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変化とは別の変化を準備する

美しい金髪が床に扇状に広がりまるで人間モップ掛けを披露してくれた辻先輩だが、そんな曲芸を披露されても全然嬉しくない。

洋画ホラーのワンシーンそのままの金髪をズルズルと引きずり、床を這いつくばりながら辻先輩は俺の足首に縋り付く。

「のう〜一樹ぃ〜今生のお願いじゃ〜我の家につい来て欲しいのじゃ〜今晩は我の家でご飯食べても良いから〜家族と弟に、我の所行をお前の口から説明してくれんかのぅ」

見た目だけ見れば、超絶完璧な幼女の辻先輩が金髪を振り乱しながら、俺の裾に縋り付いている。

正直な所、縋り付く辻先輩に心が揺らがない筈もなく『まぁ、説明ぐらいなら別に行ってあげない事もないんだからね!』という自称ツンデレの俺が顔を覗かせるが、雛はそんな辻先輩を俺から引き剥がす。

「一樹、辻先輩を甘やかすんじゃないわよ。自分で引き起こした問題は自分で、それでも駄目なら全員でが、私達のクラブのモットウでしょう?」

雛はどうも年齢見た目に関係なく同性に厳しいきらいがある。

こんな幼女が涙ながらに頼むんだからいいじゃないか!

とも思うが、雛の言う通りクラブの規定には従った方がいいだろう。

なんでも人に頼り始めれば、誰かに頼らなければ生きていけなくなってしまう。

特に『ユーフォリア』なんてものを持っている俺達だ、頼る事が常習化する様になれば、自身の在り方を見失い自身の一部である『ユーフォリア』が自身に牙を剥く。

「雛の言う通りです。とりあえず辻先輩は今日弟さんに記憶を返して謝ってあげてください。それでも駄目なら明日俺が直接辻先輩の家に行って説明するので」

「そんな事してやる必要ないんですけど〜一樹。この人一回ちゃんと怒られないと、自分のやった事理解しないわよ」

指定の席に座った雛は持参のお菓子を片手に校内持ち込み禁止の雑誌を捲りながらどうでも良さそうにお茶を一啜り。

そんな様子を見た辻先輩は雛が持って来たお菓子を横からひったくる。

「お前は嫌いじゃ!あと、この菓子はもらっておくのじゃ!」

「あっ!ちょっと勝手に人のお菓子取らないでほしいんですけど!」

辻先輩は早くも口いっぱいに頬張り空になった口からベッと舌を出し、猫なで声で俺の方へ向き直る。

「のう、約束じゃぞ〜一樹ぃ、絶対じゃからな〜明日我の家に来てくれなかったら我泣くからのぅ〜」

正面から抱きついて来る辻先輩は羽毛より軽く、どんな癒しより優れた万能薬でもある。

無論俺も、患っていた全ての病いを克服し、大地は芽吹き、鳥は囁き、運河は清らかな水を海へと運んで行く……まぁ何が言いたいかと言うと俺にもよく分からないが、とにかく辻先輩は森羅万象を司っていると思ってもらえれば大体合っている。

「分かりましたから……それから、雛も本気で怒るなよ。こんなに可愛い子供のやったことじゃないか」

「怒るわよ!だってこれよ!これ!十八年間も何を学んだらこんなになるのよ!」

幼女が勝手にお菓子を食べる事以外に

「コレではないわ!雛!貴様は我を舐めとる!コレでも我は年上なんじゃぞ!」

「年上なら、人の買って来たお菓子を横から許可なく取ったりしないで欲しいんですけど!というか、一樹!アンタは見た目に騙され過ぎよ!本当なら十八よ!こんな幼女の訳がないでしょ!」

幼馴染みとはいえ、時々俺は雛の言う事が分からなくなる。

いやはや、最初から分かっていたとは言え俺と雛は違う人間だ。

長い時間を共にしたとはいえお互いに理解し得ない事は多々あるだろう。

空の青さ然り、花の美しさ然り、それぞれが持つ情緒というものがあるのは確かだ。

一輪の花を見ても何も思わず踏みにじる者も居れば、一目見て涙を流す者も居る。

だが、共通認識として人は多かれ少なかれ持つ意識というものがあるだろう。

例えばそれは命を尊ぶ心であったり、子供を慈しむ感情であったり、はたまた辻先輩が完成された幼女という事を受け入れる事だったりする訳だが……

『本当なら十八?こんな幼女なわけがない?』コイツは何を言っているんだ?

金髪碧眼、完成されたつるぺた幼女。

これ以上歳も取らないし、若返る事も俺は許さない。

今のこのサイズ感、実に持ち運ぶには丁度いいサイズじゃないか。

一体全体、雛は辻先輩の何が不満なのか俺にはさっぱり分からない。

「なに言ってんだよ、今の姿こそ辻先輩の本当の姿だろうが、これ以上は成長しないし、今こそが辻先輩の完成された姿なんだぞ?」

この世に神は居なくとも金色の髪を靡かせた辻先輩が居るのなら、もうそれだけで良いじゃないか。

たとえ口が悪くとも、人のお菓子を横取りしようと可愛い幼女ならそれでいい。

「あんた……本当辻先輩の話しだと頭も理性も壊れるのね」

ドン引きしている雛だが、むしろ何故理解出来ないのだろうか?

俺が壊れる?それは違う。

俺は壊れてなどいない、仮に壊れていたとしても今の俺が完成された姿なのだ。

「俺は辻先輩を初めて見た時、俺は心に決めたんだよ。あぁ、この人は幼女になる為に生まれて来た人なんだって、だから俺は少なくとも辻先輩が高校に居る間は絶対に辻先輩には歳を取らせない」

「アンタの言ってる事聞いてたら鳥肌立って来たんですけど……」

「なっ……なんじゃか今日の一樹は熱烈じゃの。まぁじゃが悪い気はせんでのよいよい、一樹が我の味方になるというのなら丁度良いからの」

『どうじゃ!見たか!』と雛へ勝ち誇る、辻先輩に雛は心底うざったいと雑誌へ視線を移した。

「辻先輩、この事は熊谷先輩に相談させて貰うんで覚悟しておいて下さいね」

途端、子供特有の腹立たしい程の甲高い声で笑っていた辻先輩の高笑いはピタリと止まる。

「……嘘じゃよな?雛?すまぬ、我が悪かったのじゃ、我のお小遣いで新しいお菓子を買って来ていいのじゃ、だから熊谷には言わないで欲しいのじゃ……」

小さい手を賢明に彷徨わせ、ハタと思い付いた辻先輩はブカブカの制服のポケットに突っ込むとポケットに入っていた全財産である小銭を雛の雑誌の横にチョコンと広げた。

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