各国の魔獣掃除人
暗くなった頃、俺達は城の近くまで辿り着き、近くの宿屋に宿泊することとした。
いくら魔獣掃除人と言えど、無許可で入ることが許されているのは国の中まで。
王城へは当日、会議の場所へ案内されるまで入ることは許されない。
国王が住んでいるところに、強力な神獣を連れた他国の人物がうろうろ出来るわけがないのだから当然だよな。
翌日、俺とナイルゼンは城へと赴き、門番に対してエンブレムを見せた。
門番は一度奥へ確認しに行くと、別の人が対応に当たってくれた。
「アルバス=トリガー様、それにナイルゼン=ベール様ですね?お待ちしておりました。こちらへ」
案内してくれている彼はどうやらアトラス王国で言うところの予兆管理処理局と同じ立場の人らしい。
名称はそれぞれの国で違うが、似たような組織はある。
広い城内を案内されて向かったところは一つの大広間。
目立つところではなく、かなり入り組んだ廊下の先にある部屋だ。
ここへ来たことは前に一度ある。
その時はアレクシアの予知の力を知らされるために招集された時だ。
「既に何人かの魔獣掃除人も集まっております」
そう言って案内人は部屋の扉を開けた。
中には大きめの円卓があり、既に席に着いている人達がいた。
扉の入り口から丁度反対側、そこに座っていたのはこの国の上級貴族でもあり魔獣掃除人のダーティスト卿。
御年68歳で誰よりも魔獣掃除人の就任歴が長い人物だ。
入れ替わりの激しいこの職において30年近く就いている。それはつまり、それだけ実力が伴っているということにほかならない。
「アトラスとフォースだな。座りたまえ」
ダーティスト卿に促されて適当な席へ座る。
あの人は俺達を国名で呼ぶ。
名前で呼ばれたことは一度もない。
その理由を師匠は前に、すぐに人が入れ替わるから個人名を覚える必要がないからだと話していた。
「………………」
既に席に着いていた魔獣掃除人にはフェイス皇国のアレクシア=ルーリアもいた。
白色のローブとフード、それに視界を布で覆っており、静かに席に座っている。
隣に立っているのはアレクシアの付き人兼護衛だろう。
本当はもっと人数がいるだろうが、流石にこの部屋の中に許されたのは一人だけなのだろう。
他には科学王国ガイエンスのノア=ガジェット。
彼女は魔獣掃除人であると同時に科学者でもある。
科学者としての考え方や行動が多いが、その性格は協力的で、俺達の活動が便利なものになるために様々な発明をしてくれている。
『帰還指輪』の理論を考え現実にし、それを無償で提供してくれたのは彼女のおかげだという話だ。
年も俺やナイルゼンとそれほど離れていないらしい、いわゆる天才ということだ。
「久しぶりですねアルバス君」
俺の隣に座っていたのは商業都市シャングレーの魔獣掃除人スプライト=ザンビア。
物腰は柔らかく、理知的に話を進めたりする。
商業都市の生まれということで商人かとも思ったが、彼自身は普段冒険家を生業としているらしい。
喋り方や考え方は商人である両親の影響らしい。
30後半で、魔獣掃除人になったのは4年前と比較的遅い。
「お久しぶりです」
「今回招集をかけたのは君だと聞きます。全員を集めるほどの緊急事態なんですか?」
「ええ。一日の猶予も惜しかった」
「それほどですか」
「一体どんな内容なのか気になるわね」
話に入ってきたのはスプライトさんのさらに横に座っているアテナ王国の魔獣掃除人フレニアル=ウォーカー。
真っ赤な髪の毛に赤色のトレンチコートがトレードマーク。
確か騎士の家系だったはずだ。
神獣はもちろんのこと、本人の実力も高いという評判を聞く。
「先に内容を連絡してくれても良かったと思うけど」
「突拍子のない話になりますからね、直接会って話をするまでは信じてもらえないかと思いまして」
「…………ふーん。まぁいいけど」
少し納得のいっていない顔だ。
文面で報告するには少し言葉足らずになってしまう。
端的に「意志のある魔人が現れました」と書いても信用してもらえるかどうか。
それなら内容を伏せたまま集めてもらった方が幾分かマシだ。
当然、ダーティスト卿にだけはある程度の情報が伝わっているはずだけどね。
さて、残るは軍事国家アデルタの魔獣掃除人を待つだけみたいだけど……。
「アデルタはまだか」
「はっ、既に王城には来ていると話がありますので間もなくかと…………」
ダーティスト卿の問いに付き人が答えた。
しばらくすると扉が勢いよく開いた。
「いやぁ遅れてすまなんだ!」
刃先を布で包んだ大きな槍を持った大柄な男が豪快に入ってきた。
彼がアデルタの魔獣掃除人ジャスパー=ジンクスだ。
「この国は面白いものがたくさんあるからなぁ、見て回ってたら遅れてしまったわ!許せ!わはははは」
「さっさと座れ、アデルタよ。そなた待ちだ」
「おお、これは失敬」
遅れたことに対して特に悪びれる様子はなく、ナイルゼンの隣にドカッと座った。
「ようやく全員揃ったようだな。それではこれより緊急招集会議を始める」