第四話 勇者パーティの現在
「どうした! なにがあったんだ?」
震えるラキアの肩に手を置いて話を聞こうとする。
今にも泣きだしそうだ。
「カイトさん……昨日はごめんなさい。あなたのことを追い出してしまって……」
「そんなことはどうでもいいよ。それよりもどうしてラキア1人なんだ」
「いつもの通り……魔獣の討伐のクエストを受けたんです。未開の地、北10地区で対象の魔獣に出会ったんですけど……」
そこから先ラキアはその凄惨さをポツリポツリと、涙をこらえる様に話した。
魔獣の名前はゴリラント。
二足歩行の魔獣で太い腕と太い脚から繰り出される一撃は鉄球を投げつけられたかのように重たい。極めつけはその図体からは想像もできないほど身軽さだ。慣れていない人間では翻弄されてたちまちやられてしまう。
以前の俺なら絶対に相手にしたくない。
というか、俺の所属していた勇者パーティの力を集めても、討伐はかなり難しいはずだが。
リーダーであるガイアの慢心がでたのだろう。
ゴリラント3体の討伐へと赴き、1人、また1人と蹂躙されていったみたいだ。
なんとか隙を突いて王国まで戻ってきたが、緊張の糸が切れたようにラキア以外倒れてしまい、今は治療中だそうだ。
「なるほどね。それで、どうしてラキアはギルドに来たんだ?」
「それは……誰かにクエストを引き継いでもらおうと思って……」
チャンスが舞い降りた。
ここで俺の力を見せればなんの問題もない。
「そうかそうか。なら俺が引き継ぐよ」
「カイトさんが!?」
「元北区担当の勇者パーティの一員だったわけだし、俺が適任じゃないか? それに、俺は変わったんだよ」
「けど……カイトさん1人じゃ……」
伏し目がちにラキアは話す。
周りは俺を馬鹿にする中で、ラキアは常に俺の心配をしてくれる。本当にいい娘だ。
そんなラキアのためにも、これからのためにも、このクエスト引き継ぐしかない。
「聞いての通りだ。クエストの引継ぎを頼みたい」
俺は受付嬢に伝える。
「そんなの許されるはずがないでしょう。勇者パーティが壊滅するクエストに単身で行こうなんて許可できません」
「単身じゃなければいいんだな」
そう言ってラキアの手を取る。
「勇者パーティのラキアと一緒なら、問題ないだろう」
「カイトさん……」
ラキアには俺がどう見えているだろうか。
弱いくせに調子に乗っている大バカ者に見えているだろうか。
それとも救世主に見えているだろうか。
「よし、じゃあ行こうかラキア」
「ちょっと、まだ話が終わってないですよ!」
「俺は元勇者パーティだ。仇討ちという名目ならいいだろう」
追い出された勇者パーティの仇討ちなんてちゃんちゃらおかしいけど。
俺はラキアを立たせてギルドを出る。
まだ受付嬢は文句を言っていたみたいだが、これ以上は付き合いきれない。
「カイトさん、ありがとうございます」
ラキアからの感謝の言葉。
なぜだろう。ラキアは俺が変わったということを信じているみたいだ。
実際本当なんだけど、ラキア人を信じる気持ちは美しいな。
「んじゃ、ラキアの期待に応えるために、チャチャッと終わらせようか!」
俺たちはゴリラントがいる未開の地、北10地区へと赴いた。