課題
【リオナ=ベルガード】
結局、あれから王国に戻ってくるのに5日間もかかってしまった。
他に残された魔物を調べるために森の中をくまなく調査して、その結果を報告書にまとめて、1日の休息を取ったのちに帰還したからだ。
結果的に噂されていたのは、あの男が従えていた魔物達のことで、フォース国の人がちょっかいをかけてきているという事実は確認することができなかった。
アルはもう随分前に帰ってきてるんだろうなぁ。
朝早くに出て来たおかげなんとかお昼過ぎにはお城に帰ってくることができた。
さっそくまとめた資料を騎士団長に報告して───。
「リオナ嬢じゃないか」
「ヴァリアスさん」
アルの師匠でもあるヴァリアスさんと偶然にも出会った。
「今帰って来たのか?」
「そうなんですよ。思ったよりも時間がかかってしまって」
「ちょうど良かった。今から面白いものが見れるんだが、リオナ嬢も来ないか?」
面白いもの、ってなんだろう?
報告書を持っていかなきゃいけないんだけどなぁ。
「アルバスとギルバート家の長男の決闘だ」
「行きます!!」
少しぐらい報告書は遅れても平気だよね!!
───────────────
─────────
──────
三番隊騎士団が使用している演習場にヴァリアスさんとやってきた。
既に演習場の中心にはアルとエルロンドがおり、審判役として三番隊隊長のマークス=エコーさんが二人の間に立っていた。
そして周りの見学席には暇にしていたのか騎士団の人達が多く詰めかけている。
私達も少し離れたところから二人を見ることにした。
「もうすぐか」
「それにしても、どうして二人が戦うことになったんですか?」
「知りたいかい?」
「え、ええ。まぁ」
なんだろう。
少し含みを持たされてる。
「アルバスがこの試合に勝つことが出来たら教えてあげよう。彼の名誉のためにもね」
「実際、アルが負ける要素ってないですよね?アルが持つ神獣、ナナちゃんは五ツ星なんかよりも遥かに強いわけですから」
私の神獣、純白の獅子王が手も足も出なかった相手を、進化したナナちゃんは一撃で倒した。
そんなアルの神獣を私よりも弱いであろう四ツ星の神獣持ちであるエルロンドが勝てるとは到底思えない。
「そのことだが、今回アルバスには一つ課題を出させてもらっている」
「課題、ですか?」
「ああ。それは、ナナドラのスキルを使わずにギルバート家の長男に勝つこと」
ナナちゃんのスキルを使わずにって…………つまり進化させるのは禁止されてるってこと!?
そんな、いくらなんでもそれじゃあアルが勝てるわけないよ!
「ナナちゃんは0ツ星ですよ!?人間の子供と同じくらいのステータスしかないのに、勝てるわけないですよ!」
ナナちゃん自体は前代未聞の0ツ星。
私の知っている頃よりレベルが上がっているにしても、ステータスが跳ね上がっているとは考えられない。
「歓喜の龍神にでもすれば勝負は一瞬でケリがつくだろうな。だけど少し考えて欲しい。相手は騎士団所属の騎士で、かたや一方は名の知られていない冒険者だ。そしてこの会場には多くの騎士が見に来ている。その中で四ツ星を一瞬にして倒す神獣を披露するとどうなると思う?」
「………………アルを騎士にする話が持ち上がる?」
「そのとおり。長男やリオナ嬢との関係性からアルバスがこの国出身だということは直ぐにバレるだろう。すると国防を担う騎士団からすればアルバスほどの人材は喉から手が出るほど欲しいはず。そうなればどんな手を使ってでも騎士団に入れようとするだろう」
アルが騎士団に…………?
………………良いことなんじゃないかな。
私としてはアルが騎士団に入ってくれれば一緒にいられて嬉しいし。
「問題あるんでしょうか?」
「大アリだ。彼は既に魔獣掃除人として職務を全うしている。そしてその仕事は不定期に訪れる。もし騎士団に所属したとなれば、誰かがアルバスの行動を不審がるぞ。いいかいリオナ嬢、君は特例を許されているが、本来魔獣掃除人というのは限られた少数の人間にしか知られていない。この国で魔獣の存在について知っているのは恐らく国王陛下、宰相ヴェンゲル様、騎士団長、予兆管理局の職員、そして君ぐらいのものだ」
そうか…………。
アルはもう私とは違う世界で戦ってるんだ。
この国に留まるだけじゃなくて、世界を舞台にして活躍しているんだ。
騎士団なんかに収まる器じゃないよね。
「リオナ嬢も五ツ星の神獣を手に入れた時、騎士団以外の選択肢を設けてはくれなかっただろう?アルバスの神獣が最強だとバレれば、その時の比ではないだろうな。だから課題と称してスキルを使うのは禁止した」
「そう…………ですね。私も今のアルはとても生き生きしているように見えます。騎士団に所属するよりもよっぽどいいですよね」
「ああ。それに、ナナドラのスキルが使えなくとも心配はいらないだろう。アルバス自身の実力も、当時とは比べ物にならないぞ」
当時の学園生時代でもアルの剣術はトップだった。
それよりもさらに成長したってことだよね。
ますますアルの試合が楽しみになった。
「頑張れアル!頑張れ!」
私の声が届いたのか、アルはこちらを見て少し驚いた後、ニッコリと笑って手を振り返した。