報告
師匠に促されるようにして国王陛下の元へと向かった。
アポイントを取っているわけではなかったが、国王陛下には突発的な謁見を許されている。
というのも魔獣掃除人というのは国王直下の役職となるため、ある程度の特権は与えられているのだ。
国王陛下に会うのも任命式を受けた時以来なので3年ぶりになる。
無礼のないように振る舞わねば。
師匠が王室の扉に向けてノックする。
「入れ」
「失礼致します」
師匠に続いて王室へと入った。
国王は書類に目を向けており、未だ誰が入ってきているのかは分かっていなかった。
俺と師匠は頭を下げた。
「国王陛下。予兆管理局員ヴァリアス=シューター、並びに魔獣掃除人アルバス=トリガー、長旅より戻ってまいりました」
「ん……? おお、久しいな。お主らの働きはワシの耳にも聞き及んでいるぞ」
ここで初めて国王は入ってきたのが俺達であることに気が付き、柔らかな笑みを浮かべた。
本来であれば国政の書類などやらなくてもいい立場のはずなのに、この人は率先して業務を行なおうとする。
人徳に優れ、国民からも熱い信頼を寄せられている昨今には珍しい国王、とも言われている。
「3年ほどか、お主らが出て行ってから」
「はい。長く留守にしてしまいました」
「お主らの仕事はこの国に限らず世界を救っている。誇るといい。して、今日はどうした?故郷が恋しくなったか?」
「そのことですが、早急に連絡してほしい案件が」
師匠はアイトヴェン町の外れにある森林地帯で起こったことを事細かく説明した。
俺はそれに対して時たま相槌を打っている程度で、状況説明についてはほぼ師匠が行った。
「このように、意志を持った魔人というものが魔獣を使役する事案が発生したのです。つきましては、早急に7大国の魔獣掃除人に対して緊急招集会議をかけてほしいのです」
「意志を持った魔人…………」
話を聞いた国王は静かに唸った。
過去数百年の歴史においてそんな魔人が発生した歴史はない。
こんな突拍子のない話を聞いても信憑性について疑うのが普通だろう。
「うむ、分かった。すぐさま手を打とう」
しかし国王も魔獣の脅威については誰よりも理解している。
魔獣の発生によって過去何度も世界が滅亡の危機に陥っている記録が存在する。
魔獣に関する情報は疑うよりもまず対策を講じ、その上で真偽を調査していくのだ。
動き出しが遅れればそれは死に直結する。
「各国の魔獣掃除人には連絡をし、恐らく開催場所はいつもと同じくヴィリャンヘルム王国となるだろう」
「ありがとうございます」
「ついでと言ってはなんだがアルバスよ。お主はこの3年間で魔獣掃除人として充分な働きをしていると聞いている」
「それはもう。彼は先代のトウゴウよりも魔獣討伐に関しては実績を残しています」
師匠が珍しく俺のことをハッキリと褒めた。
調子づかせるからと言って、普段は褒めるようなことは全く言わないのに。
「そこでだ。彼を一人前と認め、ヴァリアス、お主には予兆管理局の元へと戻ってもらいたい。今後、アルバス単独で魔獣掃除人として動いてもらう」
師匠が……行動を別にする?
いつかはそういう日が来るものだとは思っていたけど…………なんというかいきなりだ。
「…………それはまた随分と…………唐突ですね」
「ここ2年で魔獣の発生が世界で多発していることは当然知っているな。その関係で予兆管理局がかなり駆り出されていてな、人手不足が深刻化しておる。お主にはそちらに戻ってパンクしないようにフォローしてもらいたい」
予兆管理局は魔獣が発生しないようにアトラス王国、並びに属国の全ての状況を把握し、魔獣発生の予兆があれば迅速に対処する組織である。
詳しい仕事内容については俺も聞かされていないが、師匠が言うには毎日危険人物に関する書類がまとめられてくるため、尋常ではないほど忙しいということだ。
冒険をしているほうがよっぽど気は楽らしい。
「ヴァリアスが戻ってくれればかなり負担が軽減されるだろう」
「……了解致しました。それではすぐにでも局の方へ戻らせて頂きます」
「頼んだぞ。アルバスよ、これからお主は一人になってしまうが何か不安なことはあるか?」
不安なこと……。
この3年間で俺は多すぎるほどの教えを師匠から教わった。
最初は好きになれないなんて思っていたが、この人の戦闘スタイル、知識量は確かに国にとって重要な存在だと思わされる。
これでもまだ一人にされると不安だ、なんて弱音を吐いていたらあの世で父さんに笑われてしまう。
「何もありません。師匠、3年間という長い期間ありがとうございました」
俺は素直に頭を下げた。
「ああ、お前はもう立派な魔獣掃除人だ。もしもの時は頼らせてもらうからな」
「そのもしもが起きないようにお願いしますね」
「言うじゃないか」
俺は師匠と握手を交わし、ニヤリと笑った。
「緊急招集会議については改めて連絡しよう。それまではアルバス、城内に留まっておいてくれないか。部屋を用意させよう」
「ありがとうございます」
その後、国王は使用人を呼び、俺を客人用の部屋へと案内させた。