第二話 覚醒
受けたクエストは《ドラゴンの卵の運搬》。
ドラゴン退治はAランククエストだが、寝ているときの卵の運搬であれば、Eランク、正直誰でもできる。
今回のドラゴンは食用卵を産み落とすため、討伐は禁じられているが。
夜間を狙って山岳に足を踏み入れた。
「ラキアだけは庇ってくれたとはいえ、まさか呆気なく追い出されちまうなんてなあ」
スキル《スロウ》。
対象の速度を僅かに下げる。
確かに補助的なスキルだけれども、ガイアが言う以上には活躍していたはずだ。
山道の石を蹴飛ばしながら歩く。
山の中腹にドラゴンはスヤスヤと寝ていた。
体長20m程の赤い小型のドラゴンだが、暴れられたらひとたまりもない。
ドラゴンの横に置いてある卵を慎重に手に取る。
30cm程のサイズの卵を抱えて歩き出す。
順調だ――
俺だって、この程度なら出来るんだ。
そう思ったのも束の間、蹴飛ばした石に足をつまづいてしまう。
卵を守ろうと咄嗟に背中で転んだ。が――
「ギャオォォォォォォォォォ!!!」
ドラゴンが目覚めた。
「う……わ…………!」
小型とはいえ、その体格差は言うまでもなく絶望的。特に、補助スキルしかない僕には勝ち目がない。
「ギャオォォ!!!」
強靭な前脚から繰り出される一撃。
身を屈めてなんとか避けるものの、次はない。
ドラゴンを背にして、全速力で山道を駆け抜ける。
王国まで辿り着けば、誰かいるはずだ――!
淡い期待を胸に走り続ける。
しかし、ドラゴンは山道を踏み散らかして俺に目掛けて飛ぶように迫る。
「ギャオォォ!!!」
鈍い、背中への衝撃。
爪か。
チリ紙のように空を舞い飛ばされる。
「グッ……ハァッ!」
上空何mから墜落したのだろうか。
ただただ背中が焼けるように熱い。
卵は僕の横で無惨に割れていた。
それを見たドラゴンはさらに怒りが増したのか、赤い皮膚が燃え上がり、激昂の表情を見せる。
「こんなこと……あるかよ……」
勇者パーティを追い出されただけでも不運だというのに、こんなEランククエストでさえしくじって殺されかけているなんて。
ああ、そういえばもうすぐ20歳か。
時計をつけていないから正確な時間は分からないが、王国を出た時間から考えるに、もう幾ばくもないだろう。
父や母に恩返しすることもできないまま、勇者として不完全なまま死んでしまうのか。
ドラゴンの爪は眼前だ。
死ぬ――
そう思ったとき、全身の胎動を感じた。
ドンドンドンドンと、まるで扉をノックするかのように体という殻を破ってなにかが出てきそうだ。
脳内に駆け巡る。
――お前のスキルは今をもって完成した。
そのスキルの名は――
「重力操作・下転!」
俺がドラゴンに手をかざしスキル名を叫ぶのと同時に、ドラゴンの体が100tの重りを乗せられたかのようにミシミシと音を立てて潰れていく。
「ギャオッ……!」
ドラゴンは悲痛な声を上げて、やがて絶命へと至った。
「な、なんだ今のは……俺のスキルは……今完成したって……」
自ら制御が難しい程の魔力の奔流を感じる。
これが……俺のスキル。
重力操作……か。
全身の震えが止まらない。
正に最強。
「これなら……どんな奴が相手でも余裕だ……!」
拳を握りしめる。
俺今――勇者に成った。