第一話 追放
「カイト、てめぇこのパーティから抜けろ」
ギルド内のテーブルで勇者パーティのリーダー、剣士のガイアから唐突に告げられる。
ツンツン頭の金髪が、いつも以上に天を突いているような気がする。
「な、なんでだよ!」
俺は当然理由を聞いた。
勇者パーティの1人として2年間戦ってきたというのに。
「そんなこと、自分がよく分かってるでしょう?」
ヒーラーの女、アイシスが長い青髪の先をクリクリといじりながら追撃してくる。
「君には失望していたんだよ」
参謀の男、パールが畳み掛ける。
メガネを上げる動作が嫌らしい。
「俺だって王様に選ばれた勇者の1人なのに、どうしてそんなこと言うんだ!」
「ああ? クソの役にも立たねぇスキルで2年間も一緒にいてやったことを逆に感謝してほしいくらいだぜ!」
ガイアが眉間に皺を寄せ怒号を発する。
この国では18歳を迎えると、王様より魔力を練り上げてもらいスキルを授けられる。
魔力総量と本人の適正によってそのスキルは千差万別。
俺が得たスキルは《スロウ》。
対象1人の速度を下げるという単純なもの。
確かに、能力としては些か心許無いかも知れない。
だが、俺の魔力量は勇者パーティの中で誰よりも多かった。
スキルが少し弱いだけで、追い出されるなんて。
それに――
「俺だって《勇者の刻印》を手にした1人なんだぞ!」
堂々と右手の甲に刻まれた刻印を見せつける。
スキルを与えられたときに、偶発的に手の甲に刻印が刻まれることがある。
その刻印を勇者の証として、勇者のみのパーティを組みクエストにあたることにする。
俺は勇者なんだ。
「なにかの手違いでしょうねぇ。こんな弱い勇者は、他の勇者パーティを見たって1人もいない」
パールは侮蔑を込めた眼差しをメガネ越しから送る。
「私は……反対です」
ボソリと、俺の隣でラキアが呟いた。
ピンクの髪をおさげにしている、物静かな女の子。
普段こういう場で意見を言う子ではないはず。
「なに言ってんのラキア! あんたもカイトを庇ってケガしたりしたじゃない!」
アイシスが声を荒げる。
「でも、彼は《勇者の刻印》があります。それに彼のスキルが役立つこともあったじゃないですか」
「あったなあ、1000回に1回くらいな」
すかさずガイアが嫌味を言う。
これ以上はラキアに迷惑がかかる。
別にパーティを必ず組まなきゃいけない訳じゃない。これからは1人でやっていこう。
「……分かった。この勇者パーティから出て行く」
「最初から素直にそう言えばいいんですよ。もっとも、あなたのように弱い勇者をパーティに入れてくれるところがあればいいですがね」
ため息混じりで話すパール。
ガイアとアイシスはパールの言葉にニヤつきながら賛同している。
これでいい。
椅子から立ち上がり、ギルドの出口へ向かう。
「カイトさんが出て行くなら、私も出て行きます!」
ラキアは机を勢いよく叩いた。
いつものラキアじゃない。ガイアたちもあぜんとしている。
けど、こんなことで心象を悪くしてラキアが今後ガイアたちと共に戦いにくくなることは避けたい。
ラキアに感謝しつつも俺はそっぽを向く。
「俺のことは放っておいてくれ」
木製のドアを開けて、俺は外に出た。
バタンと閉まる音が、やけに寂しく聞こえた。
◇
「さて、と。これからどうするかなあ」
あてもなくギルドの外に出たものの、このまま家に帰ることはできない。
父も母も、俺が勇者になったと聞いたときは喜んでくれた。
追放されただなんて口が裂けても言えない。
ガイアたちがいなくなるのを待ってクエストを受けるか。
ほどなくしてガイアたちはギルドから姿を現す。
ラキア以外は皆満面の笑みだ。
ちくしょう。
ギルドに1人舞い戻り、受付嬢からクエストを聞く。
しかし、勇者専用のSランククエストを俺1人で出来るとは到底思えない。
渋々掲示板に貼られているEランククエストを選択してギルドを出る。
「はー! やってられねぇなあ」
原因は弱い俺のスキルにある。それは分かっている。
けど――俺だって勇者なのに。
2年間という歳月がなかったかのようにあっさりと切られた。
いや、2年間、あいつらは我慢してきたということか。
既に夕日が沈む時間帯になってきた。
クエストを終える頃には日を跨いでいるかもしれない。
そういえば、明日で20歳か。
勇者になってからの2年間を振り返りながら、山岳へと赴いた。