入国
ビリャンヘルム王国はアトラス王国の領土と隣り合わせにある。
というよりも、ビリャンヘルム王国はほとんどの大国と面している。
それほどまでに圧倒的な領土と国力があるんだ。
アトラス王国から約3日、ビリャンヘルム王国の領土内へと到達した。
領土へ入ること自体は特段難しい話じゃない。
基本的に国境には属国の兵士がいるが、アトラス王国とビリャンヘルム王国の間には友好関係が生まれており、基本的にこの国家間で境界を渡ることは自由とされている。
なので普通に素通りで領土内へは入ることができるんだ。
そしてここからビリャンヘルム本国へ向かうこと1日、舗装された道を歩き続けるとアトラス王国よりも遥かに大きく荘厳な城が遠目からでも確認できた。
ビリャンヘルム王国に到着である。
「通行証の確認を」
城門の入り口にて警備兵の人から通行証の確認を求められた。
王国内に入るためにはヴィリャンヘルム王国の属国で作成される許可証、もしくは国民である証明のエンブレムを見せなければ本国内に入ることは許されない。
持ち主を殺してエンブレムを奪えば入れる、なんて思うかもしれないが、このエンブレムはガイエンス製のもので持ち主の生体認証でなければ反応せず、特殊な機械によって持ち主でないことがバレてしまうのだ。
もちろん俺はそのどちらも持っていないが、代わりに分かる人にしか分からない魔獣掃除人としての証明となるバッジを見せた。
これはビリャンヘルムの国王から直々に各国の魔獣掃除人に渡された代物であり、全ての王国内への入国を許されるものだ。
「失礼致しました。どうぞお通りください」
このように簡単に通してくれるが、彼らはこのバッジがどんなものなのかは知らないらしい。
上からは偉い人だから無条件で通せとだけ言われているそうだ。
本国内はどの属国よりも広く美しい。
この国ならではの工芸品、建築物、食事、娯楽。
ぐるりと国内を一周見て回るだけでも1週間以上かかってしまうだろう。
だけど今回はそれらを見て回る時間はない。
既に会議の時間まで1日と迫ってきている。
道草食わずに城へ向かわなければ明日までに着かない可能性すら出てくる。
俺が城へと歩みを進めたところで不意に声をかけられた。
「トリガーか?」
振り返ったところにいたのは、おおよそ戦闘員とは思えないほどの軽装に身を包み、腰に刺した長剣が唯一の武器。
髪は赤くスッキリとした顔立ちの好印象そうな青年。
「ナイルゼンじゃないか!」
彼こそは俺と同い年で実力主義国家フォースの魔獣掃除人、ナイルゼン=ベールだった。
彼の強さはもちろんのこと、歳が同じということもあって俺は魔獣掃除人の中でもナイルゼンと一番仲が良い。
「まさか同じタイミングで入国したとはな。半年ぶりか?まだ生きてたみたいだな」
「それはこっちのセリフだよ。お互いしぶとく生き残ってられたみたいだね」
魔獣掃除人は常に死の危険性が伴う相手と戦うことを義務付けられているが故に、今回のように招集がかかった時に顔ぶれが変わっていることは当たり前にある。
だから今の魔獣掃除人はかなりの実力者達が揃っていると師匠は言っていた。
ここ2年、あれだけ魔獣が大量発生しているにもかかわらず、メンバーが誰一人変わっていないというのが証拠だ。
「他のメンバーはもういると思うか?」
「そりゃそうでしょ。一番遠いはずのガイエンスの魔獣掃除人が一番近くにいたって話だし」
「この国は入国してから城まで遠いのが難点だよな」
「それだけ国力の大きさを誇示してる証拠さ」
何度来ても新しい発見がある。
ここはそんな国だ。
入れ替わり立ち替わり、めまぐるしく情勢は動く。
俺とナイルゼンはこれまでの近況報告をしつつ、ヴィリャンヘルム王城へと向かった。
ナイルゼンもまた、半年の間に魔獣一体を討伐しているという。
フェイス皇国の魔獣掃除人アレクシア=ルーリアの『未来視』によって魔獣の発生からまだ間もない段階で討伐することができたそうだ。
やっぱり彼女の力が魔獣掃除人の生存率の高さに直結しているといっても過言ではない。
この発生率のまま彼女をもしも失うことがあれば、それは人類の全滅を意味する。
「アレクシアにおんぶに抱っこって感じだよな」
「ただ、彼女が活躍すればするほどフェイス皇国の発言力が大きくなるって問題視されてる声も上がってるらしいよ」
「はぁ?どうせ権力争いしてるどっかの国の貴族どもの声だろ?アレクシアがいなけりゃお前ら諸共死んでる可能性もあるのによ。実際に戦ってる俺らの身にもなれってんだ」
ナイルゼンが憤慨するように言った。
彼はアレクシアのことを高く評価している。
かくいう俺ももちろんアレクシアに感謝しかない。
先日の意識のある魔人だって、彼女が予知してくれていなければリオナは殺されていたかもしれない。
「ちなみに今回招集された詳しい理由って分かるか?緊急招集なんて滅多にないからよ」
「ああ、それなら今回招集をかけてもらったのは俺だよ。すぐに共有すべき情報があるんだ」
俺はナイルゼンに森で出会った魔人のことについて話した。
意識があり、会話も可能だが紛れもなくその体には黒いオーラを纏っていた魔人そのものであったこと。
さらには、魔物ではあったけど魔獣もどきのような生物も手下として使っていたことを。
「はあ!?んだよそれマジで言ってんのか!?」
「間違いないよ。俺はこの目でしっかり確認したし、奴も自分を魔人だって認めていた。そこできっちり仕留められなかったことが悔やまれるけど」
「トリガーですら取り逃すってことは、相当厄介な奴らしいな…………。そりゃ確かに一刻も争う案件だわ」
ナイルゼンにも緊急性の高さを理解してもらえたみたいだ。
もしも今後、奴のような知性のある魔人が生まれ、奴ほどの強さを持つ魔人、魔獣が増えるとすれば、アレクシアの予知なんてものは関係なく、世界は終わる。
知っていたとしても、対処ができないからだ。
「明日まで待ってる場合じゃねえ。急ごうぜ」
「走るか」
俺達は少し駆け足で王城へと向かった。
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