付嬢さんの顔がおかしかったから……とても信じられないって顔してましたよね」
手を口元に当ててクスクス笑う。
ラキアの笑い顔を見たのもそういえば久しぶりだな。
勇者パーティの頃はパーティ内でギスギスしていて、お世辞にも仲がいいとはいえなかったからな。
「さすがカイトさんです。経緯は分からないですけど、スキルが成長したんですもんね」
説明してあげたいが、これこそ信じてもらえるはずがない。
知らない人からの声が聞こえたかと思えば、急に最強になっていたのだから。
「お金も入ったし、どこかお店でご飯でも食べる?」
話を変えてラキアをご飯に誘う。
だが、気乗りしない表情を見せるラキア。
「どうした? お腹でも痛いのか?」
「そんなんじゃなくて……もう一個お願いしてもいいですか?」
「お願い?」
「ガイアさんたちに会って欲しいんです」
ブホッと吹き出してしまった。
今更追い出したあいつらの元に行ったところで何にもならない。
それに最強となった俺にあいつらの存在はむしろ足手まといだ。
「俺があいつらに会ってどうするんだよ」
「私たちのパーティはまた1つになれると思うんです。今程のスキルじゃなかったとはいえ、ガイアさんたちが怪我をしたときカイトさんがいたら撤退は容易にできたはずです。ガイアさんたちもそれを感じているはずなんです!」
俺の手を握って懇願するラキア。
ラキアは――仲が悪くなることを極端に恐れる娘だったな。
今の俺なら問題なく勇者パーティに戻れると思ったのだろう。
ガイアが俺の存在をそう易々と受け入れるのかどうか気になるところだが。
ラキアの澄んだ目を見て応えないわけにもいかないか。
「分かったよ。ラキアがそこまで言うなら、ガイアたちに会ってみるよ」
俺が承諾すると、ラキアの顔が太陽のように明るくなる。
魔法使いらしい純白のローブの裾をはためかせて飛び上がった。
「嬉しいです! ありがとうございます!」
ラキアの弾ける笑顔を見て釣られて笑顔になる。
俺とラキアは、王国の城の中に存在する勇者専用の病室へと向かうことにした。